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悪辣の徒  作者: 瓶覗
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17 海

 海沿いを歩いて進むこと数日、見えてきた街に夜闇に紛れて入り込み、船着き場で良さそうな船を見繕う。

 一応顔を隠すようにフードを被ってはいるが、前の街でアグリムの存在が警備隊に露見した理由は分からないので、魔力が原因だとしたら顔を隠しても意味はない。


 それでもまぁ全くの無意味かどうかも分からないし、そもそもフェイとしては単に周りの視線を遮るものという意味合いが強いので、警備隊は関係ないのだ。

 適当に見つけた空き家を寝床にして、翌朝から散策を開始した。


 探すのは乗って行く船と、食料くらいだろうか。

 それから前の街で探せなかった縫い針があれば、と言ったところだ。

 まぁそれは必須でもないので、必須なのは船と食料くらいなので、そう時間もかからないだろう。


「あれはどうだ?」

「……よろしいかと。アグリム様なら動かすのも苦労はないでしょうし」

「ならあれが第一候補だな」


 船着き場に並んだ船を眺めつつ屋台の料理を食べ、食料なんかも買いこみながら他に何かめぼしいものは無いかと市場を見渡した。

 そうして太陽が頂点から少し下り始めた頃、街の中が少し騒がしくなってくる。


「……アグリム様」

「おう。船まで行くか」

「かしこまりました」


 どうやら、警備隊がアグリムに気付いたようだ。

 徐々に人が居なくなっていく街の中を進んで目星をつけていた船の前まで行き、フェイは魔法で気配を消した。


 アグリムに運んでもらっていた荷物は地面に降ろされているので、フェイはアグリムと警備隊の戦いの後ろで用意した荷物を全て船に積み込む予定である。

 ついでに船の状態も確認して、すぐにでも出られるように用意しておかないといけない。


 まずは自分が抱えている荷物を置いてこよう、とフェイが船に乗り込んだところで、警備隊が大量に現れた。そう長くはかからないだろうけれど、人数が多いからアグリムも多少は楽しめるだろうか。

 なんて考えながら船の中を確認して、要らないものは降ろして用意した物を積み込む。


 せっせと作業をしているフェイの後ろでは、アグリムが警備隊を蹂躙していた。

 束になっても敵わない、傷一つ負わせられない男を相手にして、警備隊のほとんどは既に戦意を消失しているようでもある。


 それでも一部の人間はしぶとく生き残り、まだ諦めてはいないようだ。

 アグリムもまだ飽きてはいないようなので、荷物の積み込みを終えて船の基本構造も把握したフェイは一度船着き場に戻って戦いが終わるのを待つことにした。


「……あぁ、見覚えがある」


 ぼんやりと呟いたのは、アグリムに斬りかかった女の警備隊員の顔を見た時だった。

 そう、見覚えがある。あれは確か、王都のあたり……それこそルクシアン海岸のあたりを拠点にしていた頃に戦った警備隊の人間だ。


 あの時はどうしたんだったか。いつも通り、諦めなかった者を全て殺して、戦意を失っている者は放置して帰ったんだったか。

 あの女も、泣きながら仲間の亡骸に縋りついていたような気がする。それ以降は、アグリムと話すのに集中していたからフェイの意識からも外れていた。


 そんなことを考えながらじっと見ていたからか、女は珍しいことに、隠匿魔法で自身を包んだフェイに気が付いた。

 目が合って、少し驚く。姿を隠している時はアグリム以外と目が合う事なんてないから。


「貴女、貴女はどうしてこの男といるの!?」


 何を思ったのか叫んだ女に、首を傾げて観察する。

 何を言っているだろうか。というか、この状況でそんなことを気にしている余裕はあるのだろうか。

 アグリムが何も言わず、何もしないのは相手が女だからだろう。


 男がフェイに声を掛けたら即座に斬り捨てるが、女であればフェイが何かしらの拒絶を示すまでは放置するのがアグリムだ。

 女に優しいと言うより、フェイに甘い結果の行動である。などと考えて黙っている間に、女は再度口を開いた。


「血統魔法の魔力も感じる。貴女、どこか良家のお嬢さんなんじゃ」


 言えたのは、そこまでだった。

 フェイが微かに表情を変えたのと同時か、それより一瞬早くアグリムの斧が女の口を塞いだ。

 蹂躙の速度が上がる。遊んでいたアグリムが、遊ぶのをやめて殲滅を選んだのが分かる。


 フェイが目を閉じて深呼吸をして、再度目を開けた時には全てが終わっていた。

 目の前に立っていたアグリムに無言で手を伸ばすと、即座に抱え上げられて船に乗せられる。

 そのまま静かに船を出して、陸がそれなりに遠くなったところでようやくフェイはアグリムの腕から出た。


「フェイ」

「……考えもしないのでしょうね、あの女は」

「もう居ない。忘れちまえ」

「はい」


 ゆっくりと頭を撫でるアグリムに抱き着いて、フェイは静かに呼吸をする。

 いつでも一定の速度を刻むアグリムの心音に宥められるようにして、荒れた心は徐々に落ち着いて、眠気が誘われた。

 すぐに気付いたアグリムに寝てろと言われたので、フェイは素直に目を閉じて穏やかな昼寝を開始した。進む先だのなんだのは、起きた後に決めればいいだろう。

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