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11 佐倉のお屋敷にて

 私は適当な場所でエディタをベンチに寝かせるとどうしたものかと思案する。

 これは明らかに薬かなにかで眠らされているのよね?

 そうじゃないとあの車内の騒ぎで眼を覚まさないなんて不自然だし。

 私はあらためてエディタの顔をじっとみつめる。

 スヤスヤと静かな寝息を立てて眠るその白い顔は、そんな私の思いなど知らずにとても気持ちよさそうでした。

 その白い顔を、私は手でそっと撫でます。


「人の苦労も知らないで、よくもまぁ気持ちよさそうに寝ている事ですね」


 思わず、そんな呟きを漏らしてしまった時、


「ぅぅん……」


 そんな声がエディタの口から漏れます。

 を、起きるかな?

 その時はそう思ったのですが。


「……貴女は……いずみさん?、おはようございます……」


「おはようって時間じゃないんですけどね。まだ寝ぼけているのかしら?おきれる?」


「……ごめん……なさい。とても……とても眠くて……もう少し寝させて……」


 そんな事を言い始めました。


「あ、ちょ、ちょっと!寝ないで!もう神様だって起きてる時間よ!」


「……そうですか……でも……神様は……おきていても、私は……おきれそうに……」


 そう言い残して、またスヤスヤと寝息を立てて眠ってしまったのです。

 しょうがないなぁ……。

 私は再びエディタを抱きかかえると、タクシーを探して歩き始めました。


 ★★★★★


 タクシーを拾った私が向かった先は、勝手知ったる我が家――基、誠司さんより貸してもらった佐倉の別荘でした。

 無論エディタも一緒です。

 大使館の場所は知っていたので、そのまま送り届けようとも思ったのですが、眠りこけたエディタを持っていたら絶対なんかトラブルの原因になりますよね?

 ヘタしたら犯人の一味としてそのまま拘束されちゃうかもしれません。

 なのでそのまま連れてきちゃいました。

 本音をいえばそのままベンチにおいて行きたかったのですが。

 さすがにそれはちょっと、っておもったので仕方なく連れて来たのです。

 出来るだけ音を立てないようにソロリと扉を開けたんだけど――。


「どなたですか?」


 そんな声が奥から聴こえると、パタパタと音を立てて人が現れたのでした。

 お手伝いさんです。

 そして私と両腕に抱えたエディタへ交互に視線をやると「まぁ!」と驚きの声を上げた。


「ただいま。この娘は私のお客さんだよ。ちょっと事情があって今は眠ってるけど。あ、そうそう、客間にお布団を敷いてもらえない?」


「は、はい。少々おまちを」


 お手伝いさんは慌てて客間に向う。

 私もそっと玄関にエディタを下ろすと、靴を脱いで再び抱きかかえ、お手伝いさんの後に続きました。

 そしてお手伝いさんに手伝って貰ってエディタを布団に寝かせ、「ふぅ~」と息を吐いてひと段落した所でお手伝いさんから話しかけられます。


「あ、あの。その方は一体……?いずみさんが外国に居た時のお友達ですか?」


 あー、そんな設定になってたっけ?

 都合が良いので今はその設定に乗っておきましょうか。


「えぇ、そうよ。あ、そうだ。申し訳ないけどお医者様も一応呼んでくれない?」


「あ、はい。分かりました!」


 まぁたぶん薬で寝てるだけだと思うけど一応ね?

 お手伝いさんに、そうお願いした私は、医者が来るまで客間でエディタの様子を見守っていたのでした。


 ★★★★★


「脈拍も呼吸も正常、外傷も見当たりません。今のところ眠っているだけに思えますね」


 お手伝いさんが呼んでくれた医者は聴診器を耳から外すとそう言われました。


「やっぱり、そうですか」


「……ですが、自然の眠りでは無いようです。本当に病院に連れて行かなくて宜しいのですか?」


 と、医者としては至極まっとうな事をおっしゃいます。


「えぇ、身体に異常がみられないのであればこのままで。もし何か異常が見られたらスグに病院に連れて行きます」


 そう言いつつ私は医者に対して「往診、ありがとうございます」と礼を言っておいた。

 だってさぁ~、病院にいくと絶対なんか言われたり、聞かれたりするよね?

 若しかしたら警察あたりに連絡されてしまうかもしれないし……。

 誘拐、という手段を取ろうとした以上、あの段階では薬か何かで眠らせただけで、手荒な真似はしてないと思うんだよね。

 そんな事を思いながらも、帰っていく医者の背中を玄関先で見送るとエディタを寝かしている客間にもどる。

 そのエディタはいまだにスヤスヤと可愛らしい寝息を立てて眠っています。

 寝顔だけ見ていると、まるで天使が眠っているみたいな感じね。

 そんな事を思ってしまうぐらい、可愛らしいのです。

 そこへお手伝いさんが入ってきて声を掛ける。


「もし宜しければ軽食でもお作りしましょうか?」


「……そうね、お願い出来る?実はお腹がへってたのよ」


「畏まりました」


 と、いってお手伝いさんは台所に向かって行って数十分後、暖かいスープに焼きたてのパン、そして良い香りがする紅茶を添えて戻ってきました。

 私は有り難く受け取ると、出来るだけ静かに食べ始めたのですが……。


「ぅぅん……」


 あら、暖かい食事から漂う匂いのお陰でしょうか?

 エディタが眼を覚ましたようです。

 私は一旦、食事の手を止めると、


「おはよう、ヴェッシャーさん。気分はどう?良かったら貴女も食べる?」


 そう言ってまだ事態を把握できていない様子のエディタに対し、ニコリと微笑みながらそう語り掛けたのでした。

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