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悪辣の徒  作者: 瓶覗
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回想 始まり(アグリム)

 島を出発する日、見送りに出てきた島民たちがアグリムに何かを言っていた。

 言葉を発しているのは主にアグリムが暇つぶしがてら手合わせをしていた戦士たちで、何を言っているのかとフェイに聞いてみたところ、予想外の言葉が返ってくる。


「アグリム様について行きたいと言っています」

「……いらねぇ。邪魔だ」


 アグリムのぼやきのような言葉を島民に伝えたのはチョシミで、戦士たちも無理について来るつもりもないのか大人しくなる。


「俺はフェイ以外連れて行かねぇよ」


 最後にそんなことを呟きながら船に乗り込んで、久々の海へとくり出した。

 アグリムの目でも見えなくなるほど離れるまでこちらを見続けていた島民たちから視線を外し、進路を確認しているフェイを眺める。

 アグリムが唯一連れて行くことにしている女は、眺められていることも気にせず進路確認を終えてようやく腰を落ち着けた。






 アグリムが生まれたのは、とある国の貧困街だった。

 気付いた時には親はおらず、一人きりだったが特に困ることも無く。

 生まれついて戦いの術は理解していたし、魔法も扱えた。


 食べるものが無ければ奪えばよかったし、気に食わないやつが居たら殴ればよかった。

 至極単純で分かりやすい弱肉強食の世界でアグリムに逆らう者はいなくなり、代わりに配下のように振る舞う奴が現れたが、気に入らなかったので殴ってやめさせた。

 そうして幼少期を過ごした街を去ったのは、暇だったからだ。


 暇を潰せるものを求めてフラフラと各地を歩き回るうちに悪名とその土地の兵士がついて回るようになったが、それも気にせず気楽な一人旅をしていた。

 その少女を見つけたのは、物資の確保に適当な街にでも行くかと考えていた時だ。


 目的の街に向かっている途中に人の気配を感じて、寄って行ってみると今にも死ぬのではないかと思うような、生気のない骨と皮しかないような少女が木の根元に座り込んでいた。

 声を掛けるとゆっくりと瞳がこちらを向いて、その眼がやけに冷静なのが気になって、水とパンを与えて話を聞けば、名前も無くしたのだという。


 気を失うように眠った少女を何となく抱えて、すぐそこの街で物資を確保して騒ぎが広まる前に別の街まで移動する。

 その間ずっと眠っていたフェイは目覚めた後も騒いだりせず、すぐに状況を飲み込んで静かにその場に留まった。


 そんな始まりだ。


 最初は、邪魔になるか飽きるかしたら適当な街に置いていこうと思っていた。

 フェイもそれを分かっていて、別の場所へ移動するときは呼ぶまで傍には来なかった。


 置いていく気にならなかったのは、フェイが賢かったからだろうか。

 まず何より邪魔にならない。その上何でもすぐに覚えるので、アグリムの旅はとても楽になった。


 魔法も使えるようだが、攻撃ではなく隠匿だったことでアグリムの暇つぶし相手にならなかったのが、むしろ良かったのかもしれない。

 フェイが最初に使って見せた隠匿魔法はアグリムに効果が無く、隠そうと思っていない相手には影響がないと知れたのは最初の頃だった。


 それからは何かあってフェイが姿を隠す時、アグリムは見えやすい残滓を追うだけで良いので楽だと気付いたついでに、本気で隠れてみろと言って遊ぶこともあった。

 本気で隠れたフェイを見つけるのはアグリムでも骨が折れることで、これなら他の人間には見つけられないだろうと、気付かぬうちに安心もした。


 充分な食事と睡眠、そして髪や肌を整える物を用意すると、フェイは拾った頃と比較できないほどに美しく育った。

 元々そうだったのだろうから、どちらかと言えば取り戻した、だろうか。


 フェイに向けられる目線が鬱陶しく、目を向けてくる男たちを斬り捨てることはあったが、フェイを置いて行こうと思うことはなかったので数年間そうして二人で旅をした。

 時々フェイを街に置いて別の事をしに行くこともあったが、大抵の場合フェイは置いて行かれた場所からあまり離れずにその場に留まっていた。


 フェイを今後もずっと手放すことが無いのだろうと確信したのは、とある国で別行動を取った時だった。

 いつも通りフェイを街に置いて、別の用事を済ませてから別れた場所に戻る。

 何度もやったことだったが、その場にフェイの姿が無いのは初めての事だった。


 アグリムを恐れて逃げるのなら、今まで散々出来たことだったはずだ、と考えながら辺りを見渡して、フェイの魔法の残滓を見つけた。

 相変わらず、アグリムの目にははっきりと見える。

 つまりは、アグリムから隠れようとはしていない。


 そこまで認識して、残滓を追うために駆けだした。あちこちへフラフラと進んだのが見て取れて、速度を上げると向かう先にフェイを見つけたのでそこまで跳ぶ。

 目の前にいた男を蹴り飛ばしてフェイを抱え上げると、息を切らしていたフェイは驚いた顔をしてアグリムを見上げた。


 フェイを囲んでいた男たちは全て殴り殺して、街であっても戦場であってもフェイを置いて行くことは無くなった。

 他の人間に害されると考えただけで内臓が煮えるような怒りが湧き出るのだから、今後置いて行くこともあり得ないだろうと思い知ったのだ。


 アグリムの考えの変化に敏感に気付いたフェイも、それまでに比べると少し近い位置に留まるようになった。

 それが不快でなかったから、それ以来すぐ横に居させるのが常になったのだ。

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