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悪辣の徒  作者: 瓶覗
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8 予定

 無事に武器を手に入れた二人は、湖のほとりに小さな小屋を作って羽を休めていた。

 アグリムが斧の使い勝手を確かめるために切り倒した木を組んで、ログハウスのような小屋にしたのだ。

 簡素なつくりだが雨風はしのげるし、そもそも長居する予定でもないので一時の家としては十分なつくりになっている。


 斧はアグリムの手に馴染む丈夫な物になったようで、いつにもまして機嫌がいい。

 アグリムの機嫌が良ければフェイも機嫌がいいので、二人揃って上機嫌に湖畔での暮らしを楽しんでいた。


「アグリム様、魚が焼けましたよ」

「おう。見ろフェイ、渡り鳥だ」

「本当ですね。もう鳥が北へ行く時期ですか」


 昼食がてらアグリムが素潜りで捕まえた魚を焼いていたフェイは、示された先にいる鳥を見てそろそろ暑くなってくる時期か、と実感する。

 雪山にしばらく居たからどうにも平地の季節についての感覚がズレていたようだ。


「次はどこへ行こうか」

「暑くなってくるのなら、涼しい所がいいですね」

「とはいえ山にはしばらく居たしな……滝つぼにでも行くか?」

「大滝ですか?……そうですね、いいかもしれません」

「それか海か。またしばらくこのあたりは騒がしいだろうからな」


 自分が騒がせている事を丸々棚に上げて、アグリムはフェイと次に行く場所を考える。

 涼しい場所といえば水の傍だ。雪山では涼む楽しみもないので、しばらく向かうつもりはない。

 大滝も海の先の無人島も、どちらも行ったことがある場所なので何となくの過ごし方も分かっている。


「……久々に、知らぬ土地に行くか?」

「そう、ですね。王都の周りは、もう大体知っている土地ですし……」

「なら、さらに西か。砂漠もあると言っていたな」

「はい。国境を越えたその先に」

「涼めはしなさそうだが、いいか?」

「勿論です。アグリム様と行くならどこだって」


 二人で焚火の前で焼いた魚を食べながら笑い合い、次の目的地を定めた。

 この王国で捕まりはしたが、二人は別にこの国の出身でもなければずっとここで生きてきたわけでもない。

 国境などという目に見えないものに遮られる事は無く、好きなように行きたい場所に行った結果ここまでたどり着いているだけなのだ。


 通って来た場所では基本的に悪名が轟いているが、それも最早どうでもいいくらいにはあちこちに行ってきた。そもそも気にしていないが。

 言葉は通じなくても特に困らなかったし(なにせ基本対話無しで奪い取るので)どうしても必要ならフェイがいつのまにやら覚えて話していた。


 そうしてしばらくその土地に居ると、アグリムも基本会話くらいは出来るようになるのだ。会話などしないので覚えてもあまり意味はないが。

 まぁ、フェイから新しい言葉を教わるのが楽しいから覚える、というのが主な動機なので、会話する相手はフェイだけで構わない。


「いつ行く?」

「いつでも。……あ、でも、もう少しで完成なのでそれが終わってからがいいです」

「あぁ。急がんからのんびりやれ」


 フェイは今、ドラゴンの小さな鱗を首飾りにしようと手仕事をしているところだった。

 街でついでにと入手したレース編みの糸とかぎ針を使ってネックレスの大部分を作り、その先にうっかり肌が切れないように周りをレースで囲った鱗を付ける予定だ。


 綺麗な薄緑の鱗をじっと見ていたのをアグリムに気付かれ、それならと細かい鱗も剥いでもらって、アグリムが湖で悠々泳いでいる時間などを使ってちまちま編んでいた物がもう少しで完成する。

 汚れやすくはあるだろうが見た目を重視して白い糸で編んだので、中々綺麗に仕上がっているのだ。元々こういう細かいことも得意ではあったが、二年間の城勤めでなおの事得意になった。


 案外無駄にはならない、と思いつつ、ついでならアグリムの装飾品も何か作りたくなったので、大きさの似ている鱗を二枚、耳飾りにする予定でもある。

 こちらは一応鱗の淵を潰して切れないようにして、シンプルにそのまま耳飾りの金具を付けるつもりでいる。金具が無いので、出来る作業は途中までだ。


「アグリム様は、砂漠に行ったことはありますか?」

「近くを通ったことはあるが、砂漠の中までは行かなかったな」

「ではアグリム様も初めてなのですね」

「あぁ。見るもの全てが知らんものだろうな」

「楽しみですね」

「そうだな」


 のんびりやれとは言われたが、次の楽しそうな予定が決まってしまったからには早く終わらせてそちらに行きたい気持ちが高まる。

 お昼ご飯の魚を食べ終わったアグリムはまた湖を泳ぎに行くようなので、フェイはその間に編み物の続きをやることにした。


 今はレース編みで作っているけれど、アグリムのピアス用の金具を手に入れるついでにこのネックレス用にも何か探してみて、一部は金属にしてもいいかもしれない。

 そんな風に楽しい予定を考えながら進めて行った作業は機嫌のよさが編む手にも伝わったのか、いつもより進みが良くてもう本当にもう少しで終わる、という所まで進んだ。


 これならもう数日もあれば荷物を纏めて砂漠へ向かえるだろう。

 その時に今回作ったログハウスをどうするかは決まっていないが、残して行っても構わないかもしれない。

 痕跡になるような物は残して行かないし、自然に朽ちるなり誰かが使うなりするだろう。

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