14 質問
屋敷を制圧してから一夜明け、二人は改めて屋敷の中を見て回っていた。
結果として見つけた防衛装置を戯れに起動して、外から来るかもしれない何かへの対策にしてみた。まぁ、そんなものに頼るよりもアグリムが倒しに行く方が早くて確実なのだが。
その他にも色々と見つけたものはあり、それらを抱えて主に使うことにした家主の部屋へと運び込む。
移動の手間と部屋の広さなどを考えて、使いやすいのがここだったのだ。
キッチンも見つけたので、そこにあった食材を使ってフェイが食事を作って部屋に持ち込んでもいる。
そのままで食べられる果実などは部屋に置いて、快適な拠点作りは順調に進んでいた。
一日も経たずに屋敷の中を粗方探索し終えて、外の使用人たちが使う建物も調べ終えた後は二人揃ってのんびりと過ごすことにした。
フェイはお嬢様の部屋にあった本を持ってきて読書に耽っており、アグリムはそんなフェイの髪を弄っている。
「……アグリム様」
「どうした?」
「もし私が死んだら、どうなさいますか?」
唐突なその質問に首を傾げつつ、アグリムはフェイの読んでいる本に目を向ける。
残念ながらアグリムには読めない文字だ。フェイは一体いつの間に読めるようになったのか分からないが、もしや見つけた書斎ではなくわざわざお嬢様の部屋の本を持ってきたのは分かりやすい方を選んだからなのだろうか。
「急だな……何の本だ?それ」
「死に別れる恋人たちの悲劇です」
聞いてきた理由は分かった。
とどのつまりは、いつもの雑談と同じで話す内容は何でもいいのだろう。
少しは気になって聞いたのだろうが、深い意味はないようだ。
「俺が先に死んだら?」
「……アグリム様が、私より先に……?」
「想像でいいんだよ」
本気でありえないと思っていそうなフェイに、アグリムは思わず笑った。
確かにアグリムと比べれば、フェイの方が圧倒的に脆い。戦闘でなくとも、病やなんかで簡単に死んでしまうのはフェイの方だろう。
「……後を追います。アグリム様が居ないのなら生きている意味も無いですし」
「そうか。……なら、俺が死ぬときには先に殺してやろうか」
「本当ですか!?」
ぱっと花が咲くように笑顔になったフェイは、何か宝物でも貰ったかのように口を手で押さえてはしゃいだ声を出す。
アグリムとしてもフェイを置いていくのは好ましくない。本人が望んでいるのだし、死ぬときには連れて行ってしまってもいいだろう。
はしゃぐフェイの頭を撫でつつ、アグリムはゆっくりと思考を回した。
二人が長い時間、長距離で別行動を取ることは、基本的に無い。相当な何かが起こらなければ一緒に居るので、アグリムがもし何か、戦闘などで死ぬようなことがあれば、その場にはフェイも居るだろう。
フェイがアグリムの死に時を見誤るとも思えないので、果たせるだろう約束だ。
「お前が先に死んだら……」
アグリムが死ぬときの事を想像し終えて、次は最初の質問について思考を回す。
フェイは本を閉じて後ろにいるアグリムの方を振り返っており、目が合ったのでその頬に手を添えて静かに声を出した。
「そうだな、俺は後は追わんが」
「そうしてください。是が非でも」
「ふっ」
迷うことなく言い放ったフェイに思わず笑いつつ、アグリムは冷静に自分が後を追うことは無いだろうと考えていた。
フェイは、アグリムが居なければ生きていけない。二人ともそれを確信しているから、アグリムが死ぬときには連れて行くのだ。
だが、アグリムは一人で生きていける。
けれど、まぁ、今と同じようには、過ごさないだろう。
「……そうだな、お前が死んだら、弔いに世界でも滅ぼそうか」
アグリムの中で纏まった答えを声に出すと、フェイが驚いたように目を見開いた。
完全に予想外の答えだったのだろう。フェイにしては、珍しい。
「……世界を?」
「おう。どっかの国では、王族の弔いに家来を殺して死出の供にするんだろ?」
「そう、いった、文化がある所もございますね」
「俺からしたら、お前以外に価値は無いからな。世界丸ごと、お前のための棺桶にする」
「それは……ふふ、すごく、壮大ですね」
想像したのか、楽しそうに笑ったフェイを撫でて、アグリムも笑う。
そこに価値があるかどうかが重要なのではなく、弔いに他を殺すという文化があるという事実が重要だった。
言ってしまえば、フェイを殺した世界に対して弔い合戦をするのだ。
フェイが居なくなった時点で、あらゆることはアグリムにとって楽しい事ではなくなるだろう。
楽しみが無くなるのであれば、その代わりに目的が必要だ。
フェイの弔い、というのなら目的としては文句のつけようもない。何の躊躇いも、煩わしさも感じずに行えるだろう。
「そう簡単に死んでくれるなよ」
「はい。勿論です」
世界などどうなろうとどうでもいいが、二人で過ごす時間が短くなるのは嫌だ。
そんなことを考えて、フェイは躊躇いなく返事をした。
そもそもフェイは昔、アグリムに勝手に死ぬなと言われているので、死ぬ気など欠片も無いのだ。
ただ雑談の種程度の気持ちで聞いてみたことだったが、思っていたよりずっと壮大な話になってしまって楽しかっただけの話。
アグリムも最初からそれは分かっていたので、これは本当に、ただの雑談と口約束みたいなものなのだ。




