08 駐日大使の娘
登場人物紹介
今井いずみ……主人公。異世界で20年程勇者として過ごした後、元の世界に返ってくる。
今井隆……主人公の従兄弟。今井ファイナンシャルグループの取締役の一人。
今井誠司……主人公の従兄弟。今井ファイナンシャルグループの社長。
エディタ・ヴェッシャー……駐日大使の娘。
★★★★
その時の私はおじい様の書斎だった部屋で読書の最中でした。
読んでいたのは『南総里見八犬伝』。
説明不要、曲亭馬琴の名著である。
さすがに初版本――と言うわけでは無く、昭和に発行された本だけど。
そもそも天保時代の原著なんて、あった所で読みにくくてしょうがないよね。
有名な作品であり、勿論私も過去に読んではいるがなにせ二十年も異世界にいてものだからなつかしさのあまり手に取って見たのでした。
「――いずみ様!」
お手伝いさんは何度も呼びかけたんだろう、かなり強い掛け声に私は我へとかえる。
読書に夢中になると多少の物音は気にならなくなってしまうのよね。
「あ、ごめんなさい。何かしら?」
「はい、今井隆、と言う方からお電話が入っております。お出になられますか?」
そう言って、手に持っているコードレス電話を差し出す。
「隆?何だろう?……良いわ、出ます」
私は電話を受け取った。
「はろー、もしもし隆?どうしたの?」
「……ハローじゃないだろ。いずみ、お前何をしでかしたんだ?」
開幕早々、失礼な言い方である。
「いや、話が見えないんだけど?」
「いずみに会いたいって人が本社に来てるぞ……。駐日大使の娘さんだそうだ、今は誠司が対応してる」
「ヘ?」
「ヘ、じゃない!全く何をしでかしたんだ?」
大使の娘の接点なんて、テロリストを制圧した時ぐらいしかない。
でもとりあえず嘘をついておく。
「いや、知らなけど。なんて名前なの?」
「エディタ・ヴェッシャー。こちらでも確認したが、本物の大使の娘さんだ」
「へー、そんな名前の人知らない」
「大使の娘が、なんでいずみに会いたがってるんだ?本当に何も知らないのか?」
「ウン、シラナイヨ」
「……とにかく、いずみに会うまでは帰らないの一点張りだ。ウチの会社は欧州でも展開しているのは分かってるだろ?いずみにあえば帰るといってるんだから早く来てくれ」
「……わかった」
そう言って電話は切れた。
駐日大使の娘ねぇ……。
あの時の女の子なのは分かっているけど、どうして私の身元がバレたんだろう?
まぁ、考えてもしょうがないか、私は読みかけの本を本棚に戻すと、出かける事にしたのでした。
★★★★★
ここは千代田区、ファイナンシャルシティビルディング前。
私はごく自然にビルに入ると、フレンドリーに受付へと話しかけます。
「誠司さ――社長に会いに来たんだけど?」
「はい、お名前は――『今井いずみ』様ですね?お繋ぎいたします」
「うーんと、自分で行くからいいや」
「了解いたしました」
そんな声を受けながら、私は手をひらひらと受付にふりつつ、タイミング良く来たエレベーターに乗り込む。
社長室はこの間来たから知っているのだ。
と思ったのだけれど、別の場所で対応している可能がある事を思いだし、隆の居室がある場所に行先を変更する。
そして隆を見かけると、声をかけた。
「やっほー、隆いるー?」
勝手知ったるなんとやら、だ。
隆は年下なのもあって、誠司さんより話しやすい。
【洗脳】スキルを使った相手の基本的な人格はそのままなのは、良いことなのか悪い事なのか、今でもよくわからない。
突然声を掛けられた隆は案の定、慌て始めた。
「ば、馬鹿。会社でそんなきやすく呼ぶのはやめろ!」
「えー、いーじゃん別に。前は一緒にお風呂に入ったりしたんだし」
「「「「「えっ!?」」」」」
っと周りから一斉に驚いた声がする。
「お、お前!?」
はははっ、やっぱり隆はからかうと楽しい。
勿論、子供の――私が小学生、隆が幼稚園ぐらいの時の話だ。
異世界の不思議パワーのお陰で、私の見た目はまだ二十代。
反面、隆の方は順調に歳を重ねて、もう立派なオジさんである。
まぁ、普通に考えたらぁゃしぃ関係にしか思えないよね。
この後、隆が周りにどんな言い訳をするか気にはなるけど。
それよりもまず優先すべきことがある。
「それで、私に会いに来た人ってどこにいるの?」
「……ついてこい」
「はーい」
そう言って顔を真っ赤にしながら歩く隆の後ろについていく。
そしてとある部屋の前で立ち止まると、コンコンとノック。
「隆です。いずみをお連れしました」
と、声をかけてから室内に入りました。
すると入るなり、
「あ、貴女は!」
そう言って座っていた女性が立ち上がりました。
そうです、あの大使館の時の娘さんです。
「やぁ、いずみ。こちらがわざわざいずみに会いに来られた駐日大使の娘、エディタ・ヴェッシャー様だよ」
そういって誠司さんはその娘さんを紹介した。
「エディタ・ヴェッシャーです。その節は大変お世話になりました。」
ペコリと、エディタは私に対して深々とお辞儀をする。
「どういう経緯で知り合ったのかは知らないが私はここで席を外させてもらうよ。ようが済んだら内線をかけてくれ」
「うん、誠司さん分かった」
そう言って誠司さんは隆を連れて部屋を出て行きました。
残されたのは私達二人きりです。
さて、私にわざわざ会いに来たエディタ・ヴェッシャーという女性。
本当にただお礼を言いに来ただけなんでしょうか?




