09 誘拐事件発生、そして――
「それで?私に用って?」
「あ、はい!その節はどうもありがとうございました。貴女はスグに立ち去ってしまって、満足なお礼も出来ませんでしたら、ぜひお礼が言いたくて……」
別にそんな事いいのに。
でもどうして私に辿り付けたんだろう?
聞いておくべきね。
「一つ、いいかしら?」
「はい」
「なぜ、私がこことかかわりがあるってわかったの?」
「あぁ、その事ですか」
そう言ってエディタが取り出したものを見て、私は「あっ!」と声を上げた。
「この財布が大使館に落ちておりました。かなり質の良い――有名ブランドの特注品で、調べた結果、ごく少数しか作られていない、と言う事でした」
私が失くしたと思っていた誠司さんの財布です。
そっか、大使館に落としてたんだ。
まぁ落とすとしたら、あそこが一番可能性が高いとは思っていたんだけど。
しかしながら、さすが誠司さんが持っていた財布。
そんなレアアイテムだとは思わなかったな。
でも、まだ疑問は残る。
「でも、その財布からここにたどり着いたのはなぜ?ごく少数とは言え、幾つもあるものでしょう?何らかの方法でしらみつぶしに探すとしても、数日でたどり着くのは早すぎると思うのだけれど」
するとエディタは財布の中から何かを取り出すと、机の上に置いた。
それを見た私は「あー、なるほど」と呟きました。
それは『今井ファイナンシャルグループ代表取締役社長 今井誠司』と書かれた名刺でした。
「財布にはこの名刺が入っておりました。今井ファイナンシャルグループといえば外国人である私でもしっているような大企業です。その代表取締役社長の名刺が入った特注品の財布、ときたら無関係であるはずがありませんよね?」
「……ここに来た経緯は分かったわ。財布、拾ってくれてありがとうね」
そう言って私は机に置かれていた財布をさっと回収する。
中身は――よしよし、沢山はいってる。
特注品の財布なら、中身だけ別にして、さっさと財布だけ誠司さんに返した方がいいかな?
などと思っていると。
「もし宜しければご一緒に来ていただけませんか?父もぜひお礼が言いたいと願っています」
「うーん、それはいいかな?お礼が欲しくてやった事じゃないし」
そう言って私はやんわりとお断りする。
自分から頭を突っ込むのはいいけど、他人から突っ込まれるのは嫌いなのです。
「でも!」や、「しかし!」などとそれでも必死なエディタを受け流し続けた結果、やっと諦めてくれたようでした。
「じゃ、用事は済んだわね?私はこれで帰るから――」
と、言いかけた所で、
「そ、それじゃせめて送らせてください!外で車を待たせてますから!」
その言葉を聞いて、ラッキーって思いましたがちょっと考えた結果、
「もう、しょうがないわね……」
と、たっぷりもったいぶった演技でそう返事をしました。
熱心にお願いされたから、仕方なく頷いたんですよ、勘違いしないでよね!
そう言うていです。
恩と言うものは売っておいて損はないって何かの本で読みましたしね。
誰の本だったかな?
まぁ、そんな事どうだっていいか。
しかしそんな私の思惑など知るはずもないエディタは、私のその言葉にぱぁっと顔を綻ばせます。
安堵しているような、とても素敵な笑顔。
そんな笑顔を向けられたら、大抵の男性であればスグに落とせそうね。
女性であっても悪い気はしない。
まぁ自分の魅力を知りつつ、演技でそうしている可能性もありますけど。
とはいえ私は、これでタクシーを捕まえる手間が省けたのでした。
★★★★★
一緒にビルの外に出ると、何処からともなく黒い車が入ってきて私達の前に止り後部座席の扉が開く。
最初にエディタが乗り込み、「どうぞおはいりに、アナタはだれです、きゃ、何をするのです――」という台詞と共に突然扉が閉まり、黒い車は走り去ってしまいました。
その立ち去る車を眺めながら私は考えます。
これは、明らかにオカシイですよね?
何らかの事件の匂いがプンプンします。
私は少しばかり溜息を吐くと、走って車を追いかけるのでした。
と言っても普通に走って車に追いつけるはずはありません。
私はスキルを使って走っていたのです。
スキル【スプリント】。
その名の通り移動速度が大幅にアップするスキルだ。
その速度はウサイン・ボルトなんか目じゃないぐらい早い。
というか、人間に出せる速度じゃない。
時速でいうと100キロ……はないと思うけど、それに迫るスピードだと思う……たぶんね。
そんなわけで私は早々と車に追いつくと「コンコン」と後部座席の窓をノックしてみた。
車の中には3人……いや4人か。
如何にもなぁゃしぃ男が3人、内訳は運転手一人、前部座席に一人、後部座席に一人、そしてエディタの計4人。
よくよく見るとエディタはグッタリして男にもたれかかっています。
私がノックしたのに気が付いて窓をみた男が、そのまま面白い顔をして視線を窓に固定させた。
「どうも~、ねぇねぇ、その娘をどうする気?誘拐でもするのかな?身代金は幾らぐらい取るの?よかったら私にも一枚咬ませてもらえないかしら?」
そう言って私はニッコリと男に向かって微笑んだのでした。




