24 悪い人は放り投げろ
私は正直、一連のやり取りにウンザリしていました。
早く佐倉の屋敷に帰りたかったのです。
「し、知らない……」
なのに期待した答えは太っちょからは帰ってきません。
「あ、そう。私、重い物はあまり持ったこと無いのよね。そろそろ疲れてきちゃった」
そう言って両手で持っていた太っちょの足首から片手を放します。
「ま、待て、待ってください。ほ、本当に知らない――知らないんです」
そう言った太っちょの目には涙が浮かんでいます。
うーん。
なんか嘘は言ってない感じ?
本当に知らないのカモ。
「そう、じゃ貴方は何を知っているの?」
「わ、私は只、その娘を誘拐し、親を脅しただけだ。なぜ、そんな事をする必要があったのかまでは知らされてないんだ……た、頼む、助けてくれ」
そう言って喚き声を上げます。
「そう、貴方も使われる側って事ね。じゃあ、貴方にそう命令したのは誰なの?」
「そ、それは――」
そう言って言葉を淀ませながら太っちょはチラリといまだにソファーに座ったままでいる細身の男に視線を固定させました。
ほほぅ。
そっちが黒幕でしたか。
私は太っちょを掴みながらも細身の男をじっとみつめます。
「立花」
それまで何も言わずに様子を見ていた細身の男が口を開きました。
立花って言うのは太っちょの名前かな?
「別に言っても構いませんよ」
この状況化にあっても落ち着きを払った冷静な口調です。
その言葉を聞いてホッとした様子で太っちょ――立花が答えます。
「わ、私に命令をしたのはソコの方だ」
そう言って細身の男に震える手で指を指しました。
「そう、じゃ貴方にはもう用は無いわね」
「えっ!?」
私はそう言うと、立花を持っていた手を放しました。
いい加減重かったのよね~。
立花はご近所中に響き渡るような絶叫を上げながら地面に落下――はしませんでした。
実は私が手を放したのはホンの一瞬で有り、スグにまたガシっと掴んで上げたのです。
私にとってはホンの悪戯のつもりだったのですが、立花はよほど怖かったのでしょう。
立花が履いているパンツの股間部に水のシミが浮き出ると、その液体が胴体を伝わって立花の顔まで流れて来たのです。
うわっ、ばっちい!
私は慌てて部屋の隅に立花を放り投げました。
その液体にはいっさい触れていないのに、気のせいか嫌な匂いが手に付いたような気がします。
サイテーな気分になって私は顔を顰めました。
私は嫌な気分を振り払うように細身の男に向き直ります。
さて、私はこの細身の男をあらためてチェックしました。
仕立てのよいダークスーツを来た男性です。
私はそれなりに暴れたと思うのだけれど、そんな現場を目撃したのに関わらず、落ち着きを払った口調で話しています。
まるで本社に初めて私が現れた時の誠司さんを見ているようでした。
会社組織に例えるならば、大会社の役員クラス、そんな風格を持っている男性です。
そんな細身の男に私は尋ねます。
「貴方は何者?」
「お互いその事については触れないようにしませんか?貴女も先程、自身の正体については『ナイショ」と仰っていたようですし。それに貴女が一番聞きたいのはそんな事では無いのでしょう?」
まぁ、それもそうね。
確かに、私が一番聞きたいのはこの男の名前などではありません。
「……それもそうね。では一番聞きたいことを聞くけどなんで前国王の遺言なんて調べてるの?」
「それは勿論知りたいからですよ。貴女はご存知かどうか知りませんが、ご遺言には次期国王陛下となられる方の名前が記されています。国王陛下と言えば名実ともに我が国のトップです。その地位に就かれる方をいち早く知りたい、そう思っても不思議ではないのでは?」
ふーん。
一応筋は通ってますね。
でも今気になる事を言いましたよ?
「『我が国』?じゃ貴方は日本人じゃないの?」
「あぁ、良く間違われますが私は違います。ロイス・グライツ王国の人間です」
ふむ。
私はあらためて細身の男をじっとみつめました。
目の前にいる細身の男は黒髪、黒瞳で、これだけなら日本人に見えます。
ですが、よくよく見ると西洋風の顔立ちですね。
アラブ人風っていうのかな?
昔みたアラビアのロレンスって映画に出てきそうイメージを受けました。
「そう、それで?次期国王になられる方は分かったのかしら」
「えぇ、バルナ氏のお陰で無事に分かりました。バルナ氏は私達の期待通りに動いてくれましたのでね。勿論、私達の指示通りに動いてくれた以上、約束通り娘もスグにでも開放予定でした。その前に貴女が開放してしまいましたが」
そんな娘の事はどーでもよかった、そんな口調で細身の男は答えると不敵な笑みを私に向けました。
「じゃ私にも教えてくれない?」
「……条件付であれば宜しいですよ」
「条件?」
「はい、私を無事に帰していただければ、後日お教えする事をお約束しましょう」
「……貴方が約束通り教えてくれる保障はあるのかしら?」
「今ここでハッキリと示せる保障はありません。ですが初対面の貴女にこのような事を言っても信じて貰えないかもしれませんが、私は今まで約束を破った事はありませんよ」
無関心な事を話す口調で答えながら、細身の男はソファーに座わったまま足を組み替えて淫蕩な笑みを私に向けたのでした。




