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26 約束の履行と遺言

「それで?一体どんな内容だったの?」


 私はいつものように会議室に通され、案内人が退出するや否やエディタに――二人に質問します。

 それに対し、目の前のエディタやゲルトルートは黙ってお互いの顔を暫くじっとみつめていました。

 私は暫くそうして見つめ合った二人の様子をだまって観察していましたが、やがて厳しい表情になったエディタが口を開きます。


「いずみ様、これからお話しする事は、正式に公表されるまで他言無用でお願いいたします」


 他言無用って言われてもねぇ。

 今更じゃない?

 まぁ勿論言いふらすつもりも、言う相手もいないけど。

 ここは仮にウソを吐く場合でも頷いておく場面ですよね。


「それは勿論です」


「実の所、私も困惑しているんです、いずみ様」


 そう言ってエディタは急に声を落としました。


「私には何がどうして、前国王陛下がこのような遺言を残されたのかさっぱり分かりませんが……実際見てもらった方が分かりやすいですね」


 そう言って見せて貰った遺言の内容は――確かに一言では言い表せないものでした。

 細かい部分を出来るだけ省いて、主要な部分だけ要約するとこうです。






『ロイス・グライツ王国の次期国王は以下の条件を満たす者に受け継がれる。


1:エディタ・ヴェッシャーの配偶者となる者、ただしその配偶者は以下の3人の相手から選ぶこととする。


 ミケ・ロイス・ツー・グライツ

 レネ・ロイス・ツー・グライツ

 ロイ・ロイス・ツー・グライツ


2:エディタ・ヴェッシャーが遺言公表後、三ヵ月以内に配偶者を決めなかった場合は、ミケが継承し、ミケが継承しなかった場合はレネが、ミケ、レネ二人とも継承しなかった場合はロイが継承する。


3:ミケ、レネ、ロイの三人ともに継承しなかった場合は、エディタ・ヴェッシャーの承認の元、デルブリュック・ロイス・ユンゲレリーニエが継承する。ただし、元老院が指名した者を摂政とする事。


4:上記の内、六ヵ月以内に誰もが継承しなかった場合は元老院の定めた継承順位に従う』






 うーん!!!!????

 ホントは実際はもっともっと長かったんですよ?

 でも重要そうな所だけかみ砕いて説明するとこうなります。

 ちょっと見ただけでもエディタが超需要なポジションにいる事が分かりますね……。

 確かにエディタが先程電話で言った通り、エディタ自身が国王になるわけではありません。

 でもこれを見る限り、エディタが選んだ人物が次期国王になる、そう書いてあるのも同然なのです。

 確かに、これが事前に漏れたら大変な騒ぎになるでしょうね。

 3人……いや4人か、4人ともエディタの意思一つで国王になれるかどうかが決ってしまうのですから。

 でももう一度見直してみるとこの4人目、この方だけなんか異質な感じがしますね。


『デルブリュック・ロイス・ユンゲレリーニエ』


 この人だけ3人と名前……苗字かな?が違います。

 それに上記3人は『配偶者』となる事、つまりはエディタと『結婚』する事が条件なのに、この方だけ『承認』となってますね。

 この違いはどこから来ているんだろう?

 うーん。

 少しばかり考えてみましたがちっとも分かりませんね。

 私は考えを辞めると遺言書から目を離します。

 そしてエディタをじっとみつめました。

 明らかに何時もの顔色とは違うのが見てとれます。

 可愛そうに青ざめていますね。

 心なしか肩も震えているように感じました。


「この遺言って本当に前国王陛下の書かれた本物なのでしょうか?」


 しばしの沈黙を破って、そう言ったのはゲルトルートです。

 まぁ、最初に考えるのはソレよね~。


「でも、偽物の遺言にしては細部まで書き込まれてない?それに実際エディタどう思うの?このミケだとかレイだとかって人達は実際どんな立場の人なの?」


「ミケ殿下、レイ殿下、ロイ殿下は前国王陛下のお孫に当たる方達です。母親はそれぞれ違いますが……。正当性については問題ありません。実際、前国王陛下が亡くなられる前から、次期国王陛下になられるのは年長のミケ殿下だろう、そう言われてきましたから」


「ふーん、そうなんだ」


「でも『デルブリュック・ロイス・ユンゲレリーニエ』この人は全く存じ上げません。ユンゲレリーニエの家は王族と認められてはいますがかなり前に王家から枝分かれした傍系にあたる血筋で、なぜこの方の名前が記載されているのかさっぱりわけが分かりません。実際元老院が作成している継承順位でもユンゲレリーニエの家の者はかなり下のはずです」


「でもそんな人物がエディタの承認しだいで国王になるって書いてあるわよね?最も上の3人が継承しない事が前提だけれど」


「はい……。でもなんで私なんでしょうか?」


「そ、そうよ!エディタが次期国王陛下になられる方を選ぶなんておかしいわ!だからこれは真っ赤な偽物よ!」


 ゲルトルートは肩で息をしながら、叫ぶように言いました。

 エディタはその言葉に対してかすかに頷くと、私に視線を移してじっとみつめてきます。

 そのエディタの目の中には不安や恐怖などと言った感情が、ありありと映っているのでした。

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