伝説の英雄の、かつての仲間
「君か! [英雄(偽)]の職業を持つ冒険者というのは!」
勢いよく部屋から飛び出して現れたのは、白銀の髪に褐色の肌を持つ、美しいダークエルフだった。
だ、だけど、ダークエルフなんて珍しいな……あの種族は、滅多に人前には現れないはずなんだが……って!?
「うむ……うむ! よい面構えだ! 確かに君なら、[英雄(偽)]であることも頷ける!」
「ちょ、ちょっと!?」
ダークエルフの女性は、俺の両肩をガシッとつかみながら、その綺麗な顔を近づけて何度も頷く。
と、というかこのギルド、セシルさんといい距離感が狂っているぞ!?
「むううううううう! ど、どなたか知りませんが、ゲルトから離れてください!」
ライザが両頬を思いきり膨らませ、俺とダークエルフの女性の間に割り込んで引き離した。
俺はライザに感謝しつつも、ほんの少しだけ名残惜しさ……なんてないぞ。だからライザ、そんな目で俺を見ないでくれ。
「ん? おお、これは失礼した。それで、先程セシルから君の職業が[英雄(偽)]と伺ったんだが……」
「は、はあ……確かに間違いないですが……」
「おお! そうかそうか! なら、念のために確認させてくれ!」
「「確認?」」
「【ステータスオープン】」
ダークエルフの女性は手をかざすと、目の前に文字盤が現れた。
―――――――――――――――――――――
名前 :ゲルト(男)
年齢 :18
職業 :英雄(偽)
LV :20
力 :C
魔力 :C
耐久 :C
敏捷 :C
知力 :C
運 :C
スキル:【剣術(中)】【統率(中)】【鼓舞(中)】
残りスキルポイント:2
―――――――――――――――――――――
こ、これは……あの時のアデルが使ったスキルと同じ……。
しかも俺の能力が、『年齢』と『残りスキルポイント』の項目以外は一切変化がないのは一体……。
「うむ! 確かに[英雄(偽)]で間違いない! それに能力も順当に頭打ちだな!」
そんな俺の情報が記された文字盤を眺めながら、満足げに頷くダークエルフの女性。
何だよ、これ……結局は彼女も、俺を笑い者にしたかったってことなのか……。
「……もういいよ。ゲルト、行こ」
怒りに満ちた表情で、ライザが俺の手を引いた。
そう、だな……俺もこれ以上、耐えられそうにない。
俺はライザの小さな手を強く握り返し、踵を返して無言でギルドを出ようと……。
「ちょ、ちょっと待ってくれ! 急にどうしたのだ!?」
「どうしたもこうしたもないよ! 私の大切なゲルトを、晒し者にするようなことをしたくせに!」
「晒し者!? どうしてこの私が、そのようなことをせねばならんのだ!?」
「じゃあ……じゃあ、これは何なのさ! それに、わざわざ『[英雄(偽)]で間違いない』だとか、『能力も順当に頭打ち』だとか、なんでそんなゲルトを馬鹿にするようなことばっかり言えるんだよお……っ」
ライザが俺の代わりに憤り、涙を零してくれていれる。
それを心から嬉しく思う反面、そんな自分がどうしようもなく許せなくて、不甲斐なくて、情けなくて……。
「ま、待て! 誤解だ! そもそも、あの伝説の[勇者]をも超える最強の職業を、この私が馬鹿にするはずがなかろう!」
「っ!?」
ま、待て……この女性、おかしなことを言わなかったか?
俺の職業が……最強|、だって……?
「も、もうマスター! ちゃんと説明しないと誤解されるに決まっているじゃないですか!」
「む、そ、それもそうか……」
セシルさんにたしなめられ、ダークエルフの女性は肩を落とす。
だけど、やっぱり彼女がギルドマスターなんだな。
「すまない……あまりの嬉しさに、つい我を忘れてしまってな。だが、私が言ったように、その[英雄(偽)]こそが、この世界で最強の職業なのだ。何せ、あの英雄レンヤと同じ職業なのだからな」
「「え……?」」
ギルドマスターの言葉に、俺とライザは思わず呆けた声を漏らした。
ま、待てよ……英雄レンヤが、俺と同じ[英雄(偽)]だって……?
「フフ……レンヤと共に旅した、あの三百年前が懐かしい。あの男は破天荒で突拍子もなく、そして誰よりも仲間想いだった……」
「ちょ、ちょっと待ってください! その……あなたは英雄レンヤを、知っているんですか……?」
「ああ。若く未熟だった頃、私はレンヤと同じパーティーにいた」
待て。
待て、待て、待て。
英雄レンヤと共にいた仲間といえば、[大魔導師]“リンデ”と[剣神]“シルバー”、そして、[神弓]“メルエラ”。
この中のいずれかが、目の前の女性だっていうのか!?
「そうだな……自己紹介が遅れた。私はこの冒険者ギルドラウリッツ支部のギルドマスターで、英雄レンヤ=ミズキのパーティー『百花繚乱』の一人、メルエラだ」
そう名乗ると、ダークエルフの女性……[神弓]メルエラは、ニコリ、と微笑んだ。
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