02 私は帰って来た
気が付くと私は公園のベンチに腰かけていた。
目の前を通り掛かった制服姿のカップルが私をチラリとみてクスクスと笑った……ように思えた。
久し振りにみるよくある学校の制服。
向こう側には懐かしい自動販売機も見える。
本当に戻って来たんだ、と思うと非常に感慨深い。
私は立ち上がると自動販売機に向かった。
記憶にない銘柄の飲み物が多いなか、定番のジョージアを見つけた。
私はポケットから硬貨を取り出すと入れようとして――。
入らないじゃん!
そう、異世界の金貨は500円玉より大きかったので入らなかったのだ。
よしんば入ったとしても買えるはずも無いけど。
苦笑しながら私は硬貨をポケットにしまおうと、改めて自分の格好を見回した。
異世界の服装だ。
大きな襟のついた前が短く後ろが長いコート、シャツの襟を立てた上からヒラヒラの布をぐるぐると首に巻きつけた大きなネクタイ、シャツの前たての部分にもヒラヒラのレースが付いており存在感半端無い。
ボトムスはスカートでなくパンツタイプだが足元のロングブーツが大きな存在感を主張している。
現代でこんな格好の人を見かけたら――まぁ、ジロジロ見られてしまうのも仕方がないだろう。
まずはこの格好をなんとかしないとなぁ……。
でもなんとかすると言っても先立つ物がない。
と言うわけで、まず、私は手始めに先立つ物を手に入れる事にした。
この公園には見覚えがある。
ここからそう遠くない場所に、アレがあるはずだ。
それを目指し、私は歩きはじめた。
★★★★★
お、見えてきた。
人とすれ違うたびに向けられる奇異の目を知らんぷりし、歩く事10数分、やっと目的の場所が見えてきた。
ファイナンシャルシティビルディング。
地上30階、地下5階からなる大型ビルだ。
最後に見たのは20年まえだったから、ひょっとしたらもう無くなっているかもって思ったけど、どうやらそれは杞憂だったようで安心した。
入り口の警備員が私を一目見て怪訝な表情をしたが、なんとかビルの中に入る事が出来た。
そして私は受付嬢に話す。
「社長に会いたいんだけど、社長室って何階でしたっけ?」
「社長室で御座いますか?……失礼ですがお客様、アポイントメントは御取りになったでしょうか?」
「えっと……」
あーそうだった、そうね、そうよね。
普通アポが必要だし、私みたいな奇抜な格好の人物をすんなり通すほどあまいセキュリティのはずが無いわね。
辺りを見回すと、警備員が怪しそうな目で私をじっとみつめているのが確認できた。
どうしよっかなぁ、メンドクサイ。
と思ったその時、私は見知った人物がエレベーターに乗り込もうとしているのを見つけた。
「あ、やっぱり良いわ」
そう言いながら私はその人物に向かって歩きながらスキルを発動する。
背後から受付嬢の「えっ!?消えた?」と言ってびっくりする声が聴こえた。
スキル【カモフラージュ】。
透明になり視認できなくなるスキルだ。
どういう原理か知らないけど、服などの装備品まで透明になるので便利なスキルの一つである。
ただ効果時間がランダムの為、30秒ぐらいで切れる時もあると思えば十数分持つこともあり、安定しないのが弱点なのよね。
そして私は透明になりながらその人物と共にエレベータに滑り込んだのでした。
二人きりなら良かったのだけれど、あいにくとエレベータには複数の人がいたのでそのまま目的地に着くまでおとなしく時をまつ。
そしてその人物がエレベータから降りると、私も一緒に降り、そのままくっ付くように移動して、部屋のセキュリティーもスルー、そのままドアを閉めて一人で席についたのを見て、私は【カモフラージュ】の効果を解いたのだった。
「だ、だれだ、お前は!?いつこの部屋に入った?」
急に現れた私に対して、目の前の人物は当たり前の反応をする。
その当然の反応に対し、私は――。
「やっほ、隆、久し振りだね。元気だった?」
そう言って笑顔で手を振る。
折角笑顔で話しかけたのに、その言葉を聞くと隆はますます顔を険しくさせた。
「お前何者だ?なぜ私の名前を……」
そう言って私の顔を睨みつけた後、はっとした表情になると、
「ま、まさかお前――!」
「やっと思いだしてくれた?従姉妹のいずみだよ。ホント久し振りだよね~」
「いずみ……、本当にお前なのか?い、いや顔は確かにそうだが……」
そう言って隆は私の顔、そして姿をじっとみつめる。
「お、お前!一体今まで何処にいってたんだ?20年も行方をくらましていたんだぞ!?そ、それになぜ昔と変わらない姿なんだ?い、いや服装は確かに変わっているが……」
あー、やっぱそうなるよね。
20年間連絡も取れなかった従姉妹が急にひょっこり姿を見せてきたら驚いて当然だ。
それに容姿についても私は異世界では殆ど歳を取らなかったみたいだし。
「まぁ、その辺は話せば長くなるんだけどね。でも隆もあんまり変わってなくて助かったよ。一目見てスグ隆だってわかったし。もしハゲとかになってたら分からなかったよ」
「誰がハゲだ!つーかうち一族にはハゲの奴なんていないだろ!」
それを聞いて私はクスクスと笑う。
隆もその私も反応を見てからかわれたと気が付いたようだ。
「まったく。話せば長くなるってお前な……辰夫伯父さんにはもう連絡を取ったのか?てっきりいずみはもうしんだとばっかり思っていたが……」
「……父さん?ううん。まだ取ってないよ。会うつもりもないし」
「会うつもりもないってお前……。じゃなんで俺には会いに来たんだよ?」
「ちょっと助けてもらおうと思ってね。社長って今いる?合わせてよ」
「社長って……誠司の事か?」
その名前を聞いて私は驚いた。
「えっ!?今社長って誠司さんなの?清司伯父さんは?」
「清司伯父さんは何年も前に死んだよ」
マジか……。
清司伯父さんにはわりと可愛がって貰っただけに、死んだと聞かされてちょっと悲しかった。
「そっかぁ~。じゃ誠司さんでいいや。今いるの?」
「誠司は今はいるはずだが――っておい!」
「なによ?」
「いくら従姉妹とは言え、社長に部外者をホイホイ合わせるわけないだろ。いいからまず目的を言え」
「えー?……しょうがなぃなぁ~。ちょっと先立つ物が欲しくてね。伯父さんに助けてもらおうと思ってきたんだけど、もう亡くなったんなら誠司さんでもいいや。伯父さんの遺産は誠司さんが引きついたんでしょ?」
「先立つ物って……つまり金か?」
「当たり!」
私はそう言って指を立ててウィンクしてみせた。
そんな私をみて隆は「はぁ……」と溜息を付く。
「20年音信不通だった従姉妹が社長に金をせびりにくる。そんな用件で社長に会わせられるわけないだろ!ふざけるのもいい加減にしろ!」
わりと本気で怒られてしまった。
このままでは埒が空きそうにないし、さてどうしようかな?




