00 世界を救った〝勇者〟
私は魔王の攻撃に対して障壁を展開して防御する。
「これは……もう長い事もたない、かな?」
そう判断した私は防御するよりも回避を優先して突っ込む事にした。
案の定、時を置かずに防御障壁はあっさりと破られる。
回避すると言っても全部躱すのは無理だ。
私は身体がえぐられるのを感じながらも、回避行動は最小限に強引に間合いを詰めた。
剣の間合いにはいった私は、そのまま強引に剣――魔剣ホフド――を足元に向かって薙ぎ払った。
間合いは十分、避けられなければ確実に切り落とせる。
そんな私の攻撃は魔王が持っていた武器によって弾かれてしまった。
通常の武器ならば簡単に切り裂ける攻撃のはずだったが、いともたやすく防がれてしまったことに驚きは無かった。
むしろ驚きはその後だった。
「……重い」
弾かれると同時に手がしびれるような感覚が襲う。
子供が適当に書いた、落書きのような姿の魔王のどこにこんな力があるのか不思議になるくらいだ。
そんな事を思いながらも、おもむろに後ろに大きく飛んだ魔王を追いかけるように私は間合いをつめる。
そしてその勢いを殺さぬよう大きく振りかぶった剣を魔王に向かって叩き付けた。
しかし……。
渾身の力を込めて放った剣は全て魔王の手にもつ武器によって弾かれてしまった。
「……早いし重い。力は私以上?」
ここは危険だ、逃げるべきだという考えが一瞬頭の中をよぎった。
「だけど、それも簡単にはいかないか」
チラリと後ろを見ながらその考えを振り払った。
後ろには半ば無理やり付いてきた聖女がいる。
まぁぶっちゃけ聖女がどうなろうと私にはどうでもいいが、聖女を置いて私だけが逃げると色々と今後の立場がまずい。
それに聖女の戦闘能力は私に次ぐ、私達二人で倒せなければ魔王を倒すのも不可能に思える。
なので切り札を使う事にした。
私は自ら力任せに突っ込む、回避も防御も何も考えない動きだ。
そして剣の間合いに入ったと同時に身体を回転させると、回転の勢いを崩さずに魔王に叩きつけた。
相手の身体に刃が深く食い込み、血が吹きでると同時に内蔵が飛び出る、そう今までの敵であればそうなっていたはずだった。
しかし感じられた手ごたえはそれとは違う。
まるで大地の硬い岩盤を切りつけたような衝撃が剣を通して手に、そして腕に伝わる。
魔王は腕が奇妙に光ると、私の攻撃をそのまま腕で受け止めたのだった。
「っつ!」
魔王は剣を受けとめた別の腕を私に翳す、すると何やら魔法陣のような物が浮かび上がり私の剣、魔剣ホフドを纏っていた魔法の刃が消え失せた。
それと同時にいつの間に展開していたのか、魔王の背後にある魔法陣から、一筋の光線に向かって放たれようとしていた。
それを私は必死に回避しようと身体を捩る。
しかしその攻撃は避けきれることは無かった。
その光線は私の左半身に直撃し、胴体部分が大きく欠損する。
そして私の身体が大きく弾けると同時に、肉片がまるで生き物のように魔王に取り付いたのだ。
スキル【散華】
自らの肉体を犠牲にして相手を拘束するスキルだ。
あまり使いたく無かったが仕方がない。
身体の上半身半分が失われても私は死ぬことはないのは経験済み。
しかし、かなりの激痛を伴うし、暫くは不自由な生活を送る事になるのであまり使いたい技ではなかった。
身体が弾けた激痛のうめき声をなんとかかみ殺し、魔王をじっとみつめる。
甲斐あって魔王の動きは何とか止まったようだが……。
(止まってもこれは十数秒がいいところかな?)
動きは止まったものの、完全に拘束出来たとは言い難かった。
でもそれだけの時間があれば十分だ。
私は他人をあまり信用するタチではないのだけれど、この場合は仕方がない。
そして私は後方にいた人物に合図を出した。
そして最後ぐらいはその人物に任せる事にした。
私と同じ勇者の一人であり、聖女の異名ももつドッティ・サッカレー。
ドッティが、彼女のもつ剣――聖剣セクエンス――と呼ばれる武器が魔王を一刀両断した。
だけどそれだけでは安心出来ない、事実私だったらそれでは死なないのだから。
だから私は残った身体で最後の力を、全力の魔力を魔剣ホフドに込めた。
「吹き飛べ!」
その言葉と同時に剣先から闇属性の魔力が放出される。
放たれた黒い光線が魔王の身体を捕らえると球状に膨らみ、魔王の身体を蝕んでいく。
そしてその球が徐々にしぼんでいき、完全に消え失せた時には魔王の姿は何処にもなかった。
だが私はそれで安心せず、あたりを素早く見回したが、気配も何もかもが消失しているのを確認すると漸くゆっくりと息を吐いた。
「た、倒したの?」
そんな台詞を吐きつつ、ドッティも力を抜く。
(気を抜くのはまだ早いんだけどな)
私は魔力も体力も消耗し、だるくなったなった身体を引きずるようにして、魔王が消失したあとに残された武器に手を伸ばした。
――神剣エクスカリバー――。
そう名前を付けられたその武器に触れた瞬間、私の腕に電撃が奔った。
(ふーん、やっぱ抵抗されるんだ)
腕に走る激痛を無視し、私はそのまま強引に柄を握る。
すると剣はまるで暴れるように周囲に魔力を放出する。
適性の無いものが聖剣を触った時に起こる反応そのままだ。
だけど私はそのまま柄を握り続けた。
すると……。
神剣が大きく震えると二つに分裂し、一つは私の手の中に、もう一本はドッティの足元へと突き刺さる。
「神剣が分かたれ、元の姿に戻ったの?」
「えぇ、そうね。たぶん貴女の足元にあるのが聖剣カリバーンじゃないかしら、そして私の手の中にあるのが魔剣グラム。神剣が無い以上、もう魔王は現れないはずよ」
そしてその私の手に中にある魔剣をみつめながら、長かった戦いもこれで終わった、と思った時、私の周りに不思議な光が満ち溢れて来たのを気が付いた。
その神々しい光は徐々にその光量を増すと、私にはあたりを見回せないぐらいの眩しさが私を包んだ。
ドッティが叫ぶ。
「貴女、その光は――」
私はその言葉を最後まで聞く事は出来なかった。




