20 島の暮らし
ウルムワ諸島の住民が暮らす街に招かれてから数日が経ち、二人は何となく現状を把握していた。
どこへ行くにも、何をするにも受け入れられて止められはしないので他の一般的な家を見て回ったり、何やら歴史のありそうな建物へ赴いてみたりしていたのだ。
食事は運ばれてくるし、この島の住民が着ているのと同じ作りの服まで用意されている。
しかも、他の住民が着ている物に比べて作りが豪華だ。
家の中の台座にかけられていた布と同様に、染め上げられて模様も入れられている。
「アグリム様が信仰対象になっているようですね」
それが、フェイの出した結論だった。
翻訳してくれる人が居るわけでもない知らない言葉を、フェイは一から覚えて島の住民とある程度の意思疎通が出来るようになっていたのだ。
アグリムがフェイを傍に置いて大切に扱うからか、住民たちもフェイに対して丁寧に接してくる。
なのでよく家に食事を運んでくる女を一人捕まえて、あれこれと物を指さしてひとつずつ言葉を覚えていった。
そうして少しずつ理解できる範囲を広げて行って、昨日ようやくアグリムを歓迎する理由を聞くところまで到達したのだ。
「なんでだよ」
「強い者こそ尊いのだそうです。アグリム様はこれまで現れたどんな者より強いので、王を通り越して神にまで至ったのだと」
「勝手に神にすんな……」
「現人神ですね」
フェイとしてはアグリムを信仰対象にするなんて見る目があるじゃないか、と非常に良い気分なのだが、アグリムは面倒くさそうだ。
それでもフェイが嬉しそうにしているから、否定する気も無いらしい。
これで何かをしろと求められたら面倒が勝って全て斬り捨てるのだろうが、現状ただ居るだけで有難がられているのでわざわざ動く必要性も感じないのだろう。
「アグリム様が最初に斬り倒した戦士たちは何よりも名誉な死を手に入れた、んだそうですよ」
「ほー……まぁ、戦士だってんなら戦場で死ぬのが誉か」
ちなみに今こうして話している場所は家の中にある台座の上だ。
胡坐をかいて座ったアグリムの膝の上に乗せられたフェイが調べてきた結果を報告している。
ここは祭壇ではなく玉座で合っていたようで、アグリムが腰かけたら最初にここへ案内してきた案内人が涙を流すほどに喜んでいた。
それが理由、という訳でもないのだが、玉座だと知って以来何となくここに座って二人で話すことも多くなっている。
時折何かを持ってきた者が顔を出すことがあるが、それ以外ではこの部屋に人が来ることは少ない。
二人がこの部屋にいる間に他の部屋の掃除をしているようでもあるし、色々と要因はあってアグリムの定位置はこの玉座となっていた。
「奥の広場は?」
「決闘場だそうですよ。祭りではあの場で決闘を行って、勝者の願いが聞き届けられるのだと」
「どこまでも強さが基準だな」
「はい。あ、私たちを最初に案内した者は祭司だそうです。あの者は強さとは別で尊ばれているようですね」
祭司は最初の案内以降も、あれこれと物を持って家に来たり街の中を案内したりと世話を焼いて来ている。
フェイが言葉を覚えようとしている事を悟った後は、家の中の物を一つずつ指さして言葉を教えてきたりと中々の献身具合だ。
そして中々賢いようで、フェイとアグリムの名を最初に覚えて住民に広めたりもしているようだった。
いつも同じ単語が名前の前に付けられるから、恐らく敬称付きで広められているのだろう。
フェイが何かを探していると急いでやってきて何がいるか、と聞いてくることもある。
「名はチョシミだそうです」
「何だ、気に入ったのか?」
「そうですね、他よりは」
そうか、とだけ言って笑ったアグリムに寄りかかって、フェイは手元の布に目を落とす。
この島に来る前に縫い針は調達してあったので、暇つぶしがてらに刺繍でもするか、と布と糸を用意させて昨日から弄り始めたのだ。
道具は足りないが、出来る範囲であれこれと調整して刺繍で遊べるようにはなった。
「ま、しばらくはこのまま過ごしていいだろ」
「かしこまりました」
「明日は船を見に行くぞ。保管されてんだろ?」
「はい。アグリム様が乗ってきた物だから、と掃除などしているようです」
この島の住民がどれだけアグリムを歓迎していても、アグリムがここにずっと留まる事はないだろう。
いつになるか分からないが、この島を出て再び海を進む日のために船はしっかりと保管しておかないといけない。
ここで新しく船を作るのは手間だ。手漕ぎのボードだろうとアグリムなら海を進むことは出来るが、しっかりとした船があるのならそれを使う方がいい。
そんなことを話していると、チョシミが果物の乗った盆をもって部屋にやって来た。
アグリムが玉座を定位置にしているからか、最初は置かれていなかった小さな机のようなものが部屋に追加されており、果実の乗った台はそこに置かれる。
普段ならそこですぐに下がっていくチョシミが足元に跪いたので、フェイは刺繍から顔を上げた。
発せられた言葉を翻訳して、脳内で組み立て直す。
頭を下げたままのチョシミからアグリムへ視線を動かすと、彼は静かにフェイを見ていた。
「祭事があるので、アグリム様にも参加して欲しいそうです」
明らかに面倒くさいという顔をしたアグリムに小さく笑いながら、フェイは再びチョシミに視線を戻す。
その祭事がどんなものかを、まずは聞いておかないといけないだろう。




