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悪辣の徒  作者: 瓶覗
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28 落下

 天空都市の観光は、ある日突然終わりを迎えた。

 きっかけは些細なことで、中央から今度は東へとのんびり移動している最中に寄った街に、アグリムを知っている者が居たのだ。

 何やら視線を向けられている事には気付いていたが、気にせず観光を続けていた所、フェイがアグリムの名を呼んだことで確信したらしく、騒がれたのでさっさと逃げることにした。


「迎撃はなさらないのですか?」

「あ?あー……ま、服が汚れるからな」

「なるほど」


 天空都市で新調した服はアグリムも気に入っているようで、まだ派手に汚す気にはならないらしい。

 そんなわけでフェイを抱えて走り、騒ぎの中心から離れていく。

 向かう先は中央ではなく、一番近い島の端だ。


「船は回収なさいますか?」

「そうだな……次、どこ行く?」

「アグリム様のお望みのままに」


 話しながら、アグリムは軽く後ろを確認した。

 追っ手は今のところ居なさそうだ。だが、派手に騒がれたのでこれ以上の滞在は面倒が勝つ。

 天空都市から出ることは確定なので、迷うことなく見えてきた島の端へと飛び込んだ。


「こっからだと……砂漠は近いのか」

「そうですね、北上すると以前立ち寄った砂漠に出ます」

「それも海越えて……このまま南に行ったっていいが」


 落下しながら、フェイが自分たちに隠匿魔法をかけている事を確かめて、空に居る見回りの兵士の位置を捕捉する。

 どれも遠い上にこちらには気付いていなさそうなので、このまま落下してもバレはしないだろう。

 高所からの落下と着地はアグリムの得意技だ。天空監獄から脱出した時にもやったし、それ以前にも何度もやっている。


「南は何がある?」

「ピュテレ帝国がございます」

「あぁ、あそこか」


 過去にそれなりの期間留まっていた記憶のある国の名前が出てきたことで、アグリムも何となくの位置を把握したらしい。

 いつも気まぐれに行く先を決めているので、近くにあるのに行ったことのない場所というもの多いのだ。遠いと思っていた場所が行こうと思って向かうと想像より近い、ということもよくある。


「結局船か?」

「どちらでも。戻るのが面倒であれば、他の道を」

「あー……ま、一旦戻るか」

「かしこまりました」


 落下の時間で予定が決まったので、天空都市に入る前に船を隠した洞窟へと身体の向きを合わせる。

 地面が近付いてきたらフェイは口を閉じてアグリムにしっかりしがみつき、アグリムは魔法で何段階かに分けて落下の勢いを殺した。


 天空監獄から出た時よりも上手く勢いが殺されたことで地面に出来たクレーターの大きさは大したものではなく、通りかかった人間が居たとしても特に気にされない程度の大きさになった。

 あの時は三年近い監禁状態からの落下だったのに対し、今回は万全の状態だったのが大きな理由だろうか。


「……もう一年前のことになりますね」

「何がだ?」

「ルプシブルからの脱獄です」

「もうそんなか」


 王国はまだアグリムを探しているのだろうか。港街から船を奪ったことは知られているはずなので、国外に出たとして捜索はやめただろうか。

 考えても仕方がない事ではあるが、暇なのでそんなことを考える。


 のんびり考え事をしながら洞窟へ向かうと、何やら人の話し声が聞こえてきた。

 隠した船が見つかって、そこを根城にした何かが居るらしい。

 どうするだろうか、とアグリムを見上げると、アグリムは無言で魔法を練り上げていた。火だ。


「歩いて行くか」

「かしこまりました」


 洞窟に投げ込まれた炎がどうなったのかは一切気にせず、洞窟から聞こえてくる人の叫び声も一切無視して、二人は揃って向きを変える。

 歩いて行くとなると、どこを通るのが早いかと既に船の事は忘れて話を進めていた。

 次の目的地であるピュテレ帝国は海に囲まれているが、船が無くても入る方法はある。


「下に来ると暑いな……」

「着替えますか?」

「……いや、まだいい」


 普段なら暑いと言った時点で既に服なり外套なり脱いでいる事が多いのだが、今回はそのまま行くらしい。戦闘も避けていたし、フェイが思っていたよりも気に入っているようだ。

 とても似合っているので、着ていてくれるのならフェイとしてもとても嬉しい。

 そんなわけでニコニコしながら歩みを進め、天空都市からの追っ手が来るかもしれないので主要な道から外れた。


 最終的にアグリムは暑さに耐えきれなかったようで服を着替え、フェイも外套は脱いで進むことにした。

 帝国までの道のりはのんびり進んだこともありそれなりに時間が掛かったが、その間追っ手が来ることも無く、何か騒ぎになることも無く、非常に平和な時間だった。


 途中見つけた村に立ち寄ったりもしたがそれでも追っ手は来なかったので、そもそも天空都市の外に出た時点で放置されていたのかもしれない。

 来ないのなら楽でいいので、特に気にもせず進んでようやく帝国領が見えてきたので、海を渡る方法を考える。


「……前は船だったな」

「そうですね、渡し守が居りましたので」

「あの時の場所は?」

「このまま向かう先が、ちょうどその近辺になります」


 ここまで主要な道を避けてきたが、渡し守のいる場所は基本的に主要な場所だ。

 騒がれたら斬り捨てればいいので、ここからは道を使って進むことにした。

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