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ギャル、その力を知る。

 「えぇ……、ココで調べるの?」


 どう見たところで完全なボロ小屋。

 とてもではないが、こんなところでまともな検査が行えるとはとても思えない。

 苦い顔で真愛(まな)(きびす)を返そうとしたその時だった。


 「フフ、そろそろ来る頃だと思っていたよ。そのコが、ウワサの勇者サマかい?」


 今にも取れそうな木の扉が開かれて、誰かが出て来た。

 くたびれて色あせた紺のシャツに、同じく色あせた褐色のジャケット。その上から白衣を纏った少年が立っていた。


 「えぇ~!! なになになに、メッチャ可愛いじゃん!」


 年の頃は一三か四歳ほどの、まだあどけなさを残すその少年を見た真愛(まな)は、今までの態度が嘘のように上機嫌になっていた。

 翡翠色のくりくりとした瞳。

 歯車の意匠とゴーグルで飾られた茶褐色のハット、そしてそこから僅かに覗く金髪。

 年にしては背が低く、白衣に着られているといった印象を与えるその姿に、一発でノックアウトされてしまう。


 「もしかして、このコがあーしの検査をしてくれるの?」


 「ハハハ……、随分と元気なコだね。とても伝承の勇者とは思えないけど?」


 すっかりメロメロの真愛(まな)に、若干引きつつ同行のメイド騎士へと助けを求める少年。

 セシリアが、「落ち着け」と真愛(まな)を引き離さなければ、そのまま連れ去りそうな勢いだった。


 「コイツはこの国で魔法研究をやっている、一応……医者だ」


 「ちゃんと医者のつもりだけどね、ボクは。まぁいい……改めて、初めまして勇者サマ。ボクの名はミシェル、今日はキミの魔法について色々調べさせてもらうよ」


 白衣のポケットに手を突っ込みながら、ちょっとカッコつけるその姿にも真愛(まな)はときめいてしまう。


 「あぁ……、魔法だなんて言わずに、あーしの全てを調べてください!!」


 「遠慮しとくよ……、早速だけど、中へ入ってもらおうか。外はニガテなんだ」


 怪しい動きでにじり寄る真愛(まな)を無視して、ミシェルはさっさとボロ小屋の中へと入っていってしまう。

 先ほどまで、そのボロさに苦い顔をしていたのも忘れて、真愛(まな)はその後に素直についていく。

 あまりの態度の急変に、セシリアは乾いた笑いを浮かべるしか出来なかった。


 「ハハハ……大した勇者サマだよ」



 小屋の中は、外観からは想像もつかないほど綺麗で、まるで――というよりも当然と言うべきなのだろうが病院か研究室のようだった。

 そして、そこでの検査は一時間近くに及んだ。

 薬を飲み、フラスコやビーカーを取りつけられた謎の機械の前に立たされたり、魔法陣がいくつも描かれた本を読まされたりと、『医者』が行う検査にしては随分と風変わりなものばかりだった。


 「あー……、飽きてきちゃった。ミーくん、まだ終わらないの?」


 「ミーくん? ま、好きなように呼んでくれて構わないけどね。あと一つで終わりだよ。そこの壁に向かって魔法を……そうだな、炎を出してもらおうかな」


 そう言ってミシェルが指差した先。

 そこの壁は、他と違って欠けたり、へこんだり、焦げ付いていたりとボロボロだった。


 「え、でもあーしは魔法を使えないけど……?」


 「いいや、キミならできる。さぁ、やってごらん」


 翡翠色の瞳で見つめられると、なぜだか本当に出来そうな気がして、真愛(まな)は言われるがままに壁の前に立つ。

 オークへと光線を放った、あの時の感覚を思い出そうと集中する。


 「う~ん……、はあっ!!」


 突き出した手。

 その先へと熱が収束していき、それは炎となって壁へと突き進んだ。

 ミシェルの言葉通りに、『魔法』を行使できた真愛(まな)

 しかし、その威力は、その行使を言い当てたミシェルにも予測不能なものだった。


 「ゲッ、ヤバ……!!」


 勢いよく放たれた超高温の灼熱は、元々ダメージが蓄積していた壁を突き崩し、さらにはドロドロに熔解させてしまった。


 「ハハハ、これはこれは。なかなかにやってくれるね」


 「凄まじい威力だな……、金属の壁がまるで液体だ」


 未だ高熱を帯びている、壁だったモノを見ながらセシリアが言う。

 手練れの騎士である彼女の実力を以てしても、これほどの威力を出すにはそれなりの準備をしなければならない。

 それを、まったくの土壇場、それも意図せずに引き起こせるなど尋常な実力ではなかった。


 「でも、なんであーし、魔法を……?」


 「うんうん、なるほどね……、ガワぐらいではあるけど掴めてきたかな」


 自らが引き起こした現象に、小刻みに指を震わせる真愛(まな)

 その手を、無遠慮に掴んでつぶさに観察しながら、一人で勝手に納得しているミシェル。


 「おい、一人で満足してないで説明してくれ。彼女が魔法を、ここまでのレベルで行使できる理由を」


 二人を放っておいて、ウキウキした瞳で机へと向かおうとしたミシェルをセシリアは呼び止める。

 「ああ」、と本気で忘れていたように振り返り、ミシェルは口を開く。


 「そうだな……、結論から言うと彼女の魔法はボクらが普段目にしている魔法とはモノが違う、ということかな」


 「へ?」


 「どういうことだ?」


 真愛(まな)は言わずもがな。セシリアの頭上にもハテナが浮かんでいる。


 「この世界の普段行使されている魔法。それは魔力を精製して、それを剣や杖、その他諸々のデバイスを介した魔法陣へと読み込ませて初めて魔法という形で出力される」


 ミシェルはそこで言葉を切り、真愛(まな)を見つめる。


 「だが、シジョウマナ……、キミは違う。キミの魔法は結果ありきの魔法なんだ」


 「結果ありき?」


 「そう。最初に、今回なら炎の魔法。それが世界へと出力されて、その後で発動に必要な動作が行われる。手をかざすというね」


 興奮気味に話すミシェルに、驚愕の表情を固まらせたセシリアが疑問を呈する。


 「待て。だったらなにか? マナの魔法は思考だけで発動できるということか?」


 「そうだね。発動してからそれに必要なプロセスを経るから、基本的には思考だけで魔法が出力されるんだろうね」


 あっさりと。

 セシリアの言葉に首肯するミシェル。

 それを受け、乾いた笑いを浮かべて脱力するセシリア。

 信じ難かった。

 威力だけならまだしも、そこまで常識の埒外にある魔法など、もはや彼女の想像を超えすぎていて追いつけなかった。


 「勇者の魔法、ということか……」


 「そうだね。あまりに法則(フォーマット)が違い過ぎて、ボクにも詳しいことまではわからないけど、勇者――異世界人の魔法だから、という他は今のところないだろうね」


 プロフェッショナルであろう二人でさえも、ちゃんと原理を理解できていないものに、ずぶの素人である真愛(まな)が、今の会話を理解できるはずもなかった。


 「えーと……、もしかして、あーしってマジ凄いってコト?」

 

 少し重苦しい雰囲気を明るくしようと、ちょっとふざけて、かわいらしく自分の顔を指差しておどける真愛(まな)

 しかし、返ってきた言葉は思っていたものではなかった。


 「ああ。凄いなんてもんじゃない。まさに勇者、怖いくらいだよ」

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