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悪辣の徒  作者: 瓶覗
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27 着替え

 酪農地区の街でアグリムはフェイの服を探して店を見て回っており、フェイはその探索の隙に凡そ足りるだろう額の金を用意しておいた。

 現地調達だ。荷物にもならなくてちょうどいい。使わなかった分は、邪魔なら置いて行ってしまっても良いだろう。


 数件の店を覗いた後、気に入ったものがあったのかアグリムがフェイに服を当て始め、店員に促されて試着することになり、最終的に何着か着てみて気に入った物を着ていくことにした。

 ドレスというには丈が短く、だが普段着にするには目を引く程に豪華ではある。


 ヴェルネスは天空都市なので基本的に気温が低く、服の作りはどれも暖かさを重視している。

 それに加えて防寒の為の上着も種類が多く、今回買った服に合わせて外套も新調することにした。

 アグリムはフェイの分だけを選んで満足そうにしていたので、フェイがアグリムの上着を選んで纏めて購入し、静かに満足の息を吐く。


 フェイの新しい服は構造的にはドレスと同じで、けれどドレスより装飾が少ない分軽く、着替えも楽になっているらしい。

 腰回りに幅の広い帯が巻かれ、腰の斜め後ろで結ばれてスカートの上にリボンを垂らしている。

 全体的な色味は青、スカートは深い青色の布の上に薄い白の布を重ねて、色味に変化を持たせている。


 外套は白を基調として紫の装飾が入り、裾には細やかに刺繍が施されたものだ。

 ちなみにアグリムの外套は紫を基調にして、赤と金で装飾が入れてある。

 フェイの物よりも少し薄く、軽い作りになっている。フェイに比べてアグリムは寒さに強いので、邪魔にならない事を優先した結果だ。


 フェイとしても非常に満足のいく物を見つけることが出来たのだが、アグリムもかなり満足そうにしている。

 着替えて日の下に出たフェイを見て、一度髪色を変えている魔法を解くように言ったアグリムに素直に従ったところ、その髪を撫でつつ何かを考えるように小さな声が零れた。


「……髪飾りも探すか」

「ふふ、では次は中央に戻って工房探しですね」


 アグリムの目的はフェイを着飾らせることだけだが、フェイも細かい装飾を見るのは好きなので異論はない。

 細かい装飾品を探すのであれば酪農地区ではなく中央の方が見つかりそうなので、一度中央へ戻ることにする。他の所に行く可能性もあるので、何であれ中央に向かうのが楽なのだ。


 来た時と同じようにのんびりと歩いて進み、行きよりもフェイを抱える頻度が多かったが、かかった時間もさほど変わらず中央へ戻って来た。

 時折こちらを見ている視線を感じるが、すぐに外されるので何かを疑っていると言うより、何やら質の良さそうな服を着た人間が二人で歩いているから目立っているのだろう。


 それでもアグリムは威嚇するように視線の方向を睨んでいたが、斬り捨てたり殴り込んだりしなかったので機嫌はかなり良いようだ。

 もしかしたら、まだフェイを飾りきっていないので我慢しているだけかもしれない。

 何であれ未だ天空都市で大きな事件は起こしておらず、非常に平和な観光になっている。


「装飾……フェイ、他に欲しい物あるか?」

「そう、ですね……指輪は邪魔になりますし……」


 ネックレスは、ドラゴンの鱗を加工したものをずっと付けているので他は要らない。

 邪魔にならない物で、何か欲しい物、と歩きながらのんびり考えて、何となく思いついたものがありアグリムを見上げた。

 その視線に気付いたアグリムが穏やかな表情でフェイを見る。


「……外套の留め具、でしょうか。アグリム様と、揃いの物があれば欲しいです」

「なるほどな、じゃあそれも探すか」


 無くても困りはしないが、あっても邪魔にはならない物。

 そして、あったら少し嬉しい物。

 考えてみて思いついた物を素直に声に出したら、アグリムは当然のようにそれを受け入れた。


 そもそもフェイを飾る物は多ければ多いほどいいと思っている男なので、装飾品が増える事を受け入れない訳もないのだ。

 便乗してフェイがアグリムを飾ろうとするのもいつもの事なので、そこまで含めて受け入れている。


 そんなわけで装飾品を取り扱っている店を見て回り、まずは外套の留め具を購入した。

 金は中央に戻ってきてから追加で確保してあるので、値段は気にせず好きな物を選んだ。

 揃いの物が良いとフェイが言ったからか、最初から二つ組で作られている物だけを見ていた。


 それでも気に入る物が見つかったのでそれを外套に付けて、続いて髪飾りを探しに行くことにする。

 髪飾りもアグリムのお眼鏡にかなう物が見つかり、普段街の中では髪色を適当に変えているのだが、しばらくは変えていない色のままで居ろと言われた。それほどまでに気に入っているのも珍しい、と思いつつ、フェイは手の中に目を向ける。


 手の中に納まっているのは、髪飾りを探している途中で見つけたガラスの瓶だ。

 何に使うわけでもないのだが、綺麗なそれに目を奪われていたらそれに気付いたアグリムが迷いなく買っていた。

 中に入れる物も決まっていないし使うかどうかも分からないが、見惚れるほどに気に入った荷物の中でもすぐに取り出せるところに入れておくことにする。

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