12 飛行船
飛行船の設計図がありそうなところ、と話し合った結果、恐らく街にあるであろう飛行船の造船所を探すことになった。
探すのはそう難しい事ではなく、半日もしないうちに見つけることが出来たので建物の中に入り込んで、恐らく一般的な物であろう船の設計図を一枚失敬してきた。
「どうだ?」
「資材に余裕があるのだろう構造ですね。面白いです」
設計図を持ってやって来たところは人気のない高い塔の天辺だ。
フェイが設計図を探している間にアグリムが見つけたらしい塔で、入口は閉ざされていたので外から跳んで登ってきた。
見晴らしがよく、頂上には小部屋もあって留まるにも快適な場所である。
廃屋からこちらに拠点を移して、他の探し物にも手を付ける。
そちらもそう時間もかからず、数日のうちには調べも付いてちょうど街に留まっていた飛行船へと標的を定めた。
出発する日時も既に調べてあるので、後は忍び込んで街から離れたところを襲うだけだ。
難しいことは何もなく、出発前の船に流れるように忍び込む。
フェイは堂々と正面から、荷物を運ぶ使用人たちに交じって荷物を抱えて乗り込んだ。
服は適当に似たものを用意して、髪色は背格好の似た娘が一人いたのでそれと同じ色にしてある。
堂々と船に乗り込んで貨物室に向かったフェイは、窓の一つを開けておく。
そこからアグリムが中に入り込んで、フェイがあらかじめ用意しておいた荷物の隙間に入りこんで離陸を待っている。
アグリムが正面から入ると流石にフェイの隠匿魔法込みでも目を引くので、人が入り込む事など想定していない方向から入ってきてもらったのだ。
浮かんで乗り口と高さを合わせている飛行船の下側から人が侵入するなど、普通は考えられないからこそちょうどいい。
そんなわけでそれぞれ船に忍び込んだ二人は、貨物室で合流して飛行船が街から離れるのを待った。
増援が来るのも騒ぎになるのも面倒だ。襲うのは、街を離れて何もない砂漠の上を飛んでいる時である。
「……アグリム様」
「よし、行くか」
「はい」
船が飛び立ってしばらくしてから、フェイは外を確かめてアグリムに声を掛けた。
ここから、また少しだけ別行動だ。
アグリムは当然、船の主導権を奪いに船の中の人間を襲う。
斧は一回り小さい方を持っている。狭い室内では、そちらの方が扱いやすいのだろう。
大きな方でも出来なくはないのだろうが、だとしたら素手の方が楽だと言いそうなのがアグリムなので。
一方フェイは、この船にあるらしい外部との通信が出来る道具を抑えに行く。
先ほども言った通り、増援が来たり騒ぎになったりは面倒なのだ。
街の中にある屋敷ではなく飛行船でなければ行けないような、わざわざ遠くに作った屋敷に向かうのはそれが理由なのだから。
そんなわけで、二手に分かれて船の中を進む。
フェイが通信機を見つけてそっと手の乗せたところで後ろから人が来て悲鳴を上げたが、その直後にはアグリムが来てその人を斬り捨てていた。
「壊すか?」
「そうですね。お願いしてよろしいですか?」
「おう」
斧の一振りで壊れた通信機を捨てて、二人揃って操縦室へと向かう。
船内は既にアグリムに制圧されて、船の主であろう身なりのいい人間も物言わぬ肉へと変わっていた。
そんな船内をちらとだけ見て興味を失ったフェイは、一足先に操縦室へと踏み込んでいるアグリムを追って操縦室へ入り、動かなくなった操縦士の代わりに操縦桿を握った。
飛行船自体は前から操縦できるが、念のためこの国の飛行船についても調べては来てある。
実際操縦は問題なく行え、横に立ったアグリムに問題ないと伝えて、行き先は変えずに元々の飛行ルート通りに船を動かした。
しばらく飛んで、目的地であろう場所が見えたのは日が沈むくらいの時間だった。
それなりの速度で進んではいるが、遠いのだから仕方ない。
砂漠の中にポツンと建っている屋敷はかなり大きく、使用人が暮らしているのだろう建物などもあるので小さな町のようにも見える。
飛行船以外での移動は想定していないようで、建物を囲む壁には出入り口などは無さそうだ。
そんなことを考えながら船を高い位置にある船着き場へと添わせるように止め、出入り口に向かったアグリムを追う。
降りてくるはずの家主を迎えるために船着き場に並んでいた使用人たちは、フェイが船を降りる頃には既に地面に伏していた。
「アグリム様、船の荷物を少し下ろしてもよろしいですか?」
「どれだ?」
「食料です。三つほど……」
全員が動かないのだから、屋敷の中に報告も出来はしない。
ならばと先に船の中の荷物で欲しい物だけを外に運び、船がもし落ちても問題が無いようにしてしまおうと思ったのだ。
落ちないのなら今後の移動にも使えるが、中は血みどろなので別の物を探したい気持ちもある。
飛行船以外で出入り出来ない屋敷ならば他の船もあるだろうし、出る時はそれを使えばいいだろう。
最悪アグリムなら別に船は無くても問題は無いから、落としてもいいのだ。
「よし、まずは中を制圧するぞ」
「はい。私は通信機を探してまいります」
「おう。……いや、離れすぎるな。ついて行くから、そのついでに制圧する」
「かしこまりました」
下ろした荷物は一旦船着き場に置いて、二人は屋敷の中へと進む。
察しの良い者が異常を感じたのかやってきて、他より先に斬られて行くのをアグリムの後ろから眺めつつ、通信機があるのならどこだろうか、とフェイはのんびり考えていた。




