32 戦闘
時々街や村に立ち寄りながら、二人は予定通り東の半島へと向かっていた。
今いる場所は半島近くの山の中腹で、ここから半島がよく見えるのだ。
とはいえ距離はあるのでフェイは肉眼で詳しいことを視認は出来ないのだが、途中に寄った街で望遠鏡を入手したので目視が可能になっている。
アグリムはいつも通り、肉眼で全て見えているらしい。
その違いは今気にするべきことではないので置いておいて、話題になるのは半島の様子だ。
以前来た時は漁村とそれらを束ねる大きな街がある場所だったのだが、その街はアグリムが滅ぼして今は跡地になっている。
「砦が築かれていますね」
「言ってた通りだな。お、兵士もいるぞ」
「帝国軍……ではないようですね。独立軍ですか」
「街の跡地を拠点にしてんだな。村は……そのまま漁村か」
観察しながら情報を整理して、動きが無い事を確かめたら拠点作りを再開する。
あの半島を巡る戦闘が発生したら混ざりに行く予定なのだが、それまでの待機場所としてこの山を選んだのだ。
山の中でも半島がよく見える場所、切り立った山肌を選んで拠点を作っており、見つかることも襲われることもなさそうな拠点が徐々に出来上がっている。
木の枝や背の高い草で半島側からも見えないように作っているので、歴代でもなかなかの隠匿具合を誇っている拠点だ。
フェイは自力で出入りが困難で、移動はアグリムに抱えられてすることになる。
けれどそれなりの大きさの洞窟を作って拠点にしたので、不便は無いしちょっとした運動も出来ている。
その後も数日間拠点を作りながら半島の様子を眺めて、ついに戦闘が発生したのはフェイが昼食の味付けに悩んでいた時だった。
もう少し塩を入れるか、別の何かを入れて整えるか。そんな思考を吹き飛ばしたのは開戦を知らせる笛の音で、アグリムはそれより少し前に半島の方を見に行っていた。
「始まりましたか」
「おう。……フェイ、昼飯は後どんくらいで出来る?」
「……アグリム様、塩と香辛料ならどちらがよろしいですか?」
「味付けで止まってんのか。塩」
「かしこまりました」
鍋の中に塩を追加してかき混ぜ、味見をして問題が無かったので器によそってアグリムの元へ向かう。
岩を切り出して作った机の上に器を乗せて、冷ましながら食べつつ眼下の戦闘を眺める。
場所は砦の前の平原。現状独立軍と帝国軍の戦力は同等に見える。
「美味い」
「良かったです」
待ち望んでいた戦闘だが、それでも昼食が優先らしい。
おかわりをよそいに行ったアグリムは、鍋を空にして機嫌よく匙を口に運んでいる。
食べきった器はそのままにしておいてもらい、早速斧を担いで外へ出て行ったアグリムを見送った。
フェイも食事を終えたら食器と鍋を洗って、水切りの上に置いたら望遠鏡を片手に木と草で隠した窓へと近付く。
望遠鏡を覗いてアグリムを探し、ひと際動きが大きなところを見つけて視点を合わせた。
予想通りそこに居たアグリムを眺めていると、望遠鏡越しに目が合う。
特に何を言うでもなく視線を外して戦闘に戻ったので、このまま見ていて良いのだろう。
アグリムは帝国軍も独立軍も関係なく暴れて回っているようで、その様はまるで災害か何かだ。
しばらくそのまま暴れていたが、兵士の数が減ってくると飽きたのか戦場から離れて、遠回りして拠点に戻って来た。
「おかえりなさい」
「おう。感想は?」
「アグリム様に気付いた兵士から勢いが無くなって行きましたね」
「そうだな。つまんねぇ」
返り血に濡れたアグリムはそのまま血を落としに水場に行き、フェイは荷物から着替えを取り出してアグリムに渡しに行った。
その後は戦闘の感想を聞きながら二人で戦場を眺め、双方撤退となったところで観察をやめた。
「あんま運動にもならねぇなぁ」
「しばらく滞在すれば、討伐隊が来ると思います」
「そうだな、しばらくここで過ごすか。フェイ、なんか足りない物は?」
「今のところ特には」
帝国にどれだけ滞在するかも決めていないが、ひとまずアグリムが満足する程度の戦闘が出来るまでを目安にすることにした。
もしかしたらそのまま帝国が滅ぶ可能性もあるが、二人には関係のない事だ。
帝国軍にはそうならないようにぜひ頑張ってもらいたい。
そんな無責任な事をのんびりと考えていたフェイは、しばらく留まるのなら食料の確認もしておこう、と貯蔵庫代わりにしている一角に向かった。
確認を進めているとアグリムもやって来たので、二人で話しながら確認を進めて食料調達はいつにするかと話し合う。
その時に必要な物を色々集めて来ればいいだろう、という話になり、食料の確認も終えたので元居た場所に戻る。
ベッドとテーブルセットなどを作って置いたこの広い空間だが、短期間の滞在ならともかく長期となると少し足りない物もありそうだ。
「……ベッドの敷物はあった方がいいかもしれませんね」
「そうだな。ついでにクッションもあった方がいいか?」
「合ったら嬉しいです」
「ならそれもだな」
確保する物資を一覧に纏めながら、穏やかな午後は過ぎていった。




