19 住民
レザム諸島からウルムワ諸島に向けて島々を経由しながら船を進め、目的地だったウルムワ諸島の一番大きな島に辿り着いた。
錨を下ろしてすぐに、アグリムが何かを警戒するように斧を持って島の中心部に目を向ける。
島の住民がこちらに気付いて寄ってきているらしく、フェイは船を降りずに少し待っておくことにした。
そうして静かな睨み合いがしばらく続き、森に覆われた島の内側から矢が飛んできたことで戦闘が始まった。矢が飛んできた方へ魔法を放ったアグリムは、そちらに突っ込むことはしないらしい。
恐らくまだ船に残っているフェイを気にしての事だろう。
とはいえ基本的に戦闘でフェイは邪魔になるだけなので、連れて行きたくないのだろう。
「アグリム様、私は見つかりませんのでお気になさらず」
「あ?……いや、そういう問題じゃねぇよ」
「そうなのですか?」
話しながらも淡々と魔法を放って、森から出て突撃してきた者を斧で斬り飛ばす。
森から放たれた矢はアグリムに当たらず、突撃してきた者もアグリムに攻撃を当てる前に斬り飛ばされて倒れていった。
しばらくそうして戦闘が続いた後、静かになったと思ったら今までと違い戦意があるようには見えない者が森から出てきた。
切り飛ばそうか放置しようか考えているらしいアグリムに向って聞きなれない言葉を発したその者は、祈りを捧げるような姿勢を取ってから森の方へしきりに腕を向ける。
「……あ?」
「ついて来いと、言っているのでしょうか?」
「全員敵意も何も無くなってんな……」
「いかがなさいますか?」
「……行ってみるか。罠なら斬り捨てりゃいい」
「かしこまりました」
差し出された手を取って、フェイも船から降りて砂浜に足を付けた。
そして先ほどから何かを訴えていた者に誘導されるまま、森の中を進んで行く。
よく使われる道なのか、しっかり踏み均されており歩きやすい。
周りを観察しながら歩き続けていると、突然視界が晴れた。
森の中に作られた集落……と呼ぶには少し規模の大きなここが、ウルムワ諸島の住民たちの暮らす街なのだろう。
何故案内されたのかは分からないが、誘導している者はまだ奥へと進むことを求めているらしい。
「思ったよりでかいな」
「はい。建物もしっかりと作られていますね」
「石造り……王国とは随分違うな」
「言葉にも聞き覚えはありませんでしたし、独自の文化なのでしょうね」
こちらを窺っている住民はいるが、寄ってくる者はいない。
そして殺気も悪意も向けられている感じが無い。
よく分からないまま道を進み、案内人が止まったのは街の最奥にある大きな建物の前だった。
大きさや建物の装飾、位置などを考えても街の重要な施設であろう場所まで連れてこられて、アグリムは首を傾げてフェイを抱き寄せる。
抱き寄せられたフェイは街の建物の方が気になるらしく、視線をそちらに向けたままだ。
「……中に入れって?」
「そのようですね」
「はぁ……フェイ」
「はい」
返事をして、アグリムに抱え上げられたフェイはその首に腕を回した。
腕の中で姿勢を整えて、邪魔にならない程度に密着して扉が開かれた建物の中を窺う。
魔法の気配はしない。人の気配も、しないらしい。
何があるのかは分からないが、ひとまず警戒はしながら建物に入り、その奥へと進んで行く。
外観通り広々とした内装は見渡しただけでもいくつかの扉を見つけることが出来た。どうやら奥に部屋があるらしいここは玄関、もしくは廊下のような場所のようだ。
「あれから行くか」
「はい」
片腕でフェイを抱えたアグリムが指さしたのは、入口から真っすぐ進んだ先にある扉だ。
草を編んで作られているらしい扉を潜って進むと、そこもまた広い部屋だった。
部屋の奥が少し高くなっており、そこに台座のようなものが置かれている。
木で作られた台座の上には、染め上げられて模様も入った布がかけられており、何やら重要な場所なのだろうと言うことは分かる。
台座はそれなりに大きく、物を置くのだとしたらかなりの大きさの物も置けるだろう作りだ。
「この部屋はこれだけか」
「高い位置に窓がありますね。採光用でしょうか」
「祭壇か何かか?」
「かもしれません」
扉を潜って最初の部屋に戻り、今度は右から順に部屋を見て回る。
祭壇の部屋以外は恐らく寝室、キッチンとダイニング、浴室という具合に、ここが暮らすための建物であろうと予想することの出来る部屋が揃っていた。
さらには建物の奥に広がる庭に行ける扉も見つけ、ここが街の中でもかなり豪華に作られた家だと改めて認識する。
「……となると、もしやこの台座……」
「祭壇じゃなくて、玉座ってとこか?」
「その可能性が高いですね。他の家にも同じものがあり、祭壇として使われている可能性もありますが」
「なんであれ、やたらと歓迎されてることだけは確かだな」
そう言って振り返ったアグリムの視線の先には、先ほどの案内人が果実が大量に乗った盆を持って家に入ってくる姿が映っていた。




