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悪辣の徒  作者: 瓶覗
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22 二人きり

 祭りは最終的に興の乗ったアグリムが全員纏めて相手をして、全員が潰れた後一人楽しそうにフェイの元に戻ってきて終わった。

 後日確認したところ死者はいなかったようで、ただ遊んでいるのも珍しいと思いつつ、アグリムが楽しいのなら何でもいいかと思考を止める。


 祭り自体も勝ち上がった一人しかアグリムと戦えないと思っていたのに望む者全員が戦えた、と皆大喜びなようで、チョシミが随分嬉しそうにしていた。

 全員が満足して終わったのなら大成功だ、なんて考えながら、フェイは眼前で繰り広げられる戦いに目を向ける。


 祭りの日から、アグリムは島民の中でも特に気に入った数名を連日相手取って模擬戦のようなことをしているのだ。

 運動不足の解消にちょうどいい、と始めたことで、フェイはそれを日陰からのんびり眺めている。


「フェイ」

「はい、アグリム様」


 ぼんやりと眺めていたらアグリムに呼ばれたので、立ち上がって駆け寄る。

 先ほどまで模擬戦をしていた人たちは皆疲れ果てて地面に倒れていた。


「出かけるぞ」

「はい」


 どこに行くのかは分からないが、アグリムが行くと言うのなら拒否する気など一欠けらも無いのですぐに頷く。

 アグリムも分かっているので、返事を聞く前にフェイを抱え上げていた。


「島外ですか?」

「隣だ」


 方向的に、初めてこの島に乗り込んだ方向とは逆のようだ。

 そちらにはこの島の四分の一程の大きさの島がある。

 他より大きな島だし、そこが目的地だろうか。


 ちらりとアグリムを見上げても、思考は読み取れない。

 視線が返されて微笑まれただけで、それ以上アグリムは何も言わなかった。

 着いてから聞けばいいかと思考を止めて流れていく景色を楽しんでいると、島と島の間を軽く跳び越えた着地の小さな衝動が伝わってきた。


「よし、もう少し進むか」

「はい。……アグリム様、ここで何を?」

「ん?特にすることはねぇが……ずっと他の人間の気配が近かったからな、久々に二人もいいだろ」

「なるほど」


 今まで街の中に長く留まる事はあまりなく、基本的に長期滞在するのは人のいない、来ない場所だった。

 歓迎されることなどないので、ここまで周りに人がいる状態が長く続くのは珍しいことだ。

 フェイはそこまで感じていないが、アグリムは人の気配にも敏感なので気になっていたのだろう。


「雨は降らねぇだろうし、適当に床作るか」

「はい」


 斧を振って木を伐り始めたアグリムを見て、拠点作りも久々だとフェイはふと空を見上げた。

 よく晴れた、気持ちのいい青空だ。ゆっくりと深呼吸をしてから辺りを見渡して、拠点作りに丁度よさそうな場所を見繕う。

 ある程度決まったらアグリムに声をかけてその辺の木を伐採してもらい、地面に穴を掘って床を作るために柱を埋めていく。


 そのまま敷いても良いかと思ったのだが、せっかく久々に拠点を作るのだから少し手間をかけて高床にしようという話になったのだ。

 柱以外の場所は踏み固めておいて、床の面積を決める。


「屋根も作るか?」

「今日中に終わるでしょうか」

「終わらなくてもいいだろ。今後も使うなら、雨降る前に作りてぇよな」

「ふふ。壁はいかがなさいますか?」

「……屋根作ってから考えるぞ」

「かしこまりました」


 楽しくなってきて、床だけのつもりで作り始めた拠点はしっかりした家になってきた。

 どこまで作るかはまだ分からないので、まずは予定通り床を作っていく。

 木を板状に切って加工し、ズレないように止めて表面を磨く。木を切ったり板状にしたりという作業はアグリムの担当で、細かい調整と磨きなどはフェイの担当だ。


 久々とはいえ慣れた作業なので、日暮れまでに完成した床の上に腰を下ろして他の島の影に沈んでいく太陽をぼんやりと眺める。

 フェイが黙って夕日を見ている間にアグリムはどこからか鳥を捕まえて来て捌いており、気付けば作った床から少しだけ離れたところに火が焚かれて鳥の串焼きが焼かれていた。


「……アグリム様、調味料持ってきてたんですか?」

「おう。塩だけな」


 最初からそのつもりだったのか、アグリムは荷物の中から塩を取り出して持ってきていたらしい。

 手招きされたので呼ばれるまま火の傍にいるアグリムの所まで歩いて行くと、焼けたらしい串焼きを渡された。

 冷ましながらそれを食べて、星が輝き始めた空を見上げる。


「夜はどうされますか?今日は、このままここで?」

「それでもいいが……いや、戻るか。明日も晴れるなら、また来る」

「かしこまりました」


 今日で床は完成したので、明日も作業するなら次は屋根だろう。

 そんなことを考えながら串焼きを食べて、食べきったら串は燃やす。

 全ての串を火の中に放り込んだ後、粗方燃えたら火を消して、月と星を眺めた後に本島の方へ帰ることにした。



「……あ?なんか騒いでんな」

「アグリム様が去ってしまったと思ったのでは?」


 街に戻ると、住民たちが集まって何やら騒ぎになっていた。

 上から戻ってきて家の屋上に着地したアグリムを見て騒ぎは一段と大きくなった後に治まったので、突如現れた神が突如去ってしまった、とそんな騒ぎになっていたのだろう。

 フェイとしてはある程度予想していたことだったが、アグリムはここまでの騒ぎになるとは思っていなかったようで少しだけ驚いたように目を見開いていた。

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