33 敵地侵入
私は窓の外に流れる景色を見ながら、運転手さんに話しかけました。
「私はね?子供の時の夢の一つに、一度パトカーに乗ってみたい、そんな夢があったのよ。貴方はどう?」
ここは車の中、走っている場所は……国道かな?
先程インターチェンジを通り過ぎたので高速道路を降りた所です。
「わ、私は別に……」
自分の後方に座っている私が気になるのか、バックミラーだけでなくチラチラと時折、横目をこちらに向けながら、震えるような声で運転手が答えます。
そんなチラチラみたら危ないよー。
注意しておきましょう。
事故でも起こされたら大変だもんね。
「そうなんだ、あ、ちゃんと前見てください。安全運転をお願いしますね?パトカーが事故を起こしたら不味いでしょ?大事故でも起こして明日の朝刊に載りたくはありませんからね。貴方もそうでしょう?」
私の言葉に慌てて正面を見据える運転手です。
そんな運転手ととりとめの無い会話をしながら私が乗っているのは本物のパトカー――ではありません。
えぇ、そうです。
残念な事にこれは本物のパトカーでは無く、ビルの地下駐車場にあったパトカーを模した偽物なのです。
そう、パトカーモドキです。
あーあー、残念。
折角子供の時の夢の一つが叶うと思ったのになぁ。
でもいいです。
ここは一つ本物のパトカーだと思う事にしてしまいます。
さてこのパトカー、傍目には良く出来ていると思います。
私も最初に見た時は本物だと思っちゃったぐらいです。
まぁ私はパトカーに詳しくないので、何処がどう違っているのか、と言う事はわかりません。
傍目にはパトカーソックリなので、今はこれでヨシとしましょう。
私は、先程の戦闘で無傷だったこの男性に運転をお願いした所、二つ返事で了承してくれました。
そして今、この車が向かっているのは、この人達に命令を出したボスがいる所です。
私は先程のビルにいると思っていたんだけど、あのビルは只の拠点の一つだった様ですね。
そしてこの男の人は私のガイド兼運転手として雇われた、という事情なのでした。
まぁ雇うといってもノーギャラなのは申し訳無いですけど。
向かっている先は東京都内では無く、どうも神奈川県のようですね。
徐々にビルなどは見られなくなり、それに変わって自然豊かな木々が垣間見えます。
そんな所を道沿いに進むと、大きな鉄の門が見えてきました。
どうやら公道はここで終わりのようです。
門の向こうは私道でしょうかね?
まだまだ道が続いています。
その様子を確認した私は、一旦門の前で停止して私の様子を伺っていた運転手にお願いをしました。
「ではこのまま道沿いに進みましょうか」
私にとっては至極当然の話だと思ったのですが、どうも運転手にとってはそうではなかったようです。
「えっ!?で、でも扉が閉まって――」
そう言いながら目をパチクリさせて面白い顔をします。
「えぇ、扉は閉まっているけど、道はまだまだ続いているでしょ?進んでください」
私はニコリとしながらそう言って説明しつつ、身振りでも目の前の道先へ進むように合図しました。
が、どうした事でしょう?
車はなかなか走り出しません。
「し、しかし……そ、それは――」
尚もそんな事を言って、運転手という仕事をしないこの男の人に私は少しイライラとしてきました。
「もう一度だけ言います。このまま道沿いに進みなさい。簡単なはずでしょう?……それとも出来ないのですか?」
笑顔を辞めた私は強めの口調でそう指示しました。
「だ、大丈夫です!で、出来ます!出来ますから!」
そう言って慌てたような感じでエンジンを吹かした運転手は、
「チクショウ!なんで俺がこんな目に」
と、独り言を言ってやっと運転手の仕事をしてくれたのです。
もー、出来るんなら早くやってよね!
アクセルを踏み込んだパトカーはそのまま鉄門に衝突すると、凄い音を立てながらも無事内部の敷地に入る事にに成功しました。
ほら、やれば出来るじゃん。
ムリだと思うから無理なんだよ?
ただ、パトカーの方は無傷とはいかなかったようです。
パンパーって言うんだっけ?
車体の前方は激しく歪み、へこんでしまいました。
オマケに門の一部がフロンガラスにぶつかったらしく、フロントガラスも割れ、ガラスが車内に飛び散っています。
けど私は後部座席に居たので、幸いな事にガラスのシャワーを浴びずに済んだようです。
ですが、運転手さんはガラスのシャワーをもろに顔面へと浴びたらしく、悲痛な声を上げていました。
「アッ~ア”ッ~目がぁ~目がぁ~!!」
と、映画のラピュタを思い出させるような台詞を吐きつつ顔面を抑えています。
あら、ごめんね?
でもきっと治療費は貴方の雇い主が出してくれるはずだから。
私は心の中で運転手さんに謝りながらパトカーから降りました。
楽ちんなドライブはここでお終い。
ここから先は歩きになります。
「アッ~ア”ッ~目がぁ~アッ~ア”ッ~!!」
あいも変わらず車内から響き渡る、そんな声を背に私はその道を歩き出したのでした。




