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06 野獣死すべし、そんな本があったよね?

 まぁ結論から言えば残りの多くは先程倒した二人と大差ない動きでした。

 中には素手でなく特殊警棒?みたいな武器を持っている人も居ましたが当たらなければどうと言う事はありませんね。

 私はそれらの攻撃を避けつつ素手で反撃していく。

 全て一撃です。

 そして残るはあと一人――。

 でもその一人は他の人達とはちょっとだけ違う雰囲気を漂わせています。

 男は何も言わずに懐から武器を取り出す。

 刃物です。

 家庭にもあるカッターナイフなどでは無く、歌舞伎町が舞台な映画で見るような長い刃物。

 正式名称は何って言うんでしょうね?

 どこに売っているかも分からないそんな刃物を私に付き出すと、何事かを呟きましたがよく聞き取れませんでした。


「きゃー!」


 足がすくんでいるのか、まだ逃げずにその場にいた、女性が悲鳴を上げます。


「ねぇ?あれってなんて武器かわかる?あんなの持ち歩いていたら法律違反よね?」


 なーんて、その場に相応しくないのんきな事を質問してしまいました。

 そしてちょっと視線を逸らしたすきに、男は武器を私に振り上げる。

 動き自体は先程の男達と大差無い。

 私は同じように避けつつ背中に拳を当てますが――。


「うぐぅ!」


 男は痛みに声を上げるも、倒れる事なく踏みとどりました。

 おー、さすが。

 ゲーム的にいえばさっきまでのが雑魚キャラなら中ボスみたいな感じ?

 よし、中ボスと名づけよう。

 さて、この男、中ボスだけあってHPは雑魚よりも高いみたいな感じです。

 とはいえ、動き自体は雑魚キャラと大差があるわけではない。

 そう思った時、中ボスの雰囲気が変わりました。

 本気を出そうとしている、と言う事でしょうか?

 中ボスから視線を逸らさず少し、ほんの少しだけ私は後ろに下がりました。

 すると「カラン」足元に落ちていた何かが靴に当たって音を立てる。

 それは雑魚の一人が持っていた特殊警棒でした。

 丁度良いわね。

 私は足元に落ちていた特殊警棒に手を伸ばすと相手に向かって構えます。

 暫くそのままお見合い状態が続いた私達でしたが、中ボスは不意に動きました。

「ヒュン」そんな空気の音を立てて、刃物が撃ち込まれます。

 先程よりも明らかに早い動きです。

 やっぱり先程は手を抜いていて、本気を出した、という所でしょうか?

 それに合わせるように私も特殊警棒を相手の刃物に打ち付けます。

 が、材質の差はいかんともしがたく、相手の刃物は私の持つ特殊警棒を両断する。

 そしてそのまま私の頭部を狙って切りつけてくる刃物を先程と同じように避けようとして――。

 不意に刃物の軌道が変わりました。

 フェイント!?

 中ボスは『掛かったな』みたいにニヤリとすると小さな孤を描きながら刃物を下に向かって振り下ろす。

 狙いは……足ね。

 狙いが分かれば対処は簡単です。

 私は刃物を持つその腕を蹴り上げました。

 ベキッ。

 太い木の枝を折るような音が響き渡ると、中ボスの腕が不自然な方向に曲がりながら空中に吹っ飛び、しばしの対空の後、地面に叩きつけられると動かなくなった。


「お嬢さん大丈夫――」


 中ボスを含め、全員が動かなくなった事を確認した私は、そんな事を言いつつ後ろを振り返ったけど。

 うげっ。

 いつの間に集まってきたのか、そこには女性だけでなく野次馬が沢山いてざわめいています。

 やばい、と思ったのもつかの間。

 遠くからサイレンの音が聴こえだしました。

 勿論、警察のものです。

 私は、急いで女性を立たせると、スタコラサッサと路地の奥に駆け出すのでした。


「まって、せめてお礼を――」


 そんな声が背後に聴こえたような気がしましたが、足を止めることなく駆け続けると、人気の無い場所で【カモフラージュ】を使いさらに遠くまで離れるのでした。


 ★★★★★


 そして翌日、私はホテルで目を覚ます。


「ふわぁ~~ねむい……」


 一瞬まだ寝てよっかな、的な誘惑が頭をよぎるが、思い直して上体を起こします。

 寝ていたのはフカフカのベッドに柔らかい掛け布団。

 恐らく品質は特上でしょうね。

 なんせここは一泊三桁万円に届こうかという最高級スィートルーム何ですから。

 私はもう一度大きな欠伸をする。

 昨日は大立ち回りを2回もしたから、まだ疲れが取れてないのかな?

 それとも、久し振りに元の世界に戻った影響か何かが働いているのか、どちらが原因にせよ、眠い事にはかわりません。

 こんな時は顔を洗うに限る。

 冷たい水で……と言いたいけど、洗面所ではお湯の蛇口を捻ってしまったチキンである。

 薔薇の香りのするソープをつけて顔を洗うと、幸い冷水でなくても眠気はどこかにとんで行ってしまったようです。

 それをホテルに備え付けの柔らかいタオルで顔を拭く。

 正面には大きな鏡、その鏡には私の姿が映っている。

 黒髪に黒眼、低くもないが取り立てて高いともいえない鼻、恐らく平均的だと思われる薄いピンクの唇。

 見る人によっては少しばかりキツめの印象があるという、私の姿。

 異世界では黒髪、黒眼の人種は珍しいらしく、おまけに転移時に黒のワンピースを着ていた物だから最初についたあだ名が黒の勇者だ。

 そんな私の顔を鏡越しに改めてじっとみつめる。

 二十年前と変わらない容姿……ね。

 正直な所、二十年前の自分の姿なんてはっきりとは覚えていないけど、隆や誠司さんがそう言うんだからそうなんだろう。

 二人の容姿は二十年の歳月を連想させるに相応しい姿に変化していたのだから。

 そして私はベッドに腰かけると、これからの事を考える。

 ホテル暮らしも悪くはないけど、やっぱり自分の家が欲しいなぁ。

 でもそこで、二十年という過ぎ去った歳月が問題になる。

 戸籍とかどうなってるんだろう?

 そんな事を考え始めた時。


「ぐぅ~~」


 と、はっきり聴こえる音でお腹がなったのでした。

 うーん、でもまぁどうでもいいか。

 笑いながら立ち上がると、窓際から外をじっとみつめる。

 眼下に広がるのは、久し振りにみる近代的な構造のビルの数々。

 私はそれ以上考えるのは辞める事にして、食事を取る事に決めたのでした。

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