41 回想するいずみ
結局結論がでず解散となったあの日。
次の日も、その次の日もそのまた次の日も平穏が続きました。
実際は表面上の事かもしれません。
きっと世間では表に出る事件も、でない事件もさまざまにおこっているに違いないのでしょうね。
でもそれが身近に発生していなければ、何も起こってないと同然なのです。
そんな平穏な日々を私は読書をして過ごしていました。
私が手に取った作品は『旗本退屈男』。
ご存知、佐々木味津三原作の早乙女主水之介が活躍する時代小説です。
何度も映画化やテレビドラマ化もされている、文字通りの有名作品。
私はドラマ版では北大路欣也が主人公のシリーズが好きだったりします。
幼き頃は従姉弟の隆相手に「ええい、この眉間の傷が目に入らぬか」などどいう有名な台詞を吐きつつよく遊んでいましたね。
ですが、そんな楽しい作品も読み終わってしまいました
そして読書が終わってしまえば、考えるのは一連の事件の事です。
と、いってもぼんやりと考えるだけでは新たな考えも何も浮かばないのです。
では、ちゃんと考えてみたらそこからなにか判明するかもしれません。
何も判明しない可能も十分にありますが。
そこで私は、この世界に戻ってから、日々ひそかに付けておいた自身の日記を読み返してみました。
そして重要事項などをメモしてみたりしたのですが……。
そんな事をしてみたものの、そこから新たな考えなど浮かぶはずも無いのでありました。
でもなんとなーく、なんとなーくだけどなにか分かりそうな気もするんだけどなぁ。
例えるならテレビに良く出てくる俳優名前が思いだせそうで思いだせない感じに近いのかもしれません。
私はお手伝いさんの入れてくれた紅茶を飲みつつ、様々な事を思いだしたり、紙に書きつけたり、消したりなどを繰り返していました。
そんな結果書いたのがこの箇条書きです。
1.9月18日――異世界から元の世界に戻ってくる。この日、テロリストが大使館を襲撃しそれを倒す。
2.9月20日――エディタ・ヴェッシャーが本社に訪れる。その後、誘拐されかかるがそれを阻止する。
3.9月27日――イドゥベルガ・バルナが誘拐される。
4.9月30日――ゲルトルート・バルナがエディタ・ヴェッシャーに相談し、私に電話が来る。イドゥベルガを救出する。
5.10月15日―エディタ・ヴェッシャーから連絡があり、怪しいマンションに調査へと向かう。
6.同日―――――怪しい男と遭遇するが約束をしてその場から退出をする。
7.10月17日―怪しい男との約束通り、遺言状の詳細がゲルトルート・バルナの元へ送られてくる。
8.同日―――――バルナ氏より『デルブリュック・ロイス・ユンゲレリーニエ』という男の正体と亡くなった国王の秘密を聞く。
9.10月26日―買い物中、私が男達に襲われるがそれを撃退し、首謀者の元へ案内させる。
10.同日――――6.で出会った怪しい男が『デルブリュック・ロイス・ユンゲレリーニエ』だと判明する。
こんな感じです。
ホンと言うと、もっといろんな事を書いたり消したりを繰り返していたんですが、後から見なすとどーみても関係無さそうな事が多かったのでこの場ではこれだけ抜き出せばOKでしょう。
私は自身の記述したこれらの事に何度も目を通しました。
この中で3.以降の出来事はデルブリュックが首謀者になってやったと判明しています。
自身でもそう言っていましたし、まず間違いないでしょう。
まぁ最もデルブリュックは指示しただけで有り、指示を受けた受け取り手の方で想定外の多少強引な事件を起こしてしまった、と本人は言っていました。
ホントかな?
まぁ、その辺りは考えても分からないので取り敢えずは、そう言う事、にしておきます。
で、問題は1.と2.何ですよね。
これらの事件については、デルブリュック自身は特に言及していませんでした。
勿論、語らなかっただけでこっちの事件もデルブリュックが係わっているという可能性は十分にあります。
でもねー、私もちょっと気になる事があるんですよね。
それは彼等が使っていた武器……もっと具体的に言えば銃です。
あのイドゥベルガが誘拐された事件や、それ以降の事件では彼等はオーストリア製のグロック17を使っていました。
でも大使館でテロリストが使っていた武器はあの名作映画『エイリアン2」でも出来てきた、ドイツ製H&KVP70だったんですよね。
エディタが誘拐されかかった時に相手が使っていた武器も同じです。
それに彼等はどう見ても欧州風の顔立ちでしたが、デルブリュックの部下たちは日本人ぽい感じです。
うーん。
ソレについてもコレ以上考えても分かりそうにありません。
よし、決めた。
今日はここまでにしよう!
私は考えるのを辞めると、軽く伸びをして亡くなったおじい様が使っていた書庫へと向かいます。
そしておじい様の蔵書と格闘し始めてから10数分後、ソレは起こりました。
「ズドドドーン」
そんな音が屋敷中に響き渡ります。
暫くすると廊下を誰かが走り抜ける音が聴こえ、書斎の扉が慌てるように開かれました。
「い、いずみさん!?どかうかれましたか?」
そう言ってくれたのはお手伝いさんです。
「イタタタ。だ、大丈夫よ」
私は最上段から本を纏めて取り出そうとして失敗し、その本と共に床へと落下したのでした。
もぅ!幾ら時代小説が好きとはいえ、その本に押しつぶされて死ぬなんて御免です。
そんな私の様子をみて大丈夫そうだとしったお手伝いさんはクスクスと笑い始めたのでした。




