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第1話 クリア後の世界で


 ゲーム序盤のメインストーリー“コンウォル戦記編”の舞台、コンウォル王国。

 簡単に言えば、ロマネスク建築の建ち並ぶ、中世ヨーロッパの雰囲気や文化をイメージそのままにしたような場所だ。

 メインストーリーをクリアした今では、序盤の町を攻略した際に手に入る、“移動の石”を握って念じればその首都に行くのはあっという間だった。

 

 街の中は賑やかで、見た所NPC――いまや町の人と呼ぶべきか? も普通に布袋やかごを手に持って談笑したり、遠くでは巡回している兵士も欠伸を堪えつつ、棒立ちの状態から膝を屈伸させたりしている。

 なるほど、本当に皆生きているようだ、と思うと徐々にお腹が痛くなってきた。

 

 俺の予感が当たれば――と考えたところで、子供の声がした。


「あ! 英雄のお兄ちゃん!」


 声のした方を、あえて振り向かないように努めたが、どうやら無駄な努力だったらしい。

 子供は俺の周りを取り囲み始め、その中には声の主だろう子も居た。

 よく子供の外見を見てみると、ゲーム内では見かけないような子供もちらほら混じっている。

 ――神曲戦記では、ゲーム全体では余り珍しくないかもしれないが基本モブは固定衣装グラフィックの中から何種類かの色違いで統一されていた。


 この世界がゲーム通りなら、俺の予想ではモブ顔の固定グラフィックで統一された、まるで人形のようなNPC――否、こうして命を持っていると思われる以上現地民、現地人と呼ぶことにしよう。

 子供達は皆、澄んだ純粋げな目を輝かせてこちらを見上げている。

 自身の信じている英雄、その中身がコミュ障のゲームオタクとも知らずに。


「ねぇ、魔王バエルを倒した時の話聞かせてよ!」


 魔王バエル、懐かしい名前だ。

 確かメインストーリーでこの国に侵攻した悪魔軍の総大将で、第一章の終盤ではレベル65というレベルで主人公と一騎打ちした、メインストーリーでも人気ある敵キャラクターだ。

 しかし、思えばこのゲームにおいて敵の人外と主人公との実力差は拮抗はすれど完全勝利ではないというのが強く描写されていた。

 バエルとの一騎打ちにおいて、最後に火山の火口で戦っていた時でさえそうだ。

 戦闘で勝利後、ムービーが入ってバエルの魔術によって主人公は吹き飛ばされ、転がって止めを刺そうとした瞬間足場が崩れていき、死なばもろともと、主人公の足にしがみついていたが手を剣で斬られ、火山の中に消えて行った――というのが奴の最期だ。

 

 悪魔属の場合、彼にとっての裏切者という扱いで、最初コンウォルでは主人公は差別されていたものの、バエルを倒した功績で称えられて見事英雄視されるようになり、旅の門出を祝われる――というのが大まかなあらすじだった筈。

 ――となると、この世界において敵キャラクターは“ゲーム内設定通り”、俺よりはるかに強くなっている可能性もあるのか……?


 そう回想していると、シオンが笑って対応してくれた。


「こらこら。クウは一人しか居ないからちゃんと待ってね。ね、クウ」


 子供達の前で微笑んだ後、こちらに向くシオン。

 “話してくれるよね”とでも言わんばかりの期待に満ちた眼差しの数は、結局静止されたかに見えてその実一人分増えただけだった。

 観念して、腹をくくるしかないようだ。


 深呼吸して、咳払いする。


「じゃあ話すよ。アレは確かもう14年前の事だったかな」

「やだなぁ、つい2年前の事でしょ?」


 シオンの発現に、全身の血が引ける。

 そうだ、確かゲーム内では2年の間にメインストーリーが終わるというものだった。

 2年に14年、今までを含めれば15年と少しが濃縮されているという事は――ええと、考えやすいように少しを抜いて5475日が2年という事になるから……。

 1年が、2737日なのか、この世界は?

 

 ふと、小賢しい質問をしてみるとしよう。


「その前に質問。1年は何日だ」


 子供達が手を挙げ始める。

 その中の一人を適当に指さすと、子供が嬉し気に返す。  


「2737日ー!」


 やはり予想通りか。

 あとでメモしておくこととしよう。


 そう思うと、目の前が一瞬暗くなる。

 何かが上を通ったのだろう――特にこのフィールドなら、中ボスあたりでレッサーグリフィンや亜竜なんかが出てきてもおかしくはない。

 空を見上げると、そこにはありえないモンスターが居た。


 真っ赤な鱗に覆われ、巨大な翼をはためかせる、二本角の西洋竜のイメージそのものの外見の主。

 ここには居るはずの無い、“上級火竜グレーターフレアドレイク”だ。



「な……なんで?!」


 シオンはどこからともなく、槍を取り出しながら目を丸くしていた。

 対して子供達はドレイクの方へ向いて目を輝かせ、“かっけー”“ちょっとかわいいかも”“英雄になるとドラゴンも呼べるのか”なんて呑気に言っている。

 周りを見てみると、人々は狂乱し、その存在に気付いたらしい王国兵達は、城門へと急ぐ民達の背後に回って大盾を構え、あるいは両脇を固めるように侍っていた。

 

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