偽物こそが英雄だと知る
「そうだな……自己紹介が遅れた。私はこの冒険者ギルドラウリッツ支部のギルドマスターで、英雄レンヤ=ミズキのパーティー『百花繚乱』の一人、メルエラだ」
そう名乗ると、ダークエルフの女性……[神弓]メルエラは、ニコリ、と微笑んだ。
「ま、待ってください! 確かにダークエルフは長命で、英雄レンヤがいた時代に生きていたとしてもおかしくはないですが、それがどうしてこんなところに!? しかも、ギルドのマスターなんて!?」
「まあ、色々とあってな……とりあえず、証拠を見せてやろう。【ステータスオープン】」
メルエラ……さんは、今度は自分の能力が記された文字盤を出現させた。
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名前 :メルエラ(女)
年齢 :459
職業 :神弓
LV :99
力 :SS
魔力 :SS
耐久 :SS
敏捷 :SS
知力 :SS
運 :SS
スキル:【弓術(神)】【貫通(神)】【百発百中】【ステータス表示】【風属性魔法(極)】【状態異常無効】【物理耐性】【魔法耐性(全属性)】
残りスキルポイント:3802361
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そのあまりにすさまじい能力値に、俺は声を失う。
あの時に見たアデルの能力値なんかとは、比べものにならない。
「フフ……能力値については『SS』がステータスで表示できる上限でな。実際の能力は、さらにその上の能力なのだぞ?」
「そ、そうですか……」
だけど、表示されている名前も、この能力値も、そして職業も、あの[神弓]メルエラであることを物語っている。
これは、彼女の言葉は全て正しいのだという証拠なのだ。
つまり。
「ほ、本当に……英雄レンヤの職業は、[英雄(偽)]だった……」
「そうだ。レンヤは[英雄(偽)]で最強に至り、この世界を救った。そしてお主もまた、[英雄(偽)]の職業を持つ者として、誰よりも強くなる素質を秘めているということだ」
「ゲ、ゲルト!」
「ああ……ああ……っ」
腕にしがみついて瞳を輝かせながら見つめるライザに、俺は何度も頷いた。
二度目の人生で全てを諦め、捨てたはずの俺の夢は、何一つ失われていなかったんだ……っ。
「さて、ゲルト君……ここで私から質問だ。かつての仲間である英雄レンヤから、私が存命中にもし同じ職業を持つ者が現れた時には、『最強になるための方法を伝授してやってほしい』と頼まれている」
「は、はい」
「だが、レンヤの強さを目の当たりにした私だからこそ、その伝授に当たっては慎重にならざるを得ない」
……メルエラさんの言うことはもっともだ。
もし俺が最強になった後、悪に手を染めることになったとしたら、下手をすればこの世界が終わるということ。
何せ英雄レンヤは、あの伝説の破壊神“アフリマン”すらも倒したのだから。
「ゲルト君。君は最強を手に入れたら、どうしたい?」
「俺、は……」
俺の夢は、英雄レンヤと同じ英雄になること……だった。
それに、あの時の感情……アデルとアナスタシアを、絶対に許さないということ。つまりは復讐だ。
だけど。
「……俺、このラウリッツに来る途中で、ライザと話したんです。『いつか二人で店をもって、のんびり暮らしたい』と」
「…………………………」
「前の街で色々あって、ひょっとしたらかつて仲間だと思っていた連中に絡まれることがあるかもしれません。その時、俺は大切な幼馴染を……ライザを守れれば、それでいい」
そう……俺が夢に破れて絶望したあの時に、たった一人俺を信じてくれて、認めてくれたライザだけが、今の俺にとって何よりも大切なんだ。
だからもう、俺の夢は英雄になることじゃない。
いや、そもそも英雄になりたい理由だって……。
「フフ……面白い。英雄を夢見続けた男が、最強を手に入れることができると知ってなお、あえて平凡でささやかな幸せを選択するのか」
「はい」
「あ……ゲ、ゲルト……ッ」
ぽろぽろと涙を零して見つめるライザの髪を、俺は優しく撫でた。
俺は、この素敵な幼馴染を、誰よりも幸せにしたいんだ。
「それだけ聞ければ充分だ。私は、お主に最強に至る方法を伝授しよう。いや、お主だからこそ伝授したい」
「あ……」
「ゲルト! やった! やったね!」
メルエラさんがニコリ、と微笑むと同時に、顔をくしゃくしゃにしたライザが俺の胸に飛び込んだ。
俺は、この小さな幼馴染を強く抱きしめる。
――この、世界一愛おしい女性を。
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