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悪辣の徒  作者: 瓶覗
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33 遊び

 アグリムが東の半島での戦いに参戦してから数日が経ち、再び起こった戦闘に再度参戦して両軍に大きな被害を出すと、どちらの兵士も明らかにそれまでと違う行動を取るようになった。

 一度目は通りがかったアグリムが気まぐれに戦闘に混ざってきたのだと思ったのだろうが、二度目になるとこの場での戦闘にはアグリムが混ざり込むと分かったようだ。


 二度目は一度目とそれほど変わりはなかったが、三度目になるとアグリムが混ざった時点で両軍は戦闘を止めてアグリムに戦力を集中させ始めた。

 共通の敵が現れたことで、一時的な共闘状態が発生したのである。

 まぁ、それでも敵わず両軍崩壊寸前の被害を出してはいたが。


 フェイはそれを上から望遠鏡で眺めていたが、帝国軍の方に大きな動きがあったのでこれは次あたり討伐軍が来るのでは、と予想していた。

 戻ってきたアグリムにそれを伝えた所、アグリムも同じことを思っていたらしい。


「手ごたえがあると良いんだがな」

「そうですね」


 地図を広げて帝国軍がやって来る方向と現在の拠点を予想しながら、早くていつだろうかと考える。

 軍の規模はどれくらいだろうか。新しい皇帝は、アグリムの事をどの程度理解しているのだろうか。

 暇なこともあってのんびりと考えていれば、早々に飽きたらしいアグリムに抱え上げられた。


「最初は結局、いつも通りか?」

「恐らくは。戦闘の規模などで、把握出来るかと」

「まぁやる気がねぇのは分かる」


 独立軍と帝国軍の戦闘は、アグリムを戦場に誘うためだけの演技になってきていた。

 双方既に相当の被害が出ているので、独立だ何だとやっている余裕がないのだろう。

 それよりも確実にアグリムが現れるという状況の方が注目されて、普段は気まぐれで行動の予測が出来ないアグリムが確定できることに意味を見出しているようだ。


「……一度、放置してみますか?」

「お前がしたいならそれでもいいぞ。してみるか?」

「はい。演技の戦闘がどれだけ続くか、見てみたいです」


 アグリムがどう思っているかは分からないが、フェイとしてはアグリムを誘導出来ているなどと思われるのは癪である。

 ただ戦闘がしたいから乗っているだけの誘いに対して、自信を持たれても腹が立つ。

 故に観戦を申し出たら、アグリムは笑って肯定してくれた。


 恐らくフェイの考えていることも分かっているのだろう。

 その上で、珍しく我が儘を言っているなぁと楽し気にしているのである。

 アグリムにとって優先度が高いのは自らの悦楽だが、その全てをねじ伏せてでも優先するのがフェイだ。フェイが嫌だと言えば、この戦場も放置して別の場所に移動する可能性だってある。


 フェイはアグリムを何より優先するので基本的にアグリムのしたいことをしているが、アグリムが優先するのもフェイなので彼女の意見が通らないことはないのだ。

 フェイの我が儘が受け入れられたことで、アグリムをおびき出すために行われるであろう疑似戦闘は上から眺めることになった。



 そんな話をしてから数日が経ち、眼下の平原では再び開戦の笛が鳴った。

 最初の頃と同じように二人並んで平原を観察していると、動きの鈍い兵士たちが徐々に手を止め始めているのが見て取れた。

 今までの戦闘では、既にアグリムが戦場に降り立って蹂躙を始めている頃だ。


 現れないアグリムに戸惑っているのか足を止める者もおり、それでも敵兵に殺されることも無くただ立ち尽くしている。

 その様子を眺めて、フェイは面白くないという心を隠さずに息を吐いた。

 横でアグリムが笑っているが、一緒に笑う気にはならない。


「嫌そうだなぁ」

「この程度の演技でアグリム様を騙せると思っているのが腹立たしいです」

「ははっ。……誰か一人でも死んだら、戦場に出てみるか?」

「……アグリム様がそうなさりたいなら、私は何も」


 アグリムの手が伸びてきて、フェイの頬を撫でる。

 楽し気にしているのは、戦場に関わらずフェイが珍しい表情をしているからだろうか。


「適当な戦闘でおびき出されてるのが嫌なんだろ?」

「そう、ですね?」

「なら、本気で戦わねぇと来ないって思わせりゃいい。引っ張り出したいなら、本気でやってくれなきゃなぁ」

「なるほど」


 討伐軍と遊ぶためにここに留まっているのだから、既に去ったのだと思われるよりは本格的に戦闘が始まらないと現れない、と思われた方がいいのかもしれない。

 両軍に被害が出た後ならば、フェイの不機嫌も少しはマシになるだろうか。


「……アグリム様、ウルムワに滞在した半年で、神の思考が身に着きましたか……?」

「なんでだよ。どこがだよ」

「まるで祭事のようだと思いまして」


 ウルムワの住民たちからするとアグリムは戦いの神であるらしいので、戦いの神を招くために戦う祭事だと言われたら少し納得できる気がする。

 そんなことをフェイが言っている間に、平原の戦闘は終わりを迎えようとしていた。

 アグリムが現れなかったから、そのまま戦いもせずに撤退するらしい。


 それはそれで腹が立つ、などと思っていると、アグリムが拠点から身を乗り出して魔法を放つ。

 目で追っていると、戦場の真上に移動したそれはそのまま戦場に落下した。

 撤退の空気が流れていた戦場が混乱し始めたのを見て、アグリムが笑う。フェイも釣られて笑って、その日はそのまま窓から離れた。

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