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悪辣の徒  作者: 瓶覗
23/45

21 祭り

 ウルムワ諸島の住民たちは、強い者を尊んで強い者に従う。

 チョシミがアグリムにも参加して欲しい、と言ってきた祭りも、戦いが主になるらしい。

 トーナメント戦のようなことをやって、勝者の願いが叶えられるんだそうだ。


 今回はアグリムがいるので、勝ち抜いた者にアグリムと戦う名誉を与えて欲しいのだと彼女は言う。

 聞いたことを翻訳してアグリムに伝えると、先ほどまでの面倒くさいと全面に押し出されていた表情が少し変わった。

 それならやってもいいか、と言わんばかりの顔だ。


「いかがなさいますか?」

「まぁ、その程度ならいいか」


 予想通りの言葉が返ってきて、思わず少し笑ってしまった。

 アグリムは気にした様子も無く机に乗せられた果物に手を伸ばしているので、跪いて頭を下げたままでいるチョシミにアグリムの言葉を伝えて下がらせる。




 祭りまでの期間も特に何かすることがあるわけでもなく、いつも通り好きに過ごしていた。

 船の確認に行ったり、島の中を歩き回ってみたり、家に籠って手仕事に励んだり。

 そんなことをしている間に祭りの当日になっており、アグリムとフェイはチョシミに案内されて会場である広場を訪れた。


 アグリムの席は特別に作られた高台らしく、木で頑丈に作られた台の上に布が何枚も重ねられている。

 裏に梯子があるようだが、アグリムはその台を見上げてすぐにフェイを抱えて地面から軽く跳んで台の上に移動した。

 湧き上がった歓声に面倒くさそうな目を向けつつ腰を下ろして、フェイを抱えなおす。


「日よけまであんのか」

「中々立派ですね」


 足元の布とは違い草を編んで作られているらしい日よけは、程よく日差しを遮っている。

 アグリムが台のすぐ下に目を向けているのでその視線を辿ると、そこには机が用意されて何やら色々とものが乗せられていた。


「……貢物?」

「酒か?あれ」

「恐らくは。家に運び込まれている物と同じではないでしょうか」


 話している間にアグリムが魔法で手元に引き寄せていたので、渡されたそれを確認する。

 入れ物も中身も、家で見たものと同じだろう。

 差し出すとアグリムが口を付けて、小さく頷いた。やはり同じだったらしい。


「フェイ、何か食べるか?」

「ではあの果実を」

「好きだなぁ、あれ」

「程よい甘さと酸っぱさです。……あ、始まるみたいですよ」


 話しながら手元に食べ物を引き寄せている間に、広場に人が集まって何やら音楽が鳴り始める。

 何種類かの打楽器を鳴らしながら歌っているようで、初めて聞くそれにアグリムが目を向けた。

 不快そうではないので、ただ興味があるだけだろう。不快なら既に斬り捨てているはずだ。


 なんて、フェイがアグリムを観察している間に広場に集まっていた人達は二人を残して盛り上がった円の外に出て、ひときわ大きな音が鳴ったのと同時に円の中に残った二人が戦い始めた。

 祭りが始まったようだ。


「魔法は使わないのですね」

「教えるやつがいねぇんだろうな。あいつ……よく居る女は使えると思うぞ」

「チョシミですか?」

「おう」


 アグリムがそう言うのなら使えるのだろうけれど、生憎とフェイも人に教えられるほど魔法に長けているわけではない。

 フェイよりもアグリムの方が魔法に長けているが、アグリムは教える気など欠片も無いだろう。

 となれば、誰に習うでもなく魔法を使う事の出来る者が生まれる事を願うしかなさそうだ。


「いかがですか?アグリム様」

「悪くねぇ。王国の兵に勝ち続けてるってのも納得だな」

「斧は使われます?」

「いや、要らねぇ。殺す気はない」

「かしこまりました」


 話しながらも眼下で繰り広げられる戦いをじっと見ているアグリムに感想を聞くと、思っていたよりもいい反応が返ってきた。

 大抵の場合戦っても手ごたえが無いとつまらなそうにしているので、楽しそうにしている様子を見るだけでこの島の住民たちがどれだけ強いのかが分かる。


 その上で、殺す気はないらしい。

 興味があるのに殺さないということは、気に入っているという事だ。

 気まぐれに選んだ行き先だったが、立ち寄ってよかったと笑う。


「何だ?」

「いえ、アグリム様が楽しそうなので」

「そうかよ……お。見ろフェイ。あいつが多分一番強いぞ」

「どちらですか?」

「左」


 アグリムの膝から降りて横に座り直し、示された人を見る。

 まだ戦い始めていない状態で分かるほどに違うらしいが、フェイにはやはり分からない。

 それでも戦い始めればあっと言う間に決着がついて、なるほど確かに強いらしいと実感した。


 それと同時にアグリムが飛び出して広場に降り立ったのを見つけ、フェイの横に残された斧に手を乗せる。

 フェイはこうなるだろうと分かっていたから膝から降りたのだが、島民たちは驚きで騒めいている。

 それでもアグリムのすることを止める気も無いのか、円の中には入らずに外から見ているだけだ。


 通訳がいるだろうか、と考えていたのだが、どうやらアグリムの意図は伝わったようで戦いが始まった。

 とはいえ、アグリムはただ遊んでいるだけのようだ。殺す気はないと言っていたし、いい遊び相手を見つけた、くらいの感覚なのだろう。

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