偽物英雄の白状
「あ……ゲ、ゲルト……私は、その……」
今にも泣きそうな表情で、ライザが俺を見つめていた。
元々はアデルだけを追放するはずだったのに、こんなことになってライザもどうしていいか分からなくなっているんだろう。
「……見てのとおりだ。俺はもう、あの連中と一緒にはやっていけない」
「だ、だけど、ゲルトおかしいよ……アデルにだってこのまま危険な目に遭わせないようにって、芝居を打って冒険者を辞めさせようと考えていたし、他のみんなも信頼してたのに……」
「簡単な話だ。俺はアイツ等を何一つ信頼もしていないし、仲間だと思っちゃいない」
そうだ。あんな奴等、俺の仲間なんかじゃない。
俺が信頼できるのは、たった一人だけだ。
「じゃあ……私、は……?」
藍色の瞳に涙を浮かべながら、ライザがおずおずと尋ねる。
ああ……そうか。こんな光景を目の当たりにしたら、ライザだって不安に思うに決まっているよな……。
なら。
「決まっている。ライザは誰よりも大切な、俺のたった一人の幼馴染だ」
「っ! ……えへへ、そっか。そうだよね……っ」
「ちょ、ちょっと!?」
肩を震わせながら、ぽろぽろと大粒の涙を零すライザ。
そんな彼女に、俺は逆に困惑してしまう。
お、俺、ライザを泣かせるようなこと、言ってないよな……っ!?
「グス……よかった……私も同じように、捨てられちゃうのかと思ったよ……」
「まさか。この俺がライザにそんな仕打ち、絶対にするはずがないだろ?」
「うん……」
俺の胸に飛び込んで顔をうずめるライザの小さな背中を、俺は優しく撫でた。
◇
「それでゲルト、これからどうするの?」
ようやく泣き止み、隣に腰かけるライザが俺の顔を覗き込む。
正直、俺の職業が[英雄(偽)]だと分かった以上、このまま冒険者を続けるのはもう……無理、だよな……。
その事実に……幼い頃からの夢を諦めなければならない現実に、胸が苦しくなる。
そして俺は、ずっと俺が[英雄]だと信じてついてきてくれたライザに、そのことを打ち明けなければならない
俺は……ライザをも裏切ったのだから……。
「なあ……実は俺、[英雄]なんかじゃないって言ったら……どうする?」
「プ……あはは! 何言ってるのさ! ゲルトの職業は[英雄]だって、ちゃんと教会の神託も降りているじゃない!」
俺が冗談でも言っていると思ったらしく、ライザは吹き出し、お腹を抱えて大声で笑った。
十歳になれば誰もが教会で神託を受け、神から授けられた祝福……職業を知る。
教会がどうして俺の職業が[英雄(偽)]ではなく、[英雄]だと判定を下したのか、それは分からない。
ただ、あの時のアデルは、確かに言った。
『本当の職業は、あやふやな神託で知るのではなく、ステータスによって初めて知ることができることを』
と。
それに、あのアデルが俺に見せた文字盤にも、俺の職業は[英雄(偽)]であると、はっきりと記されていたし、何より、アデルを追放してからの俺の二年間が如実に物語っている。
俺は、偽物なのだと。
「……俺の本当の|職業は[英雄(偽)]。つまり、ただの紛い物でしかないんだ」
「ふうん……」
俺の告白を、ライザは興味なさそうに返事をした。
はは……ひょっとしたら、呆れてしまったのかもしれないな。
このまま、ライザもアイツ等のように俺から離れていって……っ!?
「ラ、ライザ!?」
「ね……ゲルト。君がどんな職業だって、実は私にとってどうでもいいんだ」
俺の両頬に手を添えながら、ライザが諭すように話し始める。
だけど、関係がないって……?
「君は、暴力ばかり振るっていたあの最低の父親からいつも私を庇ってくれた。十二歳の時に私が奴隷商人に売り飛ばされそうになった時、手を取って一緒に村から逃げ出してくれた。その後も、ずっとずっと私を守ってくれた、助けてくれた」
「あ……」
「私にとってゲルトという男の子は、いつだって英雄なんだ。今までも、今も、そしてこれからも」
ライザは、ニコリ、と微笑む。
その笑顔が眩しくて、吸い込まれそうで、打ちのめされていた俺の心を優しく包み込んでくれて。
「あああ……っ」
「だから、そんな職業なんてどうだっていいよ。君はずっと、私の英雄なんだから」
嬉しかった。
世界中の誰でもない、ライザだけが本当の俺を認めてくれた。受け入れてくれた。
「あああああああああああああああ……っ」
「ゲルト……」
俺は泣いた。
思いきり泣き叫んだ。
――俺を救ってくれた、ライザの胸の中で。
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