29 パルナ氏は知っていた
バルナ氏はなかなかに予想外な事を仰ってくれましたね。
でもなんでそんな重要な方が誰にも知られてないんでしょうか?
「えっ!?……でも……なんで……」
それを聞いて、言葉を詰まらせるエディタです。
「え、エディタ様が驚かれるのは当然です……」
バルナ氏はどもるようにそう呟きました。
「前国王陛下が60歳を超えた時、一人の侍女と出会いました。当時、王宮で働いていた下働きの女性です。ご存知と思いますが、前国王陛下は先々々代国王陛下の第5子であり、即位される事になるとは誰も思っておりませんでした。勿論ご本人も……その為、若い頃はかなり奔放であり、正式な結婚はせずに数人の愛人を囲って気ままに過ごしていたと聞いています。その時生まれたのが、3人の殿下の母である方々です」
ん?
愛人?
囲う?
今ちょっと聞き捨てならない事を言いませんでした?
「王子が愛人を何人も囲っていたの?」
私の疑問にバルナ氏は苦笑いをします。
「えぇ、まぁ時代背景も今よりはかなりおおらかな世情で。特に我が国は国王陛下の権力が強く、不敬罪もあり、なかなか外部――世論やマスコミの追及も難しいですからね。稀にこういった問題のある行動をする王族が出てくるのですよ。――所が50歳を過ぎた頃にそんな気ままな生活に終止符を打つ時がやってきました。一番目の兄君であられる当時の摂政王太子、その方のたった一人の御子がお亡くなりになったのです。その時王室は初めて未来の王位継承についてキチンと考えざるを得なくなりました」
そこでバルナ氏は一度言葉を切ると、手元のカップに手を伸ばし、一口付ける。
「当時の王室には前国王陛下を含めて5人の王子が居ましたが、そのうち、子を持っているのが3人だけ、そしてその中で男子がいるのは一番目の兄君だけだったのです。その男子が亡くなってしまった。その事実に王室は慌てました。第3王子には女子が生まれていましたが既に婚姻済み。そこで未婚だった第5王子、つまり前国王陛下が愛人に産ませた3人の娘を現在の王室と血筋の近い傍系王族と婚姻させて、生まれた男子を将来の後継者として育てる事にしたのです」
ふーんそうなんだ。
私は先程エディタが言った『ミケ殿下、レイ殿下、ロイ殿下は前国王陛下のお孫に当たる方達です。母親はそれぞれ違いますが……』という言葉を今更のように思いだしました。
あの時はサラリと流してしまいましたが、こんな事情があったんですね。
そんな事を思っている間にも、バルナ氏の言葉はまだまだ続きます。
「前国王陛下は即位と前後して王室が選んだしかるべき貴族家の女性と正式に婚姻しました。しかし当時50歳を半ば超えていた前国王陛下に子供が出来る事は想定されておらず、お相手は政治的な意味でのみで決められました。お互いの対面を保つだけの婚姻であり、夫婦生活は冷え切った物だったと聞いております」
バルナ氏はコホン、と一旦咳をして声を整えてから言葉を続けました。
「そんな時、60歳を過ぎた前国王陛下が出会ったのが先程の下働きの侍女です。年齢的には前国王陛下が愛人に産ませたご自分の娘より年下、そんな娘を見初めてしまったのです。それが隠された愛人関係に留まるのであればまだましだったのですが……そしてそうこうしているうちにその侍女が身ごもってしまいました。ですがこんな事が外部に漏れたら王室の大きなスキャンダルです。ですので――」
バルナ氏は一旦言葉を切ると、息を塊として引き出すかのように息を弾ませました。
「ですので、事情を全て把握した当時の王妃様はスグに行動を移しました。元々政治的な意味合いで50歳過ぎの前国王陛下と婚姻なされた方です。王妃に留まらない卓越した政治的嗅覚をおもちであり、その手腕をもって解決に動きました。具体的に申せば侍女を前国王陛下から遠ざけると共に未婚の出来るだけ血筋の離れた傍系王族と婚姻させたのです。そして、その婚姻後生まれたのが――」
「『デルブリュック・ロイス・ユンゲレリーニエ』と言う事ね」
私はパルナ氏より早くその人物の名前を言いました。
「……その通りです」
バルナ氏はそこまで語るとやっと落ち着いたのか、ほっと溜息を吐きました。
しかし……うーん。
なかなか複雑な事情が絡んでますね。
なので頑張って簡単な図に書き起こす事にしました。
これが以下です、じゃじゃーん。
┏━━━━第一王子(摂政王太子)━━━━男子(死亡)
┃
┃
先々々代国王╋━━━━第二王子
┃
┃
┣━━━━第三王子(先々代国王)━━━━マルガ━━エディタ・ヴェッシャー
┃
┃
┣━━━━第四王子
┃ ┏━娘1━━ミケ・ロイス・ツー・グライツ
┃ ┃
┗━━━━第五王子(前国王)━━━━╋━娘2━━レネ・ロイス・ツー・グライツ
┃
┗━娘3━━ロイ・ロイス・ツー・グライツ
┃
┃
┣━━━━デルブリュック・ロイス・ユンゲレリーニエ
┃
┃
下級侍女
こんな感じで間違って無いはず……だよね?
エディタやゲルトルートも私が作った家系図を覗き込んでいますが何も言わないで間違っては居ないのでしょう。
私は自身が作ったこの家系図を、しばらくじっとみつめているのでした。




