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39 美味しい紅茶を飲みながら

 その日、私は珍しく本は読んでいませんでした。

 あの日、デルブリュックが手配した車で、私は何事も無く佐倉のお屋敷へと帰り着きました。

 実のところ追加でイベントでもあるかなーって思ってもいたのですが、私の予想は見事に外れたのでした。

 しかし、車が佐倉の屋敷へとたどり着き、運転手が一礼して車で去っていくのをボンヤリとみつめていた時、私はソレを思いだしたのです。

 あー!!

 折角買った本が無くなっているじゃない!!

 そうです、本屋で折角買った時代小説が、あの襲撃のゴタゴタで何処かへと失われていたのを今更のように思いだしたのでした。

 も~!!

 折角読むのを楽しみにしていたのに台無しになっちゃったじゃない。

 そんな事情もあり、その日は読書をする事も無く、変わりにイロイロと考え事をしていたのでした。

 その内容は勿論『デルブリュック・ロイス・ユンゲレリーニエ』と名乗った男性との会話です。

 イロイロと分かった事もあれば、分からなかった事も、なんとなーくおかしく感じた事もありました。

 それで読書もせずにイロイロと考えていたのですが……。

 うん、やっぱり分かんない!

 私は早々に匙を投げて考える事を放棄します。

 元々私は考える事が苦手なのです。

 あ、勉強が出来ない、ってわけではありませんよ?

 これでも異世界に行くまでは日本でも一流大学、と言われたいた大学に通っていたのですから。

 でも答えが事前に設定されている学校の勉強と、正しい答えが無く、己のや周囲の行動で正しい選択肢が増えたり減ったりする現実の問題は同列には語れないと思うのよね。

 という事で答えの出ない問題を考えるのを辞めた私は、ゆっくり読書を――しようと思いましたがそれはいったん棚上げしてとある人物と連絡を取る事にしました。

 私はコードレス電話を手に取ると、以前に教えてもらった番号へと電話を掛けます。

 相手が出て私が、


「もしもし――」


 と言いかけた所で、


「い、いずみ様!いずみ様ですね!そちらからお電話して頂けるなんて!」


 と私の声を遮るような声が電話口から聴こえてきました。

 声が若干上ずっているように聴こえるのは私の気のせいでしょうかね?


「エディタね?ちょっと話したいことがあるのよ。あって話せないかしら?」


「えっ!?お話しですか?」


 相変わらずな騒がしい声です。

 私はコードレス電話の音量を少し下げながら言いました。


「えぇ、出来るだけ早く会って話したいと思っているのよ。色々と分かった事があるのでソレも伝えておきたいし、エディタにも関係のある事だから。それで待っているから出来るだけ早く迎えをよこしてくれない?」


 と、私の方から会いたいと持ちかけたのにずうずうしくも迎えを要求してしまいました。


「わ、分かりました。ではスグにでも迎えをよこしますね!」


 ですがエディタは二つ返事で了承してくれます。

 やったー。


「ありがとう。では待ってるから」


 そう言って私は電話を切ると、畳へ寝ころびました。

 そしてゆっくりと瞼を閉じるのでした。


 ★★★★


 そして私は今、エディタが迎えによこしてくれた車に乗せられて、ロイス・グライツ王国の日本大使館へと来ていました。

 その部屋の一室では、私とエディタ、それとゲルトルートの三人がいます。

 二人はこの部屋に通されてから一言も話さずに私の事をじっとみつめては時折、各自の前に置かれたカップに口を付けたりをしていました。

 そして私はと言うとこれから何を話そうかと考えていたのです。

 あのデルブリュックとの、今思い返せばよくわからない事も多い会談を思い返すと、何をどう話していいか分からなくなります。

 そして二人から感じる視線が私にプレッシャーを与えてくれて、この部屋に通されてから何度目になるか分からない溜息を吐きました。


「……ここの紅茶って美味しいわね」


「そうですか?只のダージリンだと思いますけど……」


 沈黙が続く事に耐えられなくなった私がふと漏らしたそんな言葉に、エディタは自身のカップに口を付けながら言いました。


「もし、他の銘柄が宜しかったら遠慮なく仰ってくださいね、いずみ様。ダージリンだけでなくアッサムやウバなどもお出しできますので」


「あら、そう。では次に来た時はアッサムをお願いするわね?」


 と、私は自身の希望を口にします。

 と、いっても私は紅茶と言えばダージリンかアッサムしかしらないんですがね!


「分かりました。所で――」


 そこでエディタはためらうように言葉を切り、姿勢を整えてソファーに座り直すと子言葉を続けました。


「所で、お話しってなんでしょうか?……いずみ様が言葉を選んでお話ししようとしているのは分かります。ですがそろそろお話ししていただけませんか?」


「……」


 私はそれには答えずにカップを口元に運ぶと、そこで改めてエディタをじっとみつめました。

 エディタはそんな私を急き立てることもなくじっとみつめています。

 私は苦笑しながら頭を振ると、今までよりも少しだけ大きな溜息をついた後、話し始めました。

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