19 つかの間の安寧
登場人物紹介
今井いずみ……主人公。異世界で20年程勇者として過ごした後、元の世界に返ってくる。
エディタ・ヴェッシャー……駐日大使の娘。
ゲルトルート・バルナ……エディタの学友。
イドゥベルガ・バルナ……ゲルトルートの妹。
★★★★
私は発見したまるでお人形さんのような少女を抱きかかえると、「ペチペチ」と頬を叩きました。
勘違いしないでくださいね?
ほんのかるーくですよ?
絶対痛くは無かったはずです、多分だけど。
するとその刺激に反応したのか、少女はスグに眼を覚ましてくれました。
薄っすらと瞼を開けて、焦点の定まらない眼で私をじっとみつめます。
「……貴女は……誰……ですか?」
「えっと、私は貴女のお姉さん――ゲルトルートから頼まれて貴女を探しに来たの。見付かって良かったわ」
私はそう言いつつ、安心感を与えるためにニコリと微笑みます。
少女は私のその言葉に反応して眼を見開きました。
「えっ!?」
「だから急いで脱出しましょう?少し離れた場所に、貴女のお姉さんとヴェッシャーさんが待っているから」
「ヴェッシャーさんってエディタ・ヴェッシャー様ですか?高等部の……あの?」
むむ?
なんか目の前の少女の雰囲気が変わりましたね?
「えぇ、大使の娘さんの。だから早くいきましょう?」
「あのヴェッシャー様が私なんかを――あ、でもこんな格好じゃお会いするのも恥ずかしい――」
そう言いながら、少女は自らの薄汚れた姿がそんなに恥ずかしいのかモジモジし始めました。
「あのって?」
「はい!とっても美しくて気品にあふれていて、それでいて凄くお優しいし、成績も優秀だし。私のお友達にもヴェッシャー様に憧れているファンが沢山いるんです!」
むぅ!?
なんか話が妙な方向になってきましたね……。
そんなのいいから、早く脱出するの!
私はなかなか立ち上がろうとしない少女を半ば無理やり両腕で抱え込み、ヒョイっと持ち上げます。
そして近くの部屋の窓を開け、庭から脱出しようとしてふと思いとどまりました。
この部屋の雰囲気がなんかゴージャスな感じだったからです。
所謂、書斎という奴ですね。
私は少女を一旦フカフカのソファーに横たわらせると、
「ちょっと用事を思いだしたから、少しだけまっててね?」
そう言って部屋にある立派なデスクの引き出しを開けると書類や手紙類を手に取ります。
これ全部もらってちゃおっと。
私は手に取ったそれらをかたっぱしから【亜空間収納】に放り込みます。
お、ノートパソコンもあるじゃん、これも貰っていこっと。
私はノートパソコンもついでに放り込んでおきます。
さてっと、これで……書類っぽい物は全部取ったかな。
「お待たせ、じゃそろそろ行くわよ?もう立てたりする?」
「えっと――まだ、ムリそうです」
そう言って少女は甘えた声を出しました。
……これは嘘をついてますね。
きっと自分で歩きたくないんでしょう。
でも随分と怖い目にあったみたいだし、オマケに髪の毛もこんなに切られちゃったし、まぁ今は許してあげようかな。
私は苦笑いを受かべると再び少女を抱き上げ、今度こそスタコラサッサと逃げ出すのでした。
★★★★★
私は入った時とは違って正門から外にでると、少女を抱えたまま急いでエディタ達の待つマンションに向かいました。
え、中にいた男の人達ですか?
それは全員倒れているか、腰を抜かしていたので追いかけてきませんでした。
中には下半身を妙に濡らしている方も居ましたがまさかね……。
き、きっと飲みかけのペットボトルでも零してしまったのでしょう。
そんな事を思いながら駆けていると、目的であるマンションの入り口付近に人影が見えました。
エディタ達です。
どうやら上から降りて来て、待っててくれたようですね。
「お姉ちゃん!」
「イドゥベルガ!」
二人はほぼ同時に声を発して、ゲルトルートがこちらに駆けてきます。
「イドゥベルガ、歩けないの?大丈夫?何か酷い事されたの?」
「ううん、大丈夫。――ちょっと髪を切られただけだから」
少女がそう言うと、ゲルトルートが優しく少女の髪を撫でます。
「酷い……折角綺麗な髪だったのに、こんなになって……」
そう言ってゲルトルートは涙を浮かべました。
「お姉ちゃん……」
少女も涙を浮かべています。
……まぁ、感動の再会なのは分かるんだけどさ、早くここから立ち去ったほうがいいと思うんだけどなー。
という事を思っていると、
「追ってこないとも限らないから、早く遠くに離れましょう」
エディタも同じ思いだったらしく、私の代わりに言ってくれました。
「そ、そうですね」
ゲルトルートはそう言って少女から離れると、不安になったのか周りをキョロキョロと見回します。
「大通りにでて車を拾いましょう。詳しいお話は安全な場所で」
エディタの言葉に私達は頷くと、そのまま大通りに向かって駆けだすのでした。
★★★★★
大通りに出た私達はタクシーを拾うと、前後に別れて乗り込む。
前にはゲルトルート、後ろには私とエディタと助け出した少女――イドゥベルガです。
乗り込んであまり時間がたっていないのに、イドゥベルガは私に寄りかかってスヤスヤと寝てしまったようです。
安心して疲労がどっと襲ってきた、そんな感じでしょうか?
私はそんなイドゥベルガの身体にそっと自身の上着を掛けてあげます。
タクシーの行先は佐倉の私の家、ということになりました。
これはゲルトルート達の自宅や、大使館は見張られているかもしれない、そんなエディタの意見からです。
私はそれを聞くとえぇーって思ったのですが、その心配はまぁ当然の事なのでシブシブ頷いておきました
道を走り続けるタクシーの車内には静寂が満ち溢れています。
さて、これからどうなってしまうのでしょうか?




