37 デルブリュックの言い分
「私の事をお知りになりたいのですか?……良いでしょう、お教えしましょう。私は『デルブリュック・ロイス・ユンゲレリーニエ』と申します。父はユンゲレリーニエ家当主の5男『ローレンツ・ロイス・ユンゲレリーニエ』、母は『メータ・ヨシダ・ヴァルプルギス』。ユンゲレリーニエ家は20代以上前の王家から枝分かれをした家でして、現王家との血の繋がりは薄いのですが、これでも末席ながら王族の一員として認められております」
デルブリュック・ロイス・ユンゲレリーニエと名乗る目の前の男性はそう、自分の事を語りました。
「さて、簡単にですが私の自己紹介は終えました。他にお知りになりたい事はございますか?」
うーん、『デルブリュック・ロイス・ユンゲレリーニエ』この名前は聞き覚えがあります。
そう、あの遺言状にあったお名前です。
この男性がそうだったんですね。
私は改めて目の前の男性をじっとみつめました。
黒髪の黒目、それだけなら日本人とソックリですが、肌の色は少しだけ褐色を帯びています。
顔は東欧風で身長は180センチぐらいかな?
総合的に言いますと、東洋と西洋の中間あたりの容姿、簡単にいうとアラブ人風のイメージに見えます。
それに仕立ての良いスーツをその身に纏い、先程みた限りでも優雅な動作の中にどことなく享楽的な雰囲気を感じさせていますね。
取り敢えず、雰囲気だけならどこぞの王侯貴族というのも納得は出来ます。
「貴方が『デルブリュック・ロイス・ユンゲレリーニエ』でしたか。そのお名前は貴方が送ってくれた遺言状にも書いてあるのを見ましたね。……まさかとは思うけど同姓同名の別人って事は無いでしょうね?」
「それは大丈夫です。ユンゲレリーニエの家でデルブリュックは私だけですから。それで貴女の疑問は解けましたか?」
「えぇ、それで分かったわ。なぜ貴方が遺言状の中身を知りたかったわけもね」
私がそう言うと、目の前の男性、もう名前も分かったのでデルブリュックと呼ぶことにします。
デルブリュックは鋭い眼で私を一瞬みつめた――ような気がしました。
でもそれはホン一瞬でスグにまた口元へ笑みを浮かべると、
「ほぅ、それはなぜでしょうか?ぜひお聞かせ願えませんか?」
「貴方はご自分の出生の秘密を事前に知ってたのでしょう?それで前国王が亡くなって誰が王になるかとてもとても気になっていたわけね?」
以前出会った時『国王陛下と言えば名実ともに我が国のトップです。その地位に就かれる方をいち早く知りたい、そう思っても不思議ではないのでは?』なーんて言っていたのを思いだします。
それって実のところ、自分の名前が遺言状に書いてあるかどうか気になっただけじゃないですか。
「そう言えば以前出会った時、貴女に対してそんな事を言いましたね。それで、私の出生の秘密とはなんでしょう?」
と、わざと驚いたような大げさな態度を取ります。
「貴方の事はバルナ氏から聞きました。なんでも亡くなった国王の隠された子供とか言ってましたよ」
「そこまでお知りでしたか。ではお判りでしょう?私こそがロイス・グライツ王国の正統な後継者に相応しいということを」
「……でもどうなの?私は貴方の国の事情なんて全く分からないけど、貴方って分かりやすく言えば前の国王が不倫して出来た愛人の隠し子でしょ?そんな人が急に出て来て、『自分は前の国王の隠された子供だから王位を次ぎます』とか言って果たして国の人達は納得するのかしらね?」
「それは無理でしょうね。言うだけなら誰でも出来ますし、前国王陛下の御子だという証明もできません。それに何より、私には政治的な後ろ盾も無く正統性も証明できませんから」
デルブリュックはそう言って自嘲気味に笑いました。
なんだ、自分でも良くわかっているじゃん。
でもだからこそ、遺言状でもデルブリュックが王位に着くには他の三人の殿下より条件が複雑になっているんでしょうけど。
「……よくわからないわね。では貴方は何が目的だったのかしら?」
「それは最初から言っていたはずですよ。お分かりになりませんか?」
私を試すような口ぶりです。
って言われてもねぇ。
「最初から……?悪いけど、ぜんぜん分からないわね」
「私の目的は、前国王陛下の遺言状を知りたかった、それだけです。貴女と出会った時からそう言っているじゃありませんか」
そう言って今度はあからさまに笑いました。
「本当にそれが……それだけが目的だったの?」
本当にそれだけ――そんな事の為に誘拐とかしたの?
でもこちらからは嘘だという証明もできないんですよね。
「はい、私は前国王陛下――私の実の父親が私の事を忘れずにいてくれた、それだけ分かれば十分だったのです。所で……私からも貴女にお願いがあります」
「私にお願い?」
デルブリュックは頷きます。
「えぇ、そうです。私は既に自身を紹介しました、もう十分すぎるほどにね。次は貴女自身を紹介していただけませんか?」
そう言ってデルブリュックは私に対し、悪戯っぽい笑みを浮かべるのでした。




