第2話 竜殺の破邪王
上級火竜。
魔物図鑑の設定では“魔王バエルが他の魔王に対する切り札として育成された竜”だという。
視認した瞬間に表示されたレベルは、78――当然だ、ゲームではコンウォル戦記編も終えた時に配信されたストーリー“第二章 シン戦記編”で出現するフィールドボスなのだから。
しかし、レベル78は確か出現する68~78の乱数の中で、最高レベルの筈。
何者かの意図が絡んでるんだろうか、と考えていると、上級火竜が口からまるで隕石のような火の玉を吐き出した。
このゲームが現実となった世界で、喰らえばどうなる――――?
俺は片手を上げ、その場で静止すると――。
HPバーが表示され、130ある内の3、減った所で止まっていた。
周りは焼け野原になっているが、炎を踏んでもダメージの加算や熱を感じる事は一切なかった。
悪魔属の耐性として、火、炎系統への耐性がある。
更に、恐らくこのスリップダメージ無効が働いているのだろう。
つまり――火竜にとって、俺のような悪魔属は天敵という事だ。
「その程度か」
片手で、火球によって出来た炎の壁を薙ぐと、片手に武器が握られていた。
戦闘時となると、自動的に武器が握られるのか。
その便利さに、少し笑みがこぼれると、火竜は口の中に火球を溜め込み、放とうとする。
刹那、俺は呪文を唱えた。
「“暗黒竜星群”」
赤黒く、その中に紫のラインが入った大鎌、“気まぐれなる運命”の先端を火竜に向ける。
すると、深紫の、竜の頭部の形をした巨大な弾丸が肩を高速で何度もすり抜けていき、火竜を追う。
火竜がその弾丸から逃げるべく、上へと一回転するが、黒い竜は大口を開け、その体の四方を囲み――包み込んだ瞬間。
火竜の居た位置に、HPバーが表示され、緑から一気に灰色へと変わって行った。
戦闘が終わったと思い、周囲を見てみると、竜の放った火球によって建物の一部が崩壊しているらしかった。
「誰も犠牲にならなくてよかったね……! 流石クウだよ」
そう言って、隣で小さくガッツポーズをするシオン。
火球の命中した箇所が崩壊し、ガレキの表面には焦げた形跡が残っている辺り、この世界はどうやら完全にゲーム世界そのもの、という訳ではないらしい。
顎を擦って観察していると、上から小さな影が下りている事に気がついた。
影の方を振り向いてみると、そこにはデス・アイ……一つ目で触手の付いた魔物が浮かんでいた。
レベルは40程で、それでもこの周辺では見かけず、コンウォル平原の洞窟に行ってようやくレアエンカウントする魔物。
火竜を見て分かった事だが、俺とはレベル差がある筈なので無視しても良いが、催眠や混乱を使って来るので生かしても面倒なだけだろう。
軽く“気まぐれなる運命”をデス・アイに向かって投げると、デス・アイは両断され、完全に消滅していった。
そろそろ、火竜を退治し、街に平和が戻ったともなれば人も集まってくるだろう。
――そうなれば、コミュ障の俺にとって面倒な対応が増えるだけだ。
俺は人が集まる前に、シオンを呼んで手を握り、“拠点の石”を握って拠点へと急ぐことにした――――。