13 屋敷
屋敷の中は阿鼻叫喚の地獄と化していた。
二人が屋敷に侵入して少し時間が経てば、侵入者が居るという情報と共に混乱と恐怖が広がり、逃げ惑う使用人たちを刈り取って行く時間が続く。
この屋敷の他の家人は娘が一人いるだけだそうで、残りは全て使用人だ。
かなりの人数が既に事切れており、通信機も二つほど壊して他にそれらしき魔法の気配もしないので、後は屋敷を無人にするだけの作業となっている。
時折アグリムに媚を売るように必死に笑みを浮かべる女がいるが、全て関係なく斬り捨てられて転がった。
アグリムが女好きだという噂がここにも届いているのだろうか、とフェイがのんびり考えている間にその場にいた者を全て動かなくしたアグリムが移動を始めたので、思考はそのままについて行く。
人目に付く場所へ行くときにはフェイがいつも髪色を変えるせいなのか、アグリムは複数の女を侍らせている女好きなのだという噂があったのだ。
へぇ、と一言零しただけで二人とも興味を失った噂なのだが、アグリムに殺されそうになると必死に媚を売る女が一定数居るのも事実。
アグリム相手ではなくとも生き延びるためにやるのかもしれないが、フェイには分からぬことなのでここにも噂が?と暇つぶしがてらに考えていた。
「お?」
「ここがお嬢様の部屋、でしょうか」
「そうかもな」
言いつつ、アグリムは斧を仕舞った。
殺す気が無い訳では無く、ここにはフェイの服になる予定のものがあるはずだから汚さないように、という事だ。
逃げることも出来なかったらしく部屋の中にいたお嬢様は、悲鳴を上げる間もなく、血を零すことも無く静かに絶命した。
その様子を見ることもせず、フェイは部屋の中を確認する。
扉を開けてみて色々と確かめたところ、そのうちの一つが衣装部屋へと繋がっていたので入ってみて中の物に目を向けた。
こんな場所に屋敷を建てて使用人を大勢働かせている家の娘だけあって、衣装は大量にあるし全てが繊細で豪華なつくりだ。
「お。いいな、後でしっかり確認するか」
「はい。次はどちらへ?」
「外の建物。この屋敷の中にはもう居ねぇな」
「かしこまりました」
軽く確認しただけでもアグリムの希望通りだったようで、ご機嫌なまま部屋の外へと出て行った。
その背を追いつつ、ふわりと浮いて飛んでいったお嬢様の身体を一瞬だけ目で追う。
運んでいるのはアグリムの魔法で、向かう先は壁の内側の端だ。
すぐに出る予定ではないので、滞在中にそれらが目に入っては気分も良くないからとアグリムが一か所に集めているのだろう。
前にも何度か見たことのある光景なので、フェイはすぐに納得して視線を戻した。
その後も淡々と壁の内側を無人にする作業を続けて、敷地の中に人の気配が無くなった、とアグリムが止まったのは数時間が経ってからだった。
乗ってきた飛行船も敷地の端に動かして地面に落とし、まずは風呂にでも入るか、と屋敷の中を進む。
「アグリム様、先に入られますか?」
「そうだな……フェイは汚れてねぇか?」
「はい。着替えを探してお持ちしますね」
「おう」
既に人の居ない屋敷の中なので、別れて動いても問題は無い。
アグリムはその気になれば魔力でフェイを見つけられるし、フェイもそれほど離れる気は無いので浴室へ入って行ったアグリムに静かに頭を下げてから、家主の部屋であろう場所に当たりを付けて着替えを探しに向かった。
見つけた部屋の中、お嬢様の方と同じ作りならばと開けた扉は予想通り衣装部屋だったけれど、明らかに男物ではない服も収まっていた。
服……服、というには布地が少ない気がするそれは目的のものではないので放置して、男物の服の中から良さそうなものを選んで抱える。
ついでにお嬢様の部屋の方にも寄って自分の着替えも確保して浴室に向かう。
中からはアグリムの鼻歌が聞こえてくる。上機嫌だ、と思いつつ服を置いたところで扉が開いて湯気が溢れてきた。
「お前も今入るか?」
「アグリム様がお望みなら」
「なら早く来い。中々良いもんだぞ」
「はい」
それだけ言って扉を閉めたアグリムの鼻歌を聞きつつ服を脱いで、脱いだものは適当に畳んで床に落とす。おそらくもう一度着ることは無いだろう。
浴室に入ると、巨大な浴槽に並々とお湯が張られていた。砂漠の中でこれだけのお湯を張れる浴槽というのは、かなりの贅沢なのではなかろうか。
なんて考えながら身体を濡らして、置いてあった石鹸を使って身体を洗っていく。
これもまた質が良い物で、泡立ちも香りもとても良い。
布で覆っていても防ぎきれなかった砂が絡んでいた髪が綺麗になって、とてもいい気分だ。
「ふふ」
「気に入ったか?」
「はい。アグリム様はいかがですか?」
「言っただろ。中々良いもんだな」
「そうでした」
アグリムも気に入ったから、わざわざフェイを急かしに来たのだった。
思い出して笑いつつ、泡を流して浴室に身を沈める。
あれこれやっている間に外はすっかり夜になっていたから、お湯に浸かると身体が温まる端から解けていくような心地だ。
「お湯は屋敷の装置か何かで?」
「おう。地下に水脈があるのか、魔導式で引き上げれるようになってた」
「なるほど、それで外にも水路があったんですね」
庭にあった水路とちょっとした花壇を思い出して、そんな土地だから選んで屋敷を作ったのだろう、と考える。
その後も心ゆくまでお湯に浸かって、二人で星空を見上げながらのんびりと話をした。




