05 いずみとその獲物
結論からいうと、私は事件を解決するとスグに退散する事になった。
周りを取り囲んでいた警察に突入の兆しが見えたからだ。
まぁ、中でなんか起きた事を察知したんでしょうね。
あれだけ内部で騒ぎになれば仕方ないか。
と言うわけで、警察の御厄介になる前に脱出しましょう。
『あ、どちらにいらっしゃるのですか?』
私に抱き着いてきた少女を身体から離すと、私がこの場を立ち去ろうとする気配に気が付いたのだろう、そんな事を問いかけてきた。
『申し訳ありませんが、私はここからスグに立ち去らないといけません。ご縁があればまた出会える時も来るでしょう』
そう言って私はその少女の手に優しく口づけをする。
異世界で覚えた作法だけど、特におかしくないよね?
そんな事を思いながらも、入って来た場所を目指して駆け出していた。
『ま、まってください――』
そんな声が背中から聴こえるが勿論、足を止めるような事はしません。
そのままキッチンに滑り込むと、【カモフラージュ】を使い入って来た時と同様、窓から脱出するのでした。
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大使館から無事脱出した私は人気のない場所で、【カモフラージュ】を解くと「ふー」と息を吐く。
まぁまぁ楽しかったわね。
やっぱり人生にはこのような突発的なイベントは必要だと思う。
といっても、スローライフみたいなのも憧れはするんだけどね。
などど、相反する事を考えながらふらふらと歩き、最初に眼についた当初の目的の衣料品店に入ろうとしてふとある事に気が付き、思わず口に出してしまった。
「えっ!?嘘でしょ?」
何という事でしょう!
さ、財布がない事に気が付いたのでした。
……マジか。
やばいなぁ……どこに落としたんだろう?
可能性が高いのは大使館か、それとも移動中か。
どっちにせよ、探しにいく気力は私にはもう無かったのでした。
しょうがない、もう一度誠司さんに会いに行くか……。
そして再びお金を無心に行った私に対して、誠司さんは溜息を吐きながらもお金を出してくれたのでした。
えへへへ、ごめんね。
そして私は再び衣料品店に行くと、マネキンが着ていたデニムパンツにコットンシャツなど無難な服を買ってホテルに宿泊したのでした。
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そして夜が深けたころ、私はホテルを出てタクシーを捕まえると、とある場所に向かった。
眠らない街新宿、その中でも不夜城とも謂われる歌舞伎町。
その中でも事件の起りそうな裏道をあえて歩く。
そう、私はある目的のために自らトラブルを探して歩いているのでした。
そして、そのトラブルは早くも見付かったようでした。
「や、やめてください!」
女性が複数の男の人に絡まれていた。
よし、アレに決めた!
私はそこにスゥーと割り込む。
「あら、どうしたの?女性に二人がかりで」
二人の男の顔を改めてみると本当にガラが悪そうだ。
それだけじゃなく、ある程度の暴力沙汰はいとわない様な気配を醸し出しています。
「あ?誰だお前?この女の知り合いか?」
「消えろ、女と言えど、容赦はしない」
ん?なんか違和感のある日本語ね。
外国人かな?
まぁ、言葉は通じるみたいだし、別にいいか。
「その女性を離してあげたら?男二人がかりで格好悪いよ?」
女性は私と目が合うと、
「た、助けてください」
と、必死な形相で声を上げる。
「まぁまぁ、何があったかは知らないけれど、あまり乱暴は良くないと思うわよ?」
「その女、俺達にぶつかって、服汚した、落とし前つける」
そう言って、男が指さした場所は水で濡れているようだった。
あー、なるほど。
振り返って女性の方をみると、足元にペットボトルが落ちている。
どうやらぶつかってペットボトルの中身をかけてしまったみたいね。
「それは災難だったけど、そのぐらい拭いておけばいいんじゃない?幸いミネラルウォータみたいだし」
「だめだ、落とし前、付けさせる」
まぁこの手の人間が簡単に手を引くわけないか。
「女相手にすごんでも、傍から見ると馬鹿みたいだし、格好も悪いわよ?」
といってクスッと笑いながら、わざと少し煽ってみた。
「てめえ!?」
案の定、そう言って男は腕を振るう。
スローテンポにも見えるその動きを、私は余裕を持って避けると、首筋に向かって軽めに拳を当てる。
その男はなにやらうめき声を上げると、そのまま地面に倒れて動かなくなってしまった。
やっぱり、異世界で身に付けた戦闘技術はそのまま使えるんだ。
この程度のチンピラなら100人ぐらい掛かってきても負けそうな気はしなかった。
そう思いながらもう一人に向き直ると、なんか凄い形相をして襲い掛かってくる。
それを先程と同じように避けると、同じ場所を先程よりも心持弱めに叩いてみた。
すると男は同じようなうめき声を上げて倒れてしまった。
うわっ、よっわ。
先程よりも軽めに殴ったつもりだったのに、こんなものなの?
大使館でテロリスト共と闘った時は不意をついた形だったけれど、今の闘いはそうではない。
まぁ勿論、女だから見た目で油断した可能性は十分にあるけど……。
倒れた二人の男を見下ろしながらそんな事を思っていると、
「何だお前は?」
そんな声が掛けられた。
警察が来た――なんて事は無い。
今倒した二人と似たような雰囲気の男達が姿を現したのでした。
その数、ひぃ、ふぅ、みぃっと10人。
この場所の近くにたまり場とかあるのかな?
「イン、ホァ、大丈夫か!?」
「女、てめぇがやったのか?」
などなどといった罵声が私に向かって浴びせられた。
中には外国語も混じっているようだったけど、よく聞き取れなかったわね。
私はそれに答えず、倒れている一人に対して軽く足蹴にする。
すると案の定、男達は一斉に襲い掛かって来たのでした。




