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真の英雄の第一歩 ※アデル視点

■アデル視点


「これ、換金してよ」


 あのゲルトにパーティーを追放された日から、ちょうど一か月後。

 僕はギルドの受付嬢の目の前に討伐したコカトリスの首を無造作に置いたら、受付嬢も、ギルドにたむろしている冒険者達も、目を白黒させているよ。


 まあ、今まで役立たず(・・・・)だとか能無し(・・・)だと思っていた僕が、こんなA級冒険者でも討伐が難しいコカトリスの首を持ってきたら、驚くに決まっているよね。


「そ、その、アデルさんはコカトリスの討伐クエストを受注されていないのでは……?」

「うふふ……そうではなく、コカトリスの素材の買い取りをお願いしたいんです」


 僕の隣に並んだアナが、クスリ、と微笑みながら受付嬢に告げた。

 冒険者ギルドでは、単にクエストを斡旋するだけじゃなくて、魔物の素材の買い取りも行っているからね。


 というより、冒険者が手に入れた魔物の素材は、ギルドでしか売り捌けない。

 要は、ギルドは中間マージンで儲けを得ているってことなんだけど。


「それより、僕とアナは二人でコカトリスを討伐したんだ。今のB級から、A級にランクアップしてほしいな」

「そ、それについてはギルドで審査をしますので、一週間お待ちください」

「ええー……しょうがないなあ」


 僕は肩を(すく)めておどけてみせると、受付嬢は愛想笑いを浮かべた。

 だけど……あはは、口の端が引きつっているよ。今まで陰で馬鹿にしてきたんだから、バツが悪いよね。


 それにしても、あのゲルトの奴と同じパーティーにいたおかげで、一応僕もB級冒険者なんだから、これだけはアイツに感謝してやってもいいかな。

 とはいえ、この三年間の僕に対する扱いと、一か月前の仕打ちは絶対に忘れないけど。


「お、お待たせしました。こちらがコカトリスの買取金額になります」


 執務室の奥から戻ってきた受付嬢が、カウンターに金貨三枚を並べた。

 よその商人に売れば金貨五枚は下らないはずなんだけど、二枚はギルドの懐に収まっちゃったか。


 まあいいや。

 いずれS級冒険者になれば、コカトリスなんかよりももっとすごい魔物を討伐すればいいし、ギルドだって僕に媚び(へつら)うようになるだろうからね。


「アデルさん、コカトリス討伐とA級冒険者昇格の前祝いをしませんか」

「あはは! それいいね!」


 アナの提案に顔を(ほころ)ばせ、僕達は金貨を持って大通りへ繰り出した。


 ◇


「……だけど、まさかこの僕が[英雄]だなんて、思いもよらなかったよ」


 ヴァルクの街の大通りにある酒場の一角で、僕はエールをあおって呟いた。

 ゲルトから追放されて街に戻ってきた僕に、アナが教えてくれた。


 僕の本当の職業(ジョブ)は[付与術師]ではなく、[英雄]なのだと。

 僕こそが、あの伝説の英雄レンヤの系譜に連なる者なのだと。


「うふふ、私は最初から分かっていましたよ? あの日(・・・)、私がお見せしたステータスのとおり」

「うん……今まで僕が弱かったのは、全てを(・・・)勘違いしていたからだと気づいてからは、ここまであっという間だったけどね」


 そう……僕はこれまで、[付与術師]としてひたすらサポートに徹し、魔物と戦ってこなかった。

 そのせいで、僕は強くなることができなかったんだ。


 だからその事実を教えてもらって以降、僕はアナのサポートを受けながらひたすら魔物を倒し続けた。

 最初は弱いスライムやゴブリンから始まり、コボルト、オーク、トロールにオーガ、そして今日のコカトリスを倒せるまでに至った。


「ですが、あの【付与効果(極)】も素晴らしいスキルなのですよ? ただし、アデルさんが仲間(・・)と認めた方にしか効果はありませんけど」

「そうだね。僕があのメンバーの中で仲間だと思っていたのは、アナだけだったから」


 それも、僕がこれまで低評価だった理由の一つ。

 あんな僕を下に見ているような連中を、仲間だなんて思えるはずがない。


 ……いや、そもそも僕に釣り合えるような冒険者なんて、[聖女]のアナしかいないんだから。


「それよりも、私はアデルさんに本当の目的(・・・・・)をお話ししなければいけません」

本当の目的(・・・・・)って?」

「はい……私があのパーティーに所属したのは、全ては[英雄]であるアデルさんを導くため」

「僕を、導く……」


 アナは、そのアクアマリンの瞳で僕を見つめながら、ゆっくりと頷く。

 彼女が言うには、教会において信仰する絶対神“オウルマズド”の神託を受け、この世界に顕現した[英雄]を探していたとのこと。


 そんな中、ヴァルクの街に[英雄]の職業(ジョブ)を持つ冒険者がいるとの噂を聞きつけ、ここまでやって来たらしい。

 早速、噂の人物であるゲルト率いるパーティーを見つけ、全員のステータスを確認したら、確かに[英雄]の職業(ジョブ)を持つ者はいた。


 ただし。


「……噂の人物が[英雄(偽)]で、パーティーで荷物持ちをしていたあなたが本当の[英雄]だった時には、驚きしかありませんでしたが」

「本当だよね。自分が[英雄]だからってあんなに偉そうにしていたゲルトが、実は偽物だったんだから。それを聞いた時は、僕も可笑しくて腹を抱えて笑ったよ」


 あの時のことを思い浮かべ、僕はまた笑ってしまった。


「そういうことですので、アデルさんには是非とも王都にある教会本部に足をお運びいただき、教皇猊下(げいか)にお会いいただきたいのです。そして……どうか私達を導いてください。あの、英雄レンヤのように」

「アナ……」


 駄目だ。瞳に涙を(たた)えながら懇願するアナを見て、どうしても僕の表情が崩れてしまう。

 あの美しい[聖女]が、ここまで僕を求めているのだから。


 ゲルトみたいな奴を好きになる、見る目のないライザとは大違いだよ。

 彼女も、少しはアナを見習えばよかったのに……って。


 ここまで考えて、僕は思い至る。

 ライザはゲルトが偽物(・・)であることを知らないから、盲目的にゲルトを好きになっているのだと。


 なら。


「……分かった。僕は、その教会本部に行くよ」

「っ! ありがとうございます!」


 僕の手を取り、アナはパアア、と満面の笑みを浮かべた。


 ゲルト……僕を追放してくれてありがとう。

 おかげで僕は、自分こそが本物の英雄だと知り、あの(・・)教会の後ろ盾も得られそうだよ。


 だから僕、すごく待ち遠しいんだ。


 落ちぶれたオマエに、再び会うその時が。

 ライザにも見放され、打ちひしがれるオマエの姿を見る、その時が。


 それまで、精々勘違いしているといい。

 その時こそ僕は、オマエを見て嘲笑(あざわら)ってやるよ。


 その後は――僕の世界(・・・・)から(・・)消えてくれ(・・・・・)

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― 新着の感想 ―
[一言] 浮かれるのはいいけど、聖女が見てるのは[英雄]という称号だけ、対してライザは称号なんて関係なく“ゲルト”そのものを大切に想っていることに気付かないのか 理不尽に追放されたのなら多少は同情も…
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