25 エディタからの電話
その日、私は食欲を刺激する良い匂いを嗅ぎながら目覚めました。
あー、よく寝た。
そして布団の上で何回目かの伸びをした所で部屋の扉がノックされます。
「いずみ様、おきていらっしゃいますか?」
お手伝いさんの声です。
「ん、今起きたとこ。入っても良いわよ」
私の声でお手伝いさんは部屋に入ってくるとカーテンを開けてくれます。
「良い匂いがするわね。教のメニューは何なのかしら?」
「はい、本日はご飯にシジミのお味噌汁、小松菜の卵とじ、のざわ菜漬けを用意させていただきました」
「そう、それは楽しみね」
人によって簡素な食事、と思うかもしれません。
だけどこのような和風の朝食は私がリクエストしたものです。
朝はこんな感じの食事で無いと、なんとなーく力が出ない気がするのよね。
このお手伝いさんが作ってくれる朝食のお陰で、毎日朝の活力が湧き出てくるのです。
私は急いで身支度を整えると食卓へと足を進ませる。
慌てなくても朝食は逃げやしないのだけれど、お腹が空いてる時にこんな良い匂いが漂っていたら自然と足が早まってしまうのだ。
私は食卓に並べられた食事を数十分と言う時間を掛けて味わいながら胃袋に流し込み、最後の一口を飲み込むと良い香りがするお茶を啜り一息を付く。
するとそのタイミングを見計らっていたかのようにお手伝いさんが声を駆けてきました。
「本日、なにかご予定は御座いますか?」
「今日は特には無いわね。いつものようにおじい様の書庫にこもっていると思うから、なにかあったら声を掛けて頂戴」
「はい、分かりました」
さて、今日はどんな本を読もうかな?
池波……いや藤沢にしようかしら。
そんな事を思いながらも今日読む本の予定を組み立てようとしていた矢先。
でも、そんな私の予定は鳴り響いた電話の音によって中断させられる事になりました。
「いずみ様、ヴェッシャーさんからお電話です」
そう言って私へ押し付けるようにコードレス電話を渡し、何処かへと行ってしまうお手伝いさん。
もう、電話に出るかどうかも聞いてくれません。
もし本当に外せない用事とかだったらどうしてくれるんでしょうか?
はぁ、私は軽く溜息を吐いてから電話に出ました。
「もしもし、エディタ?」
「いずみ様、おはようございます。エディタです」
「おはよう。今日は朝からどうしたの?」
「はい、実は今朝、ゲルトルートからファイルが送られてきた、そう連絡が有ったのです」
「ファイル?」
「はい、その中身は――」
そこまで聞いてエディタが言い終わる前に私は言葉を被せました。
「若しかして例の遺言?」
「は、はい。それらしき中身だってゲルトルートが言ってて、それに……」
「それに?」
「それには私の名前も記載されているようなのです……」
「えっ!?」
どういう事なのでしょう?
前国王の遺言書には次期国王が指名されている、たしか以前のエディタ達はそう言ってましたよね?
ということは……。
「エディタが国王になるの?」
「ま、まさか!」
電話口から一瞬大きな声が飛び出ますが、次の瞬間にはヒソヒソ話になります。
「遺言の内容はとてもとても一言では言い表せない複雑なもので……もし可能ならこれからお会いできませんか?何時ものように迎えをよこしますから」
「分かったわ、じゃ待ってる」
「ありがとうございます、それでは失礼します」
そう言って、エディタからの電話は終わりました。
私はコードレス電話を座布団の上へ放り投げるように置くと、今の会話について考えます。
あの日、結局の所、私は細身の男の申し出を受ける事にしました。
いい加減ウンザリしていましたし、何よりも早く屋敷に帰って、お風呂に入りたかったのです。
だって立花の嫌な匂いが手どころか、身体中に付いたような気がしてしょうがなかったんだもん。
一秒でも早く立花と同じ空間から離れたかったのです。
仕方ないよね?
正直な所、細身の男が約束を守る確率は、半分より上程度だろうと思っていました。
あからさまなウソ吐きの感じはしませんでしたが、経験上あの手の人物は息をするよーに嘘を吐く事も多いのです。
でもちゃんと約束は守ってくれたみたいですね。
よかった、ヨカッタ。
さてその送られてきたという前国王の遺言です。
エディタはとても焦っている、ように電話越しでは感じられました。
まぁ自分の名前が書いてある、と知ったら当然カモ知れませんが……。
あれ、でも自分が国王になるわけでは無いって否定してましたね。
よくわかりません。
それにしても一言で言い表せないって言ってましたけど。
私の想像ではシンプルに『次の国王は誰々を指名する~』みたいに書いてあると思ったけど違った様ですね。
うーん。
まぁここで考えてもキリがないか。
私は一旦頭の中から今までの話を追い出すと、予定通り読書をする事にしました。
エディタが迎えに来るまではそれなりに時間がかかります。
その間に短編ならば読み切る事が出来るんじゃないかな。
私は本日、一番最初に立てていた読書の予定を変更すると、「短編たんぺん」と呟きながら相応しい本を探すのでした。




