37 湖畔
水竜との戦闘の後、数日をかけて拠点の場所を探し、妥協せずに納得いく場所を探した甲斐あってかなりいい場所を見つける事が出来た。
場所を決めたら拠点を作っていく。これは慣れた作業なので、そこまで時間はかからなかった。
拠点がある程度出来上がったら、周囲の村を探して必要な物資を入手してきた。
ついでに手に入った紙とペンでフェイは周辺の地図を書いて村の位置も書き込んでおり、暇つぶしにしてはかなり実用的な地図を完成させている。
昔にもやったことがあるが、今回の方が出来は良い。
出来上がったそれは特に使わない時は適当に放置しているが、暇を持て余した時には取り出してきて確認と追記をしている。
今回もそれで取り出してきたのだが、追加で書き込むことも無かったので確認だけして元の場所に戻し、拠点の外に出た。外では、アグリムが魔法を空に向けて撃っていた。
「どうした?」
「いえ、特にすることが無くなったので」
「そうか」
短く返事をして、アグリムはフェイを抱え上げた。
そしてそのまま地面を蹴り、どこかへ向かっていく。
遠くなった地面を眺めながらどこに向かうのだろうかと考えている間に、アグリムは降下を始めた。もう目的地に着いたらしい。
「……湖」
「おう。たまにはお前も泳ぐか?」
到着したのは、水竜と戦ったのとは別の湖だった。こちらの方が、あの湖よりも小さい。
どうやらアグリムは泳ぐつもりらしいが、フェイは泳げないので断ろうとして、問いの意味に気が付いた。
フェイが泳げないことくらい、アグリムは知っているのだ。
「手を離さないでいてくださいますか?」
「当たり前だろ」
即座に返された言葉に思わず笑う。釣られたようにアグリムも笑って、先に水の中に入って行った。
フェイも服を何枚か脱いで動きやすい姿になってからアグリムを追い、足先から水に入る。
差し出されたアグリムの手に手を重ねると、引き寄せられて足が地面から離れた。
「わ、アグリム様、足がつきません」
「割と深いよな、ここ」
のんびりと言うアグリムと違って、フェイは沈まないように必死だ。
何か起こる前にアグリムが助けてくれるのは分かっているが、慌ててしまうのはそれとは別問題なのである。
一人慌てているフェイを楽しそうに観察していたアグリムは、少しした後ゆっくりと手を引いて進み始めた。
「わぁ」
「沈んだりしないから、とりあえず足動かしてみろ」
「どうっ、どう動かせば?」
「はは」
「アグリム様」
アグリムに手を引かれるまま湖の中を進んで、何となく身体の動かし方が分かってきた後はどうにか足がつく浅い場所で泳いでみることにした。
ひとまず何も出来ずに沈むことは無くなったが、ほとんど進まない。
アグリムが泳いでいる時はあんなにも早いのに、何て考えていたらそれを見抜かれたのか、再度手を引かれて深い所まで連れ出された。
誘導されるままアグリムの首に腕を回して、抱えられた状態で水の上を進む。
仰向けで腕はフェイの胴に回しているにも関わらず、アグリムの進む速度はやはりフェイと比べ物にならないほどに早い。
身体の動かし方なのか、筋力量なのか。真面目に考えていたのは最初だけで、すぐに意識は水遊びに向いて行った。
「アグリム様、魚が居ますよ」
「捕まえるか?」
「捕まえられるのですか?あ。待ってくださ」
嫌な予感がして制止したフェイを無視して、アグリムは速度を上げた。
フェイが気付いた時には水の中に居て、驚いて空気を吐き出しても苦しさを感じたり水を飲み込んだりする前には水面に出ている。
アグリムは魚ではなくフェイをからかうのが目的だったようで、ポカンとしているフェイを抱えて機嫌よく笑っていた。
「アグリム様!」
「悪かった悪かった」
珍しく声を大きくしたフェイの機嫌を取るかのようにゆらゆらと揺れるアグリムは、一切反省はしてい無さそうだ。
その後機嫌を直したフェイを連れて水中に潜ったり魚を追ってみたりと存分に水遊びを楽しみ、日が暮れて気温が下がる前には拠点に戻って来た。
それから数か月ほどこの地に留まった二人は、時々村に物資を入手しに行く以外は穏やかな日々を過ごし、天気のいい日は湖畔に遊びに行った。
最終的にフェイは一人で泳げるようになり、アグリムはあまりにも遅いフェイの前進速度に笑いながら手を引いた。
フェイから言わせると自分が遅いというよりアグリムが早すぎるのだが、自分が遅いのも事実なので何も言わないでおこうと決めている。
それよりも一人で泳げるようになったという事実の方が重要だったので。
潜水距離もアグリムには遠く及ばないが、そもそも比べる対象が間違っているのであまり気にはしていない。
ただの人間がアグリムに及ぶ何かを持っている訳がないので、比べたところで意味はないのだ。
ちなみにアグリムはフェイの拙い泳ぎを随分と気に入ったようで、少し離れた所から眺めている事が多かった。
勿論二人で泳ぐこともあったが、その時は基本的にフェイはアグリムに身をゆだねて自分では出せない速度を楽しんでいた。




