18 諸島
フェイが目を覚ますと、船は既に陸が見えない位置にまで進んでいた。
どうやらアグリムが魔法で風を起こして船を進めているようで、かなりの速度が出ているようだ。
「起きたか」
「はい、おはようございますアグリム様」
「おう。とりあえず適当に進めてるぞ」
大体ここら辺、とアグリムが地図を指し示す。
思ったよりも進んでいる、と心の中で感想を零して、フェイは地図を眺める。
「諸島群が近いですね」
「っとー?これがレザムだな?」
「はい。レザム諸島、ウルムワ諸島、ツーケ諸島です」
「人いんのか?」
「レザム諸島は全て無人島だと言われていますが……ウルムワ諸島には住民が居るそうです」
地図に記されているのは、船を奪った街から南に向かったところにある島々だ。
この地図も街で見つけたもので、便利そうだったので持ってきた。
島々は大きく三つのまとまりに別れているので、それぞれを呼び分けているのだ。
詳しい地図までは把握していなかったが、フェイは城勤めの頃に地名とざっくりとした気候くらいは把握して記憶に残していた。
脱獄した時の海か山の二択で海だった場合、このあたりまで船で逃げることも考えていたからだ。
「ウルムワ諸島の住民がレザム諸島まで来ることもあるらしく、何度か船を沈められているそうです。王国が領土として主張していないだけの戦力はあるのかと」
「ほー……こっちは?」
「ツーケ諸島は王国の調査が及んでいない島々ですね。レザム諸島とウルムワ諸島の距離に比べると少し離れていますから、ウルムワ諸島の住民がこちらにまで足を延ばすのかも不明です」
「なるほどな。……まぁ、一旦行ってみるか」
「かしこまりました」
何であれアグリムが行くというのなら行くのだ。
彼が敵わないような何かが居るのならそのうち王国も滅ぶだろうな、とのんびり考えつつ、フェイは積み込んだ食料を軽く料理することにした。
船で数日、かなりの速度で進んではいたと思うが、それでもほどほどに時間をかけて二人はレザム諸島の中で最も大きな島に上陸した。
船を泊めて錨を下ろし、砂浜へと降りて見上げた先は山と森。
どうやら島の大半は森に覆われているようで、砂浜から少し進めばすぐに山登りが始まりそうだ。
「まずは地形の把握か」
「かしこまりました」
迷いなく歩き出したアグリムの後ろについて行く。
それなりに大きな島だが、無人島なので道なども無く手入れもされていないので歩きにくい。
その状態での山登りは中々辛いものがあり、フェイは早々にアグリムに抱え上げられた。
体力が特別無いなんて事は無いのだが、共に歩いているのがアグリムなのでどうしても速度に差があるのだ。
アグリムも気を使ってはいるが、基準にする速度が違い過ぎるせいで舗装された道を歩いている時ならともかく、こういった場面ではフェイを置いていきかねない。
なので何度か距離が離れるか、フェイの息が上がるかしたタイミングでアグリムが抱え上げる。
以前からよくある事だったので、抱える方も抱えられる方も慣れたものだ。
「薬草が自生しているのですね……」
「そうなのか」
「はい。王国が何度か船を送ったのはこれが理由でしょうか」
「無人島なら、まぁ採取してぇだろうな」
「他にもいろいろと自生していそうですしね」
のんびり話しながら山を登りきって、頂上から島を見渡す。
この山の他に、もう一つ大き目の山があるようだ。島の反対側で、そこに行くまでの土地は少し細くなっているが問題なく歩いて行けそうだ。
その他に見えたのは他の島。レザム諸島の他の主要な島二つと、遠くにはウルムワ諸島も薄っすらと見えた。
「ウルムワの住民ってのはどの島に居るんだ?」
「一番大きな島の中心に暮らしているそうですよ。ここからだと……見えませんね」
天気がいい日なら見えるだろうか、なんて考えつつ、アグリムには見えているかもしれないので一応指をさしておく。
フェイが指さした方向に目を凝らしていたアグリムが何も言わないので、それ以上は何もせず反対側に続いている島へ眼を向ける。
もう一つの山の周りは崖になっているようで、海から直接登ることは厳しそうだ。
アグリムならば船から跳んで登れるだろうが、フェイは自力で上がれない。
籠城するには良さそうな土地だ、なんて、必要ないだろうことを考える。その間にアグリムは次の行動を決めたらしい。
「行ってみるか、ウルムワ」
「かしこまりました」
王国の船を撃退した住民に興味があるらしいアグリムに返事をして、フェイは向かう先を確かめる。
ウルムワ諸島の一番大きな島は、今いる地点からはそれなりに離れているから、向かうにしても少し休んでからの方がいいだろう。
そんなわけで、今日はこの島に留まって出発は明日にした。
見渡した限りでも分かるくらいにはいろいろな植物が自生しているようだから、果実か何か自生していないか探してみるのも楽しいかもしれない。
アグリムは早速何か見つけたのか山を下り始めたので、その腕の中でフェイはのんびり今日の夕飯について思考を巡らせた。




