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悪辣の徒  作者: 瓶覗
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40 魔王

 兵隊を殺した。街を燃やした。それまで興味が無ければ放置していた人間まで、残すことなく滅ぼしていった。

 今までとは目的が違うのだ。

 今までは、暇つぶしだった。今では、滅亡が目的だ。


 抵抗する者も、無抵抗な者も、全て一様に殺した。

 アグリムにとって人は、フェイとそれ以外に分けられる。

 唯一で最愛だった女を失っては、世界は全て無価値になった。


 酷くつまらないが、それでも足は止まらなかった。

 弔いの為に世界を滅ぼす。そんな話をした時に、フェイは楽しそうに笑っていたから。

 滅ぼした村を空から眺めて、その時の事をぼんやりと反芻する。



 そんなことを繰り返して、いつの間にかアグリムは「大犯罪者」ではなく「魔王」と呼ばれるようになっていた。



 腰に下げたフェイを入れた瓶は、傷一つない。

 酷く小さくなってしまったから、常に魔法で保護をかけることも簡単になっていた。

 そこに着けていた竜鱗のネックレスは、一度彼女が作ったレース編みの部分がほつれてしまったから全て金属でつなぎ直した。


 他の人間が作ったレースでは納得が出来なかったのだ。

 フェイの瓶の変化はその程度だが、アグリム自身にはそれなりに変化があった。


 身に纏う色は紫が多くなった。もう見られないフェイの髪色に近いものを見つけては、手に取ってしまうから。

 以前よりも食事や睡眠が必要なくなった。人間のついでに、目についた竜種を滅ぼして浴びた魔力のせいだろうか。

 適当な動物に魔力を注いで、変質させられるようになった。まさしく魔王のような力だ。わざわざ注がなくても、アグリムの傍に居るだけで魔力に当てられるようではある。なおの事魔王らしい。


 世界を滅ぼして回って、時折フェイと見た景色を見にも行った。

 フェイの瓶を持ち上げて、日の光が反射している様子を見ている時だけは、心も多少安らいだ。


 人の気配のする方へと移動していくアグリムの元には、時々人間がやって来ることがあった。

 大抵は、アグリムを倒そうとする者たちだ。

 年若い者が多かった。一人の時もあれば、四人程度で来ることもあった。


 アグリムには分からない言語で何かを叫んでいることもあったが、気にせず全て殺したので何を訴えていたのかは謎のままだ。

 別に理解したいわけでもないので、構わないが。



 そんな風にひたすら破壊と殺戮を繰り返していたアグリムの元に、再び人間がやって来た。

 このところアグリムの周りでは、アグリムの魔力に当てられて変質した動物や人間の死体が魔物となってうろつくようになっており、人が近付くことは少なくなっていた。


 フェイと居た時と違い周りの一切に気を使っていないので、魔力も常に垂れ流しになっている。

 アグリムの魔力は暴力的で、その魔力で作られた魔物たちですら一定距離には近付いて来られないほどだ。

 そんな場所に、その男はやって来た。


「なんのためにこんなことをしているんだ!」


 叫ばれた言葉は理解できるものだったが、アグリムは返事の代わりに魔法を放った。

 男はまだ死んでは居なかった。

 久々に多少骨のある人間が来たのか、と斧を手に持つと、男は再び叫ぶ。


「お前の目的は!」

「弔い」


 一声返して、斬りかかる。

 これもまた防がれた。反撃を避けて空を蹴って崩壊した建物の上に乗り、上から魔法を落とす。

 まだ、死んでいない。中々しぶとい。


 何度か斬りかかって、魔法を撃ちこんで、それでも男は死ななかったが確実に傷は増えて行った。

 そろそろ終わりか、と斧を構え振り下ろす。それが当たる直前に男の身体は光に包まれて、斧は空を切った。どうやら、何かしらの手段で逃げたらしい。


 中々死なない相手も久々だったが、逃げられたのは殲滅を始めて以降初めてだ。

 どこへ逃げたのだろうか、と少しあたりを探ってみたが、見つからなかったのでやめる。付近には相変わらず、魔物も人間も居はしなかった。


「別の人間の血統魔法か」


 転移系の魔法が、確かあったはずだ。

 アグリムは詳しく覚えてはいないが、フェイが存在すると言っていた記憶がある。

 血統魔法は一般的な魔法に比べて複雑で高度なものが多い。魔法で転移したとすれば、血統魔法か古代魔法道具化、その辺のいずれかだ。


「フェイが居たら、分かったんだろうけどな」


 瓶を撫でながら呟いてみても、返事はない。

 ともかく逃げられてしまったのでは仕方ないので、アグリムは再び移動と殲滅を再開した。

 今回は少し休憩しようとこの場に留まっていたのだが、先ほどの戦闘が途中で終わってしまったので何となく気持ちが悪い。不完全燃焼のまま休んでも大して休まらないだろう。





 そうして、各地を移動して相も変わらず人を殲滅していると、再び男が現れた。

 以前逃げたのと同じ男だろう。興味が無いのでそこまで詳しく覚えてはいないが、逃げたことで多少記憶に残っていた。


「世界をどうするつもりだ?」

「棺桶にする」


 今回は、一言目から答えて斬りかかった。

 やはり、死んでいない。以前よりも強くなっている。

 久々に、アグリムは自分の血を見た。



 どれくらい戦いが続いただろうか。

 ドラゴンならともかく、人間とここまで長く戦うのは初めてだった。


 相手にもかなりの痛手を与えたが、アグリムも自らの血に濡れていた。

 男はどうやら特殊な鎧か何かを持っていて、剣も他で見たことのない魔力を発していた。


 死闘の末にその剣が振りかぶられたのを、アグリムはただ見ていた。

 避けられたかと聞かれると、少し疑問が残るが、恐らく避けられただろうと思う。


 ただ、その剣を避けるのは、酷く面倒で。

 ここまで続けた殲滅がここで終わっても、弔いだとしたこの行動が終わっても、フェイは許すだろうから。


「……フェイ」


 小さく呟いた声に返事をするかのように、男の持つ剣が心臓を貫いた。



 その直後、魔力が爆発した。



 極限まで高められたアグリムの魔力は、アグリムの死によって爆発し、その爆風は世界の端にまで到達した。


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