01 久し振りの出会い
『よくぞ魔王を倒してくれました』
神々しい光は徐々にその光量を増していき、私にはもう周りを見渡す事さえ出来なかった。
頭の中に直接声が響く。
『真の勇者よ、私の元へ戻りなさい』
そして気が付いた時には、周りは白い空間で覆われていた。
この場所には覚えがある。
二十年前に私が連れてこられた場所だ。
そう、二十年前、当時学生だった私はこの場所に連れて来られ、勇者として異世界に飛ばされたのだった。
そして与えられた様々なスキルを使いこなし、同じ勇者である聖女ドッティの協力の元魔王を倒し、あの世界に平和を取り戻した。
――はずだったんだけど?
なぜかこの場所にいる。
「ありがとうございます。これであの世界も平和を取り戻す事でしょう」
美しい銀髪に白いドレスのような衣装を着た女性がいきなり出て私にそう言って微笑んだ。
二十年前と同じ美しい女神を名乗る者。
「あら、まだ私が女神だと信じていらっしゃらなかったのですか?それはそうと貴女、酷い格好ですよ?傷を癒して、ついでに服装を整えて差し上げます」
そう言って自称女神は手を軽く動かすと、半身が吹き飛んだはずの私の身体が元通りになり、服装は普段着ているのと大差ない格好になった。
これでよし、そう言いながら微笑む自称女神。
会うのは久し振りだけれど、歳を取った様子は見られない。
「貴女も二十年前と同じ容姿なんですけどね」
「……考えを勝手に読むのは辞めてくれない?」
「自然に貴女の考えが流れてきてしまうの、ごめんなさいね?それよりお疲れ様でしたね」
「……本当に疲れたわね。それで?私はこの後どうなるの?」
「貴女には主に二つの道があります。一つはそのままあの世界で魔王を打倒した勇者としての暮らしを――」
「却下」
私は即答した。
あの世界にこれ以上いるなんてもう御免こうむりたい。
はっきりいって聖女と呼ばれたドッティ以外の人間は揃いも揃ってつき合いたくない人間ばかりだった。
彼女だけね、一緒にいて安心できたのは。
即答した私をみて、女神は困ったような顔をしたいるが知ったこっちゃない。
「……本当にあの世界にいてはくれないのですか?」
「えぇ、これからあの世界に起こる事を予想するとね、メンドウは御免だわ」
「そんなことは――」
「ダメです、絶対に嫌」
私は言葉に力を込めて全力で嫌がってみせた。
「そうですか……分かりました。ではもう一つの道を。貴女は元の世界に帰る事が――」
「じゃそっちで」
またもや即答。
「えっと、ちゃんと聞かずに決めてしまっても良いのですか?」
「大丈夫よ、心配しないで」
「そうですか随分あっさり決めましたね。もっと悩むものかと思いました」
「元の世界も碌でもなかったけど、あの世界よりましよ」
あの世界に飛んで暫くしてから私は悟ったのだ。
その世界の問題にはなるべく口を挟まないといいと。
興味本位で首を突っ込むと、大抵メンドウな事になると。
それでなんども失敗しているのだ。
この手の問題にいちいち首を突っ込んでいたらきりがない。
と言っても、溢れる好奇心を抑えきれずに、首を突っ込んでは後悔するというのを繰り返していたのだが。
そしてそんな事を繰り返してる間に、あの世界での勢力図はグチャグチャになってしまい、私は『黒の勇者』や『闇の魔女』などとあまり好ましくないあだ名を付けられていたがそれは別のお話。
「……そこまであの世界を嫌われましたか。分かりました、貴女を元の世界に帰して差し上げます」
不本意だが仕方がないという自称女神の顔を見て、私は安堵する。
「でもまぁ説明だけはちゃんとさせてくださいね。貴女には私からのお礼として今までの世界でのスキルをボーナスとして使わせてあげます」
お、マジで?
その言葉で私は脳裏に無数のスキルを思いだす。
本当にこれ全部?
「マジですよ。世界を救った勇者様ですしね。自称では無い『本物』の女神としてこのぐらいはサービスしてあげないと。ただし、効果は若干変わるスキルもあると思いますが大体はそのまま使えるはずです」
マジで本当に全部使えるのか……。
「それに今現在、貴女が持っている持ち物までスペシャルサービスで持っていけちゃいます。どうです?凄いでしょう?」
「えっ!?荷物まで?」
本当の意味で手持ちの荷物は僅かしか無いけれど、私には【亜空間収納】のスキルがあるんだけど?
「そうです、勿論スキルでしまってある荷物も対象ですよ。ただ特殊なアイテムに関しては元の世界では使えないかもしれませんけど、あの世界は魔力が非常に薄いので」
そう言って自称女神は安心してくださいと言って意味ありげに笑った。
「そうか……そうね。じゃお金も持ち込めるのね?」
「お金も荷物扱いなので当然持ち込めますけど……。通貨が違うので使えないんじゃないですか?」
あ、それはそうか。
この世界の通貨にして結構な額の金貨を所持しているが、元の世界じゃお金として使えるはずはないか。
良くて美術品扱いか、ただの金属の塊としての価値しかなさそうだ。
クスクスと自称女神が笑っている。
私の考えが浅かったとはいえ、何か腹立たしい。
「分かったわ。それで今から帰してくれるのかしら?」
「はい、それでは帰しますね」
そう言って手を私に翳すと、不思議な輝きが辺りに満ち始め、急に意識がぼんやりとし始めた。
そしてその輝きは徐々に強くなり、私はもう辺りを見回す事さえできない。
「帰しますけど私は何時でも貴女の事を見守っています。こっちの世界に戻って来たくなったら何時でも――」
そんな自称女神の声を聞きながら、私は意識を失っていった。




