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悪辣の徒  作者: 瓶覗
16/45

15 移動

 砂漠の屋敷を占拠してしばらく経つと、屋敷の異常がどこかに伝わったのかそれなりに近い位置を飛行船が飛ぶようになり、屋敷の中を探索している時に戯れに作動させておいた自動迎撃装置に追い返されて行く様子が見て取れた。


 頻度が徐々に高くなっているので、自動迎撃を突破されるのも時間の問題だろう。

 フェイがそれを感じているくらいなのだから、アグリムはとっくに迎撃装置の対応できる範囲も認識しているはずだ。


「どうなさいますか?」

「そろそろ砂漠にも飽きたしなぁ……食料も余裕があるわけじゃねぇんだろ?」

「はい。まだあとひと月は持つと思いますが……」

「そこまで留まりたいわけでもねぇしな」

「そうですね」


 そんなわけで、二人は今後の予定について話し合っていた。

 飽き性なアグリムは既に砂漠自体に若干飽きてきているようで、ならばやはり、そろそろ別の場所へと移動するか、という話になる。


「海にでも行くか?」

「いいですね」


 気の向くままに予定を決めて、早速二人は準備を始めた。

 持っていくものはそれなりにある。

 アグリムは砂漠はともかくこの土地の服は気に入ったようなので、フェイの着替えがそれなりの量になりそうなのだ。


 あとは水と食料、その他持っていきたい物を選んで敷地内で見つけた飛行船に乗せていく。

 使用人が使う用なのか、乗ってきた物よりも簡素だが、そちらの方が何かと楽なので文句はない。

 大きさもほどほどで扱いやすいだろう。大勢が乗るならともかく、二人で使うのなら十分だ。


「向かう先は?」

「ここから西に行くと、砂漠を縦断する川があるようなので、それを辿りましょう」

「なるほどな。途中で街でもあったら船に乗り換えるか」

「そうですね、船があるようなら」

「あるだろ。……いや、どうだ?あんのか?」


 話しながらあれこれと荷物を詰め込んだ飛行船を動かして、それなりに滞在した屋敷を出た。

 中々過ごしやすいところだったが、出た後はわざわざ思い出すことも無いだろう場所だ。

 屋敷の自動防衛はそのままにしてあるので、屋敷の外を飛んでいた飛行船たちはもうしばらくあの屋敷の自動防衛に手を焼くことになるだろう。


 そんなことを考えながら飛行船を進めて目的の川を見つけ、時々操縦を交代して休みながら川を下っていく。

 出発前に船には簡易的なベッドも作ってあるので、地上にはほとんど降りずに数日ほど川を下って行き、大きな街が見えたので飛行船を地面に降ろす。


 飛行船で街に入っては、面倒事も多いだろう。

 この街には留まる予定は無く船があればそれを入手してさっさと立ち去る予定だが、それでも後から追われる面倒を考えると注目はされない方がいい。


「……お、船はありそうだな」

「本当ですか?なら船で下れますね」

「しばらく乗るだろうし……屋根のある船がいいか」

「そうですね、屋根があれば何かと楽かと」


 街の川べりには船がいくつも浮かんでおり、対岸とのやり取りにも使われているようだ。

 どの船がいいか、と品定めしながら川のあたりを歩き回り、良さそうな船を一艘見繕う。

 周囲の人間の意識が逸れた瞬間を狙って船に乗り込み岸から離れれば、追ってくるのは慌てたような声だけだ。


「目でも潰してやればよかったか……」

「服装が目立っただけでは?」

「だとしてもだ」


 離れていく街を睨みながらアグリムが吐き捨てるように言ったので、フェイは思わず笑った。

 街に入ってから、フェイは周りの人間が自分を見ているのを察していた。

 けれどそれは、明らかに庶民ではない服装の女がフラフラしているから、というもの珍しさであって、フェイ自体を見ていた訳では無いだろう。


 それでもアグリムからすればフェイを見ていたという判定なようで、もう少し彼の機嫌が悪ければ周囲の人間が軒並み目を斬られて船が奪われるという重大な事件になっていただろう。

 アグリムの機嫌がそこそこ良かったことに、街の人間は感謝しなければいけない。


 なんて考えつつ、フェイはアグリムの正面から横に移動して座り直す。

 飛行船での移動は快適だったがどちらかが操縦をしている時はどちらかが寝ている、という状態だったので、今までと比較すると共に過ごす時間が少なかったのだ。

 船での移動、しかも緩やかに降って行く水流に乗っての川下りなら、そこまで神経を使うことはない。


 ようやく二人でのんびり出来そうな時間が来て、フェイは密かに浮かれていた。

 アグリムも後ろを観察するのをやめたので、もう追っ手はいないのだろう。

 慣れたようにフェイを膝の上に乗せて、顔を覆っていた布が外される。


「さぁて、どんくらいで海に出るだろうな」

「それなりに距離はあるかと。途中にあるだろう村で面倒がなければいいですが……」

「水門程度なら壊してやるよ」

「はい。何かあればお願いしますね」


 食料はそれなりの量を持ってきているので、どこかで村に立ち寄らなければいけない、なんてことにはならなさそうだ。

 他に欲しいものが出て来れば別だが、恐らくこのまま海に出るまでのんびりと船に揺られていればいいはずだ。


「飽きたら陸路だな」

「そうですね」


 元々予定らしい予定もないので、どうなろうと困りはしない。

 そんなわけで、二人は早速船の中を快適にするために物を動かして場所を確保し始めた。

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