25 天空都市
船旅を続けて数日が経ち、見つけた島に上陸したり目に入った漁村に寄ってみたりしながら進んだ結果、天気のいい日は空に薄っすらと天空都市が見えるようになってきた。
アグリムには既にはっきりと見えているようで、感心したような声を零している。
「どうやって入るんだ?」
「都市の下に検問があり、そこから中に入るための飛行艇が出ているそうです」
「検問か……めんどくせぇな。フェイ、お前だけなら乗れるか?」
「はい。問題ありません」
どうやって入り込むのかを考えているらしいアグリムを横目に、フェイは目立たなそうな服装と髪色について考えていた。
他の服に比べたらこの船を入手した街で見繕った服の方が目立たないだろうが、それでも異国の服ではあるだろうから少しは目を引くだろう。
隠匿魔法で誤魔化しがきくとはいえ、注意して見られると見つかる可能性は高くなる。
もしなら服も調達しなければ、なんて考えて一度思考を止めて、自分が入る方法を考えているらしいアグリムの様子を窺った。
「そもそもあれか?書類か印かいるのか?」
「……どうでしょう、一度見てみた方がいいかもしれませんね」
「検問の周りに街とかあんのか?」
「はい。宿などもあるようですよ」
都市に上がるための飛行船が出ていない時間は下で待たないといけないからか、天空都市の下にはそれなりの規模の街が広がっている。
そこで必要な物を確認して用意するのが良いだろう。と、そんな話をしつつ海岸を眺めつつ船で進み、見つけた洞窟の中に船を泊めて錨を下ろした。
天空都市から次の場所に向かう時にまた使うことになるかもしれないので、念のために保管しておくことにしたのだ。
ここからは歩きで都市の下まで移動し、必要そうなものを用意していくことになる。
町への侵入と物資の用意はいつもやっている事なので、そう面倒でもない。
数日歩いて都市の下の街まで移動して、夜の闇に紛れて街の中に入り込んだ。
そのまま検問所と飛行艇の港、監視員の詰め所や見張り台などを見て回って、日が昇る頃に眠りについた。今回の宿は空き家の最上階だ。
翌朝から街の中を見て回って、搭乗口へ向かう人たちの持っている物なんかも観察する。
どうやら飛行船への搭乗許可証が必要なようで、それを発行している建物も把握した。
ついでに服も新しく用意して周りと同じような見た目になるようにして、天空都市は寒いらしいので上着も新調する。
「アグリム様、搭乗許可証のご用意が出来ました」
「おう。荷物はどうする?」
「飛行船の裏へ置いておき、正面から乗り込んだ後に回収して乗せるのが確実かと」
町に入ってから三日目には準備が完了して、搭乗許可証も二人分確保出来た。
入手方法は通常ではないが、発行先は正規の物なので不正を疑われることもないだろう。
持ち込めるか分からないアグリムの斧を含めた大きな荷物は、後から勝手に乗せることにした。
飛行船から見える位置に置いておけば、アグリムは魔法でそれを引き寄せられる。
最悪宙づりに浮きあげて行けばいいか、なんて考えているのはフェイも知らないが、そうなったらそうなったでどうにかするだろう。
後は飛行船に乗り込めさえすれば、天空都市には入り込めるわけだ。
「見張りは?」
「浮いている塔の中に、駐在の見張りがいるそうです。小型の飛行船に乗っている見回りも常に。数は十程度だと」
「ならまぁ、最悪見つかったら奪って逃げるか」
「はい」
天空都市に入る理由はただの興味であって何か特別な用事があるわけでもないので、最悪すぐに離れても構いはしないのだ。
なので気楽に、非常事態が起こったらその時に考えようと全て後回しにして現状を楽しんでいる。
フェイが一人で空を目指したあの時は絶対に失敗は出来ないと気を張っていたが、今回はそんなことも無い。
何せアグリムが居るのだから、なんて気楽に考えて、出発の支度を整えた。
荷物を下ろして搭乗口に向かい、持ち込んだ荷物だけ調べられて何も言われず飛行船へと乗り込んだ。
アグリムも問題なく乗り込めたようなので、揃って奥へと進み地面に置いてきた荷物を引き寄せる。
「……ん、乗ったな」
「では適当な位置で座りましょう」
「おう。どんくらいで着くんだ?」
「昼前には」
朝早くから出ている飛行船だが、アグリムとフェイが乗り込んだのは三本目の飛行船だ。
この時間から乗り込む人数が増えるので、その人込みに紛れ込んでしまおうと思っての事である。
人が多いのでアグリムは少し嫌そうにしているが、それでも特に何をすることも無く壁際の椅子に座っているフェイの前に立って視線を遮っていた。
話をしながら窓の外を眺めている間に飛行船は徐々に上へと上がって行き、予定通り昼前に天空都市ヴェルネスの船着き場に到着した。
飛行船から降りてその場を離れ、荷物を引き寄せて背負い直した後はいよいよ街の探索だ。
この天空都市はかなり広く、いくつかの地区に分かれている。それを見ていくだけでもかなりの時間が必要になるだろう。




