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悪辣の徒  作者: 瓶覗
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38 探知

 湖畔近くに数か月滞在した二人は、再び移動を開始した。

 穏やかな生活は悪くはないが、長く続くと飽きるのだ。水竜との戦いでひとまず満足していたアグリムの戦闘欲が再び顔を出したこともあり、別の場所に行くことにした。

 向かう先は特に決めていないので、何となくの気分で方向を決めている。


 この大陸では魔法の研究が盛んで、魔法使いも多い。

 血統魔法の類も多く見られるので、帝国の時とは全く違う戦闘になるだろう。

 アグリムが満足いくほどの戦闘が出来るかは分からないが、ある程度戦える人間はいるはずだ。


「……あ?なんか魔力飛んできてんな」

「以前と同じであれば、個人を判別するための物かと」

「ってことは、俺が居んのもバレてんのか?」

「恐らくは。討伐隊などが来る可能性もありますね」


 今まで居た場所にはそういった道具が置かれるほどの大きな街はなく、周囲にあるのは小規模な村だけだったので存在は露見していなかった。

 けれど移動して大きな街も見える位置まで来たことで、防衛用に置かれている道具の範囲に入ったようだ。


 気にせずに進んで行くアグリムについて行くと、街から兵士が出てきて槍を構えた。

 予想通り、アグリムの存在は向こうに知られているようだ。

 この大陸に来るのもかなり久々の事だが、記録は残っていて即座に対応出来るくらいには周知されているらしい。


 斧を構えて兵士へ突撃したアグリムを見送って、邪魔にならないよう距離を保っておく。

 遠くからのんびりと眺めている限りでは兵士にかつて見た顔などを見つけることは出来ず、鎧の形状が最新型になっているな、などと考えて暇を潰す。

 そんなことをしている間に兵士の大半は倒され、生き残りは戦意を消失したのかアグリムの興味の外になったらしい。


「おっし、とりあえず食料確保だな」

「はい」


 アグリムの傍に歩いていき、並んで街に入る。

 中は既に大騒ぎな上、人が逃げて行った後のようだった。

 恐らくアグリムの魔力が観測された時点で避難誘導が始まっていたのだろうと思うが、戦闘にもそれほど時間が掛からなかったので逃げ遅れた人影はまだ多く見える。


「あの食堂はいかがですか?」

「任せる」

「かしこまりました」


 街に来てまずやることは食事だ。

 今回は適当な食堂を使って、フェイが料理をすることにした。

 やはり食堂のキッチンは使いやすいし、食材も色々と発見したので作れるものは多そうだ。


 湖畔近くの拠点では作れなかった凝った料理も出来そうだ、などと考えて機嫌よく準備を始めたところで、アグリムが建物の外に向けて魔法を放った。

 追加の兵士が来たようなので、フェイの料理が終わるまでそちらの相手をすることにしたようだ。


 外へ向かったアグリムの背中を見送ったフェイは料理を続け、完成より先にアグリムが戻ってきてしまったので少し待っていてもらうことになった。

 食べている途中にも兵士が来たが、それには外に出て対応はせずに食堂の中から魔法を撃って迎撃していた。食事の片手間に相手をされた兵士たちは撤退していったが、あの分だとまた来るだろう。


「移動なさいますか?」

「そうだな、大して強くねぇのにやたらと集まってくるしな」


 食事を終えて移動を始め、再び適当に向かう先を決める。

 その間にも兵士が時折現れるが、全てアグリムが返り討ちにしていた。

 けれど、フェイはその繰り返しに少しの違和感を覚えていた。


 一般兵がアグリムに敵わないのは当然の事として知られているのだから、こんなにも細かく分けて送り込んでくる理由が分からない。

 そして、その兵士たちが時折こちらを見ている気がするのだ。

 気のせいだと言われたらそれまでなのだが、隠匿魔法に長けたフェイは普段人の視線を感じる事がほとんどないのでただの気のせいと流す気にはなれなかった。


 アグリムも何か違和感を感じているのか時折首を傾げており、倒した兵士の持ち物を確認したりもしている。

 なんとも言えない違和感を抱えながら移動してきた先には、街の跡地があった。

 昔はここにそれなりの大きさの街があったのだが、既に廃墟になっているようだ。


「……兵士が居るな」

「アグリム様の移動を予測していたのでしょうか」

「かもな」


 行く先で兵士が待ち構えているのは、別に珍しい事ではない。

 いつものように戦いに行ったアグリムを少し離れた所から見送って、フェイはひとまず適当な木の影に身体を隠した。

 ここでもやはり、見られているような感覚がする。


 首を傾げて隠匿魔法を重ね掛けして、少し移動してようやく視線を感じなくなった。

 隠匿魔法を突破できる人間と言うのは、確かに存在する。

 その多くは特殊な目や、それを疑似的に得るための魔法を習得している者で、この大陸であれば居てもおかしくはない。


 とはいえ、貴重ではあるのでここまで頻繁に観察されている感覚があるのは不思議だ。

 なんて、考えて、視線を動かした先に見えた物に、思考が一瞬停止した。


 弓を構えた一人の兵士が、その標準を、しっかりとフェイに合わせていた。

 まるで見えているみたい、なんて考えた。

 飛んでくる矢は、しっかりと見えていた。

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