追放記念日への死に戻り
「ハ……ッ!?」
アデルが放った巨大な竜巻に巻き込まれ、既に息絶えたライザと共に死んだと思っていたはずの俺の眼前に見えたもの。
それは……鬱蒼と茂る木々と、その隙間から零れる陽の光だった。
「こ、ここは……?」
上体を起こし、辺りを見回す。
すると。
「あ、起きた?」
そこには……俺を見て微笑む、死んだと思っていたライザの……ライザの姿が……っ。
「っ!? ちょ、ちょっと、どうしたの!?」
「ライザ……よかった……っ」
俺は感極まり、思わず彼女を抱きしめる。
どういう理屈かは知らないが、ライザは生きていた。生きていてくれた。
それだけで俺は……って。
「ラ、ライザ、その髪型……」
「え、えっと……髪型がどうかした?」
顔を真っ赤にしながら、俺の顔を覗き込んでおずおずと尋ねるライザ。
よく見ると、ロングだった髪が短くなっているだけでなく、顔もどことなく幼く感じた。
でも……その慈愛に満ち溢れた藍色の瞳こそが、間違いなくライザであることを示している。
「はわわわ……そ、そんなことより、早く支度しないと。今日はいよいよ、ハイオークとオークの群れの討伐をするんだから」
「ハ、ハイオーク!?」
い、いやいや、何を言っているんだ?
俺達は伝説の黒竜の討伐に来て、返り討ちにあって、それでアデル……って。
「そ、そういえばアデルの奴は!? アナスタシアはどうなった!?」
「ほ、本当にどうしたのさ! アデルならあそこでアナと一緒にいるよ?」
ライザが視線を向けた先には、にこやかに会話しながら朝食の準備をしている二人の姿があった。
だけど、二人の装備はあの時とは確かに違っていて、ライザと同じように二人共顔が少し幼い。
「ど、どうなっているんだ、これは……」
俺はこの状況が理解できず、ただ困惑する…………………………あ。
「ラ、ライザ……さっき、ハイオークの討伐がどうとか……」
「むう……そうだよ。ギルドのクエストを請け負って、私達はハイオークとオークの群れの討伐に来たんじゃないか。そ、それと、アデルと今日でお別れするために……」
「あ……」
ライザのその一言で、俺はようやく分かった。
ここが、あのハイオーク討伐のためにやって来た森の中であること。
そして……アデルをパーティーから追放した、二年前のあの日であることを。
だけど、どうして俺は過去に戻った?
あのアデルの風属性魔法に時間を巻き戻す力なんてあるはずがないし、そもそもそんな魔法、この世界に存在しない。
なら、これは一体……。
「みんなー! 朝食の準備ができたよー!」
「ウフフ、早く食べましょう!」
屈託のない笑顔を見せるアデルとアナスタシアが、手を振りながら俺達を呼ぶ。
そんな無邪気な二人の姿が、俺をどうしようもなく苛立たせた。
だが……俺はもう、こんなくだらない茶番に付き合いきれない。
――アイツ等は、俺とライザの敵なのだから。
◇
「アデル……悪いが、お前とはここまでだ」
「え……?」
朝食を始める前に俺は、あの時と同じ言葉をアデルに言い放った。
アデルもまた、同様に呆けた声を漏らす。
「あ、あはは……ゲルト、そんな冗談はやめてよ」
「冗談? 本気だ」
薄ら笑いを浮かべるアデルに、俺は前回とは異なりただ冷たく、無機質な声で短く答えた。
今さらこの男がどうなろうと知ったことではないし、何なら今すぐ絞め殺してやりたい気分だ。
だが、悔しいがあの黒竜との一戦で見せたコイツの実力は本物。
[英雄(偽)]の実力では本物の[英雄]に太刀打ちできないことも事実だし、ひょっとしたらアデルは弱い自分を装っているだけかもしれない。
なら、下手に手出しをして二の舞になるのは御免だ。
まずはこの男から離れるに限る。
その後は、この男と再会するまでの間に倒す方法を考えるか、もう二度と会わないようにするか、そのどちらかだ。
俺だけならともかく、絶対にコイツはライザも傷つけようとするはずだから。
「……お待ちください。アデルさんは……」
「いいや、待たない。それとアナスタシア、オマエも出ていけ」
「っ!?」
そうだ。どうせオマエもアデルの後を追って出ていくわけだし、何よりも俺は、瀕死のライザを見捨てたオマエをアデル以上に憎んでいるのだから。
俺は、絶対にオマエを許さない。
「そうですか……仕方ありませんね」
「オ、オイオイ、ちょっと待てよ! ゲルト、お前どうしちまったんだよ……役立たずのアデルはともかく、[聖女]のアナスタシアはこのパーティーの大事な戦力だろ?」
かぶりを振って立ち上がるアナスタシアを制止し、ガラハドが眉根を寄せながら俺に詰め寄る。
コイツはアナスタシアを狙っていたから、出て行かれると都合が悪いんだろう。
「なら、オマエもこの二人と一緒に出ていけ。俺にとっては、オマエも必要ない。もちろん、ニーアもだ」
「ちょ!? ふざけんなよ!」
「ニャ!? ア、アタシも!?」
この二人も俺が落ち目だと分かった途端、あっさりと俺を切り捨てたことは事実。
冒険者の世界では弱い奴が淘汰されるのは当たり前の世界だが、それでも、俺も今さらわだかまりもなくヘラヘラと仲間ごっこを続けるなんて無理だ。
「……ああ、そうかよ。所詮テメエは、自分が[英雄]だからって俺達まで捨てちまうんだな。このクソ野郎が」
「ガッカリニャ。ま、別にこのパーティーに未練があるわけじゃないし、別にいいんだけど」
唾を吐き捨てるガラハドと、苦笑するニーアもアナスタシアと同様立ち上がる。
「……ゲルトは、僕達のことは仲間だと思ってなかったんだね……っ」
「そういうオマエはどうなんだ? 一度でも、俺のことを仲間だと思ったことがあるのか?」
「っ!? …………………………」
アデルは一瞬息を呑み、バツの悪そうに顔を逸らす。
フン、結局あの時コイツが言ったとおり、そもそも仲間だなんて思っていなかったんだな。俺も仲間だと思われたらいい迷惑だったから、ちょうどいい。
「……じゃあね」
「失礼します」
「ケッ! クソが」
「ニャハハ……」
アデル達は、一瞥もくれずにこの場を去った。
俺は、四人の背中を忌々しげに睨んでいると。
「あ……ゲ、ゲルト……私は、その……」
今にも泣きそうな表情で、ライザが俺を見つめていた。
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