君がいるから
「えへへ……ゲルト、いいかな……?」
ノックして入ってきたのは、はにかむライザだった。
「お、おお、どうしたんだ?」
俺は慌てて腕で目元を拭い、身体を起こして何食わぬ顔で返事をした。
「ゲルト、まぶたが真っ赤だよ」
「なぬ!?」
ライザに指摘され、俺は部屋に備え付けの鏡で目元を確認するが……赤くなってない。
「あはは! 引っかかったね!」
俺を指差しながら、ライザは腹を抱えて笑う。
どうやら一杯食わされたらしい。
「……一体何の用だ?」
「ご、ごめんごめん。それより、隣に座ってもいいかな……?」
ジト目で睨む俺に苦笑しながら謝るライザは、ベッドを指差した。
揶揄われた仕返しをしたいところだが、あいにく俺は気分がいい。なので、ベッドをポンポン、と叩いて座るように促す。
「ありがとう」
「それで……どうした?」
「うん……」
顔を覗き込むが、ライザは微笑みながらもどこか思い詰めた様子だった。
ひょっとして……ライザは、この街で暮らすことが本当は乗り気じゃなかったんだろうか。
よくよく考えてみたら、あのパーティーを解散して四人を追い出したことも、ラウリッツの街に来たのも、全ては俺の我儘みたいなものだ。
俺は、ライザが幼馴染だからって、ついてきてくれるものと、受け入れてくれるものと、勝手に解釈してしまっていたのかもしれない。
「そ、その……ライザはこの街で暮らすのは、嫌、か……?」
不安になり、俺はおずおずと尋ねた。
もしライザが嫌だと言ったら、俺は……って、答えは決まっている。
どちらにせよ、俺はライザの意思を尊重したい。
たとえ、弱いままの自分でしかいられないとしても。
それだけのものを、俺はライザからもらったのだから。
でも。
「そ、そんなことないよ! ちょっと入口の看板はどうかと思うけど、小さくてのどかな街だし、メルエラさんやセシルさん、それにカルラさんも優しそうな人達ばかりだから、すごく気に入っているよ!」
意外にも、ライザ的には高評価だったようだ。看板を除いて。
じゃあ、一体どんな問題があるんだろうか……。
「……ほら、この街に向かっている時に、私言ったでしょ? 『いつかゲルトと二人でお店を持ったりして、のんびり暮らしたいな』って」
「ああ」
「でもそれって、全部私の我儘で、願望で、あの時はゲルトも英雄になることを諦めたから受け入れてくれたわけで、今はもう、君は英雄になることだってできるんだ。なのに、私が君の夢を邪魔しちゃったのかな、って……」
ああ……ライザはライザで、俺のことを考えてくれて、それで罪悪感が生まれてしまったんだな……。
俺が、ライザのせいで叶うかもしれない夢を諦めさせてしまったって。
本当に、俺の幼馴染は……。
「だから……わっ!?」
「はは! 馬鹿だなあ! お前が俺の邪魔になってるだなんて、あり得ないだろう!」
俺は少し乱暴に、ライザの頭を撫でた。
少し藍色の髪が乱れてしまったのも、ご愛敬だ。
「ほ、本当に……?」
「ああ。それどころか、ライザはいつだって俺を前に進ませる原動力だよ。俺は、ライザがいたからここまで来れたんだ」
瞳に涙を湛えながら顔を覗き込むライザに、俺は目一杯の笑顔で返す。
ライザがいたから今の俺がいるんだと、理解してもらうために。
「えへへ……本当に、ゲルトは優しいね……っ」
「悪いが、それに関してはライザのほうが圧倒的に上だろ」
「ううん、ゲルトだよ」
「ライザだ」
俺とライザは、終わりのない言い争いを始めた。
だけど……はは、こんなことで不機嫌になるライザも、相変わらずだな。
「もう……ゲルトの頑固」
「そりゃライザだ……って、また押し問答が始まりそうだ」
「あはは! 本当だね!」
うん……やっぱりライザと一緒にいるのは楽しい。
あの最低の村にいた時から、俺にはライザしかいないんだ。
俺が英雄に憧れるのだって、ライザが俺を見ていてくれるからなのだから。
そんなことに、あの時のライザの姿を見て、ようやく気づかされるなんてな……って!?
「えい!」
「おわっ!?」
……ライザに押し倒されてしまったんだが。
「そ、そのー……ライザさん?」
「ね……夕食の時間まで、こうしてていい?」
「ええ……と」
……ま、いいか。
俺は了承したとばかりに藍色の髪を優しく撫でてやると、ライザは気持ちよさそうに目を細めた。
「ゲルト……あったかい……」
「そうか……」
しばらくこの体勢を続けていると。
「すう……すう……」
「……寝てしまったか」
ヴァルクの街からここまでの長旅で、疲れてしまったんだろうな。
「ライザ……おやすみ」
抱きしめるライザの温もりに包まれながら、俺もまた誘われるように、ゆっくりと目を閉じた。
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