私だけの英雄② ※ライザ視点
■ライザ視点
村から……あの男から逃げた私達は、それから大変だった。
そもそも子どもでしかない私達が生きていくには、並大抵のことじゃない。
働こうと思っても門前払いされることがほとんどだし、ようやく働き口が見つかったと思っても足元を見られて、ほんの少しのお給金しかもらえない。
当然、これじゃ日々食べるものだってままならなかった。
だからゲルトは、時々食料や服を盗んだりした。
全部、私のために。
私は心苦しかった、悔しかった。
ゲルトが微笑むたびに、優しくしてくれるたびに。
私は、ずっとゲルトに助けてもらってばかり。
だから私は誓う。
いつか、ゲルトのために全てをかけて尽くすと。
十五歳になり、成人を迎えた私とゲルトは、すぐに冒険者になった。
元々、あの英雄レンヤも最初は冒険者からスタートしたから、ゲルトが冒険者を目指すのは自然な流れだった。
そして、この私も。
幸いなことに、私の職業は[魔法使い]。これなら、ゲルトと一緒に冒険することができる。
これからは、足を引っ張らないように……ううん、ゲルトを手助けできるくらい強くなって、彼の隣に立ち続けるんだ。
そうして色んなクエストをこなし続けて、三年が過ぎた頃。
私達はB級冒険者となり、仲間も増えた。
上級職である[狂戦士]のガラハド、[狙撃手]のニーアの加入。さらにはゲルトの[英雄]に匹敵する職業の持ち主、[聖女]のアナスタシア……アナまで。
どうして教会に所属しているアナが私達のパーティーに加入したのか、その目的は分からない。
だけど、ゲルトをどこか値踏みしているかのような視線が、私は気に入らなかった。
それと……私は多分、アナに嫉妬していたんだと思う。
私みたいな平凡な女と違って、彼女は全てを兼ね備えているから。
美貌も、その実力も。
そして……私達が冒険者になってすぐに加入した、古参のアデル。
彼の職業は[付与術師]ということもあり、私達の能力の底上げを期待してたけど、その効果は全然なかった。
それでもパーティーから追い出さずに三年間も一緒にやってきたのは、全部ゲルトの優しさ。
早くに両親を亡くしたゲルトは誰よりも人の痛みを理解しているし、アデルの可能性を最後まで信じていたから。
でも、もうすぐA級冒険者になろうとしていた私達に、アデルがついてくるのはこれ以上無理だと感じたゲルトは、とうとう彼にパーティーから抜けてもらうことを決心した。
このまま冒険者を続けたら、いずれアデルは命を落としかねないと判断して。
だから、ガラハドとニーアにも協力してもらってハイオークとオークの群れの討伐を最後に、芝居込みでアデルを冷たく追放することになったんだ。
たとえ恨まれようとも、こうすればアデルも諦めて冒険者以外の道を選択してくれると信じて。
アナには……最後まで、このことを告げなかった。
だって、理由はどうあれアデルが追放されることを知ったら、絶対に悲しむから。
なのに、いざ当日になると、ゲルトの様子がおかしかった。
突然私のことを抱きしめたり、ハイオーク討伐について念を押して何度も尋ねたり。
も、もちろん、ゲルトに抱きしめられたことは、その……嬉しかったけど、いつもと違うゲルトが私は心配だった。
極めつけは、朝食を終えた直後。
「アデル……悪いが、お前とはここまでだ」
本当は、アデルとの最後の思い出にって、ハイオークとオークの群れの討伐が終わってから宣告するはずだったのに、このタイミングで言うだなんて思いもよらなかった。
それに、ゲルトのアデルへの視線は、明らかに怒りに満ちていた。
一体、二人に何があったんだろう。そう思っていたけど、ゲルトはそれだけに留まらなかった。
なんと、アデルだけじゃなくて、アナやガラハド、ニーアまで追い出したんだ。
こうなると、私の脳裏に不安がよぎる。
ひょっとして私も、みんなみたいにゲルトに追い出されちゃうんじゃないかって。
だけど、それは杞憂に終わった。
ゲルトは私には変わらない……ううん、それ以上に優しい瞳で、『決まっている。ライザは誰よりも大切な、俺のたった一人の幼馴染だ』って言ってくれたから。
安心した私は、思わず涙を零しながらゲルトの胸に飛び込んだ。
ゲルトは、そんな私を優しく受け止めてくれた。
その後、私はとんでもない事実を知ることになる。
まさかゲルトの職業が、[英雄]じゃなくて[英雄(偽)]だったなんて。
「……俺の本当の|職業は[英雄(偽)]。つまり、ただの紛い物でしかないんだ」
そう告げた時のゲルト、悲しそうだった。苦しそうだった。
まるで……私に必死に謝るみたいに。
えへへ……馬鹿だなあ。
私は、ゲルトの職業が何だって関係ないのに。
どんな職業だって、私の英雄はゲルトだけなのに。
だから私は、はっきりと告げた。
「そんな職業なんてどうだっていいよ。君は、ずっと私の英雄なんだから」
って。
すると……ゲルトは初めて、私に涙を見せてくれた。
お父さんとお母さんが亡くなった時だって、私には絶対に泣き顔を見せたことがなかったのに。
不謹慎かもしれないけど、この時、私は嬉しかった。
私が、少しでもゲルトの役に立てるかもって思ったから。
大好きな男性を、支えられると思ったから。
◇
「すう……すう……」
「えへへ……ゲルト、気持ちよさそう」
カルラさんの宿屋に住み込むことになり、私はゲルトの部屋に来て、甘えて寝たふりをしちゃった。
でも、ゲルトも色んなことがあったから、疲れてたんだね。すぐに寝ちゃった。
ゲルトの職業が[英雄(偽)]だってことも驚いたけど、まさかその職業こそがあの英雄レンヤと同じだったなんて、思いもよらなかったな。
そのおかげでゲルトの夢が……想いが報われたことは本当に嬉しかった。
また、ゲルトは英雄を……夢を目指して、前に進むことになる。
私は喜びと同時に、このラウリッツの街に向かう途中で語り合った、平凡でささやかな未来との別れに寂しさを覚えた。
なのに。
『……俺、このラウリッツに来る途中で、ライザと話したんです。『いつか二人で店をもって、のんびり暮らしたい』と』
『前の街で色々あって、ひょっとしたらかつて仲間だと思っていた連中に絡まれることがあるかもしれません。その時、俺は大切な幼馴染を……ライザを守れれば、それでいい』
ゲルトは、英雄になることよりも、私とのささやかな未来を選んでくれたんだ。
この時の私の気持ち、とてもじゃないけど言葉でなんか言い表せない。
こんな幸せなことが、あってもいいんだろうか。
こんな夢みたいなことが、あってもいいんだろうか。
「ゲルト……私、君のことがずっとずっと大好きだよ」
彼が眠ってる時しか言えない、幼い頃からずっと抱いているこの想い。
私は……君を好きになって、心から幸せです。
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