13 貴女はだーれ?
その日、私が読んでいた本は『燃えよ剣』でした。
ご存知の通り、何度もドラマや映画にもなった司馬遼太郎の名著です。
現在の新選組に対するイメージは、この書籍で決定づけられた、そう評価する人もいるこの作品。
おじい様の書斎でこの本を見つけて、思わず読みふけっていたのでした。
でも、そんな私の至福な時間は、とある出来事に酔ってジャマされる事になりました。
「――いずみ様!」
何度そう問いかけられたのか、お手伝いさんの強い口調に我へとかえる。
もー、いいところだったのに。
そう思いながらもお手伝いさんに罪は無い事は分かっているので、表面上は笑顔で接します。
「あ、ごめんなさい。どうかしたの?」
「はい、エディタ・ヴェッシャーという方から、お電話が入っています。お出になられますか?」
そう言って、手に持っているコードレス電話を差し出す。
「エディタから??……良いわ、出ます」
私は電話を受け取った。
「エディタです。その節は本当にありがとうございました」
「あー、この間も言ったけど、別に大した事はしてないから。あまり気にしないで?」
「……はい」
「それで?今日はどうして電話をしてきたのかしら?」
「……実は、ご相談したいことがあるのです。ご迷惑を掛けると分かってはいるのですが、他に頼れる方もいなくて……」
あー、そいう事ね。
「若しかして、あの誘拐事件がらみの相談かしら?」
「……そうです、はっきりとはしませんが、私はそうではないかと疑っています」
あー、それは私も気になるね。
「分かったわ。それで相談って?」
「はい、私のお友達に関する事なのですが。現在深刻な状況になっているそうなんです。それで、その内容がどうにも気になって」
「お友達?」
「はい、もし宜しければ実際に会ってご相談をしたいのですが宜しいでしょうか?いずみ様を迎えに行きます」
「わかった。では待ってます」
そう言って、エディタからの電話は終わりました。
が、不思議ですね。
誘拐事件がらみと言うから、エディタ本人の相談だと思ったのに、実際はその友人だという話なんですが。
今の段階ではさっぱり繋がりがわかりません。
実際会って詳しい話を聞かないと考えてもしょうがないか。
私は考えるのを辞めると、再び読書に熱中するのでした。
★★★★★
迎えに来たのはなーんと、エディタ本人でした。
てっきり、他の人がくるとばかり思っていたのでちょっとした驚きです。
勿論一人っきりでは無いですけどね。
車の中には運転手一人と、何もしていない人が一人います。
きっとこの二人は運転手含めて護衛なのでしょう。
まぁ、あんな事件があったばかりだもんね。
私を乗せてからというもの、車内には暫くは静寂が続きます。
なぜでしょうね?
相談事があると言ってきたのに、エディタは何も言わず押し黙ったままです。
そんな雰囲気に耐え切れずに私から口を開きます。
「それで、相談って?」
「今はまだお待ちください」
そう言って、エディタは意味ありげに眼を前方の座席へと向ける。
ん?
この護衛さん達が邪魔って事?
あー、出来るだけ人に話を聞かれたくないって事かな?
と、私は納得する。
ソレだったら内緒の話をするにはいい場所があるね。
私は声を落とすと、エディタにそっと囁きました。
「もしよかったら、ウチの本社で話をしない?警備員もいるしセキュリティもある程度は安心できると思うけど」
「宜しいのですか?……実はもう一人呼ぼうと思っている娘がいるんですが」
「うん、一人ぐらい増えても大丈夫よ。誠司さ――社長にいえばナイショ話に適した部屋を貸してくれると思うんだ。希望するならお茶やコーヒーも付くしね」
そう言って私はウインクしながら軽く微笑みました。
エディタも頷きながら、スマホを弄って何かをしているようでした。
「すみません。車を千代田区のファイナンシャルシティビルディング前までお願い」
エディタがそう言うと、運転手は頷きます。
そして再び訪れる静寂。
その間、手持無沙汰の私はじっと窓の外の流れる街並みを見ているのでした。
★★★★
『キキィー』、そんな音を立てて止まっても良さそうだったのに、予想に反して私達の乗っていた車は静かに留まりました。
「エディタ様、到着しました」
そんな声と共に扉も、これまた静かに開きます。
扉の外をみるとそこはファイナンシャルシティビルディング、30階建てにもなる高層ビルです。
このビルは全フロアを今井ファイナンシャルグループで使っていています。
日本有数の大企業だけはあり、セキュリティー的にもソレナリ以上で、一階のロビーは兎も角として、2階以上は関係者以外は立ち入り禁止となっています。
「貴方達はここまでで結構です。ここのセキュリティは安心出来ますから」
エディタは一緒に入ろうとする護衛の人をそう言って押しとどめると、私と連れ立ってビルへと入ります。
そのまま受付へと直行しようとした時、ロビーのソファーに腰かけていた人物が立ち上がると、私達の方へ駆け出して来ると共に声を発します。
「エディタ!やっと来たのね!もぅ一人で心細かったんだから!」
えっ!?
貴女誰ですか?




