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はじまりの街で夢を終えたい

「グス……は、はは、格好悪いな、俺」


 ようやく落ち着きを取り戻した俺は、ゆっくりと顔を上げて苦笑する。


「ううん、そんなことない。でも、私に本当のことを打ち明けてくれてありがとう」


 そう言って、やっぱりライザは微笑んでくれた。

 あの時(・・・)と同じように、ライザだけは俺の味方でいてくれる。俺の(そば)にいてくれる。


 それだけで、俺の胸が温かくなる。


「でも、これからどうするの? アデルはともかく、他のみんなも追い出しちゃったから、パーティーは私とゲルトだけになっちゃったけど」

「それなんだけど……これからは、あの街……“ヴァルク”を出て別のところで細々とやっていこうと思うんだ。ほら、俺の職業(ジョブ)は[英雄(偽)]で、冒険者としては所詮二流止まりだから」


 ライザが受け入れてくれたおかげで冷静になれた俺は、これからのプランについて説明した。

 冒険者としては大したことがないかもしれないが、それでも今までの経験を活かせば、少なくとも普通に生活する分には困らないと思うから。


「それだったら、ヴァルクの街から出ていく必要はないと思うんだけど……それに、あの街はこの国でも王都の次に大きいから、クエストもよりどりみどりだし」

「そうかもしれないが、あの街にはアデル達がいる。俺は、アイツ等と同じ空気を吸うことすらも嫌だ」

「あ、あはは……」


 怒りがこみ上げてプイ、と顔を背けた俺を見て、ライザは乾いた笑みを浮かべる。

 死に戻る前の二年間、落ち目の俺とは対照的にその能力を開花させて成り上がったアデルは、執拗に俺達に絡んでは馬鹿にしてきたからな。


 街の連中だってそうだ。

 あっさりと手のひらを返して、俺達を見捨てることを知っている。


「じゃ、じゃあ、ゲルトはどこに行こうと考えているの? あ、もちろん私は、どこだって君についていくけど」

「あ、ああ……」


 はにかむライザに、俺はつい照れてしまう。

 そんなにはっきりと言われたら、その……ものすごく嬉しいんだけど。


「とりあえずこの国……“ブロイツェン王国”と“アストライア帝国”の国境にある、“ラウリッツ”の街に行こうと思う」

「ラウリッツ……って、あのはじまり(・・・・)の街(・・)?」

「そうだ」


 ――はじまりの街、ラウリッツ。


 あの英雄レンヤが、その第一歩を踏み出した街。

 伝説を知る者なら、誰だって知っている有名な場所だ。


「その……ゲルトはどうして、ラウリッツの街に行きたいの?」

「それは……」


 ライザへの説明を、俺は一瞬ためらう。

 だけど、俺のたった一人の大切な幼馴染に、話さないわけにはいかない。


「……俺の憧れだった英雄への夢を、諦めるためだ」

「……そっか」


 ライザは、それ以上何も聞かなかった。

 でも、バジリスクの討伐を放棄して森を抜けるまでの間、ライザはずっと俺に寄り添ってくれた。


 まるで、『私がずっと(そば)にいるよ』って言ってくれているかのように。


 ◇


 街へと引き返した俺とライザは、冒険者ギルドに登録証となるプレートを返却し、すぐに支度を整えて旅に出た。

 ギルドの連中は驚いて引き留めにかかったが、どうせ三か月もすれば手のひらを返すんだ。俺はにべもなくギルドを後にした。


 十五歳で冒険者になってから三年の間、ずっと過ごした街だが、もう二度とここを訪れることはないだろう。


「えへへ……こうやって二人きりで旅をするのって、三年振りだね」

「そうだな」


 はにかむライザに、俺も微笑みながら頷く。

 ライザを連れて村を飛び出した時からこの街に落ち着くまでの間は生きるために必死だったから、盗みを働いたり色々としでかしたせいで、同じ場所に居続けることが無理だったもんなあ……。


「ね……私、いつかゲルトと二人でお店を持ったりして、のんびり暮らしたいな」

「それってどんな店なんだ?」

「そうだねー……食堂とか?」

「食堂なあ……」


 確かにライザの料理は絶品だから、繁盛しそうだな。


「じゃあ、そのための資金を貯めないとだな。さすがに今の手持ちじゃ心許ない」

「そ、その……いいの?」

「『いいの?』って、いいに決まってるだろ」


 おずおずと俺の顔を(うかが)うライザに、俺は首を傾げる。

 冒険者として先がない以上、他の生活手段を考えるのは当然なんだが。


「う、うん! えへへ、そっかー……私とゲルトの、二人だけのお店……」


 頬を赤らめ、嬉しそうに呟くライザ。

 だが、ライザと二人で店か……それも悪くない。


 俺は、あれほど焦がれた冒険者とは違う未来を思い描き、頬を緩めた。


 そして、ヴァルクの街を出てから一か月。


「ここに間違いないだろう……」

「そう、だよね……」


 俺達ははじまりの街、ラウリッツにたどり着いた。

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