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悪辣の徒  作者: 瓶覗
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回想 理由(フェイ)

「一度は捕らえられたのだ!恐れるな!」


 聞こえてきた声に、フェイは小さくため息を吐いた。

 アグリムが王国で捕らえられたのはわざとだ。それを根拠に戦いに挑んでは、決して勝つことは出来ないだろうに。

 それでも繰り返し叫ぶのは、それしか希望が無いからだろうか。


 なんて、戦闘が終わるまで一人暇なので考えてみる。

 アグリムが捕らえられたのには、理由がある。

 そしてその理由は、未だ誰にも知られてはいない。





 アグリムがツーミュ王国の兵士に捕らえられたのは、今から約四年前になる。

 その頃王国では流行り病が蔓延しており、けれどその治療法も確立されて死者は確実に減ってきているという状況だった。

 そんな病に、フェイが感染したのだ。


 アグリム自身は一切不調はなく、人との接触もそこまで多くはなかった。

 けれどアグリムと違い、フェイは特別強いわけでもない普通の人間だ。

 フェイの感染に気付いたのは本人よりもアグリムが先で、放っておけば死に至るそれをどうするか、という話になった。


 フェイとしては、アグリムに迷惑が掛かるのならそのまま死んでしまっても構わなかったのだが、アグリムがそれを良しとしなかったのだ。

 治療法は確立され、その方法はフェイも既に知っていた。

 けれど、だからと言って二人だけでどうにかするのは難しい話だった。


 治療薬は数種類。

 その薬を、患者の状態に合わせて使い分けなくてはいけない。

 治療が完了するまでに数か月が掛かる病で、薬だけを入手しても駄目だったし、医者を攫ってきても別の問題が起こるだろうことは明白だった。


「どっかに医者が集められて、治療してるって話だったよな」


 そう聞かれて、フェイは頷いた。

 アグリムに嘘は言わないと決めているので、病身であっても、それが何を求めての問であっても素直に答え続けていた。


「周辺の街や村での感染者を受け入れて治療している施設が、王国東部にございます」


 ちょうどその時二人が居た場所から、そう離れてはいない場所だ。

 アグリムに抱えられて移動している間に、フェイはアグリムから今後やることを伝えられた。



 まず、その治療のための施設に入り込んで、しっかり病を治してくること。

 そして、その後アグリムを迎えに行くこと。



 その時点で、フェイには何となくアグリムがやろうとしている事が分かっていた。

 分かったが故に初めて拒否したが、アグリムは受け入れてくれなかったので頷くしかない。

 治療の施設へ向かう途中、適当な村を襲って崩壊させたアグリムは、治療施設の近くへフェイを下ろした後、そこから離れて別の街を襲いに行った。


 フェイは、治療のためにその村からやって来たと身分を偽って治療を受けた。

 その村がアグリムに滅ぼされたと聞いた時は、泣いて悲しんで見せた。

 村の出身者は他にいない。何せ、皆アグリムに殺された。故に出身と偽ったフェイの嘘がバレる事は無く、病が故にアグリムの襲撃から唯一生き延びた村娘だと憐れまれた。


 その数日後、アグリムが兵士に捕らえられたと知らせが入った。

 皆が喜びに沸く中、フェイは一人泣いていたが、それも喜びからだと捉えられて不審には思われなかった。アグリムは、街を襲った後連日兵士と戦い、その疲労から遂に捕らえられたのだという。


 嘘だ、とすぐに分かった。


 アグリムが、数日人間と戦っただけでそこまで疲弊するわけがない。

 だってあの人は、ドラゴンと数日に渡って命の取り合いをした後だって揺らぐことなく自分の足で立っていた人だ。


 だから、それは全てフェイを守るための嘘なのだと分かった。

 もう安全だから安心して病人の治療を、と医師たちは実際口にしていたし、王国全土が他者に手を差し伸べる余裕を再度持ち始めたのも治療を受けながら見ていた。

 村が滅んだと言えば、誰もが納得したし、深くは聞いて来なかった。


 その全てがフェイにとって都合がよく、誰にも怪しまれることなくフェイは治療を終えた。

 病を退けた後は、別れる前に言われていた通り、アグリムを迎えに行くための準備を始めた。

 アグリムが天空監獄へ収容されたということは、王国民なら誰もが知っている事だった。



 アグリムは捕らえられた後、すぐに処刑すべきだという声が多く上がっていた。

 そして実際に処刑は実行され、しかしアグリムの首を切り落とすはずだった剣は折れ、処刑人は恐怖でまともに力を入れることも出来ないという異常事態が発生していたのだ。


 魔封じの鎖に繋いでいるはずなのに、衰えを感じない魔力と圧が。

 縛られて動けないはずなのに、近付くことすら出来ないほどの死の恐怖が。


 捕らえられて尚揺るがないアグリムに、処刑を実行できるものが居なかった。

 故に王国は、アグリムが処刑できるほどに衰えるまで、もしくはその首を落とすことの出来る誰かが現れるまで、アグリムを捕らえ続けることにした。

 そしてその猶予があったから、フェイは天空監獄へと侵入する手筈を不足なく整えたのだ。


 あの日、監獄の最奥でアグリムの鎖を外して、ようやく数年越しに言いつけられたことを全て終えたのだ。




 なんて、懐かしいことを思い出している間にアグリムは兵士を全て斬り捨てていた。

 また汚れたじゃねぇか、と文句が聞こえてきたので、フェイは笑って傍に歩いて行く。

 着替えは用意したので、次は風呂に入ってすぐに移動できるだろう。

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